第16話 十四匹目

 ○○さん宅が取り壊しをされ、行き場を失った猫は自動車に轢かれたり病気になったりで徐々に数を減らしたようだ。中には新しい寝床を求めてさまよった挙句に他の猫の縄張りへ入ってしまい怪我をした猫も居たと日記に書かれていた。


―――ズタボロになった猫が捕獲器に入っていた。最近は随分野良猫が減ったようで見かけないと思っていたが、しぶとい猫は生き残っている―――


 喧嘩をして病気になる猫は多いと聞いたことがある。猫を外飼いすると喧嘩が原因で猫エイズに感染したり白血病になったりする。飼うなら家から出さない様にと市の広報に載っていた。


―――怪我をしようが病気になろうが知った事ではない。もちろん捨てに行く―――


「またY湖かな?」


―――市の予算を投じて森林保護をしている。そもそも動物は自然の中で過ごすのが一番だ。だから自然の中でのびのび生きていただく―――


 叔父の日記には何も書かれていないが、市の予算を投じて保護している森林は『B湖水源の森』に違いない。当時はどのように思われていたか知らないが、二年ほど前に市の幹部と森林組合の癒着や贈収賄で大騒ぎになった水源地ならぬ震源地だ。


―――今回は捕獲器から脱兎のごとく飛び出す事は無かった。蓋を開けた途端に顔を出して辺りを見回し、ソロリソロリと森に入って行った。猫よ原始に戻れ―――


 捕まえて無理やり遠くの森へ連れて行かれて『原始に戻れ』なんて言われたら猫もたまったもんじゃないと思う。


 今のところB湖水源の森に猫が居ると聞いたことは無い。自然の中で生き抜くことが出来なかったのか、それとも怪我が原因だったのか。猫のその後は誰も知らない。


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