第17話 そして猫は居なくなった
まだまだ猫捨ては続くのか? 少し楽しみにページをめくった。
―――何回捕獲器を仕掛けてもかかったのはハクビシンとイタチばかり。たまには狸もかかるが、やはり猫が慌てる様子が一番面白い。ハクビシンは威嚇が怖いしクソを漏らす。イタチは臭い。タヌキも獣臭い。捨てに行くのが面倒な奴らばかりが捕獲器に捕まる―――
猫を捨てに行けずイライラする叔父の様子が記されている。
―――ああ、猫が居ない。我が家の家庭菜園に入り込む猫が居ない。ガレージで悪さをする猫が居ない。家に入り込んで魚を咥えて走り出す猫が居ない―――
「叔父さんが捕まえて捨てまくったから居なくなったんじゃないかなぁ?」
捕獲器を仕掛け続けるうちに野良猫は減り、外飼いだった猫は行方不明になる事を恐れた飼い主が家から出さなくなった。結果として野良猫以外の野生動物ばかりが叔父が設置した捕獲器に入るようになったらしい。
―――ああ、猫を捕まえたい。カゴから出られなくて大慌てする猫が面白い。必死になって捕獲機の中で暴れる猫の様子は滑稽だ。威嚇してくる猫をからかうのが面白い。出してくれと甘え鳴きする猫がかわいさ余って憎さ百倍。ああ、猫を捨てに行きたい。猫を遠くへ、とんでもない場所へ捨てに行きたい。誰も居ない採石場跡、住処から数十キロ離れた湖へ。なのに猫は居なくなってしまった―――
「うん、どう考えても叔父さんが悪い」
叔父が猫捨てを始めてしばらくした頃、TNRと呼ばれる野良猫を去勢・避妊手術する地域猫活動や保護した猫の飼い主を探す里親募集が行政で行われ、結果として外で自由に生きる野良猫の数は激減したと聞いた。
このページ以降、叔父の捕獲器に猫が入ったとか、猫を遠くへ捨てに行った記録は無かった。叔父は猫捨ての呪縛から解かれたのか、それとも単に野良猫がいなくなっただけなのか。それは誰も知らない。
「叔父さんは猫を捕まえるのが好きだったのだろうか、それとも遠くへ捨てに行くのが楽しかったのだろうか?」
叔父を魅了した『猫捨て』はどれだけ楽しいのだろう? 野良猫が激減したのも今となっては過去の話。今でも野良や外飼いの猫は居る。無責任に野良猫に餌を与える餌やりおばさんも居る。
「錆を落して塗装をして、可動部がスムースに動く様にすれば……」
俺は叔父が残した捕獲器の錆を落し、ラッカースプレーで塗装をした。ヒンジにシリコンスプレーを吹いて動きが滑らかになった捕獲器は『次の得物はどこだ?』とでも言いたげだ。幸いなことに我が家の周辺では野良猫を見かける。
「もしかすると一匹くらい捕まえられるかもしれない」
翌朝、捕獲器の中に猫が居た。丸々と太った茶色の猫だ。首輪はしていない。恐らく餌やりおばさんに餌付けされている野良猫だろう。
「さぁ、行こうか」
俺は捕獲器を車に積んだ。
猫捨て 京丁椎 @kogannokaze1976
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