第14話 十二匹目
餌やりおばさんの○○さんがどのようなやり取りを金融業者としたのか、今となっては知り様が無い。ただ、数か月後に廃墟と化した猫屋敷は取り壊されて更地となり、今も空地のままで現在に至る。
―――○○さんが金融業者に連れて行かれた数か月後、○○さん宅に足場が組まれて家屋の解体が始まった。金融業者が手配したとはいえ作業自体はキチンとしたもので周囲にホコリが飛ばないように養生され、解体中は散水がされていた。それでも猫の寝床になっていたからか悪臭が漂っていた―――
それでもご近所が悪臭に文句を言う事は無く作業は滞りなく進んだようだ。問題は寝床を失った猫が周囲のご家庭に迷惑をかけた事だった。叔父宅以外の家庭菜園や農機具小屋、そして車庫などを住処に猫は生き延びようとしていたらしい。
○○さんが金融業者に連れていかれたあとも行政は動こうとせず、叔父の猫捨ては続いた。
―――○○さん宅を巣にしていた野良猫が我が家以外にも迷惑をかけている。今日の隣組の会合で組長が行政に問い合わせると言っていたが、そんな事をするより捕まえて捨てに行く方が早い―――
隣組は戦時中に出来た地域のまとまりだ。お互いに監視する意味もあったらしい。その隣組の集まりから数日後に十二匹目の猫が捕獲器にかかった。
―――○○さん宅で餌を貰っていたであろう大きな猫を捕まえた。白地に茶色い模様をしている。体は大きいが痩せている、恐らく餌を貰えなくなって腹を空かせてうろついていたのだろう。餌を与えられて狩りを覚えていない家猫が野生で生きて行くのは大変だろう―――
叔父が『大変だろう』なんて憐れむのは遠くへ捨てに行く合図みたいなものだ。お約束通りこの後『○○まで捨てに行った』と書かれているに違いない。
―――必死になって前足を隙間から出してカゴから出ようとしている。慌てる様子が滑稽なので二時間ほど観ていたら諦めたのだろう。おとなしくなったので捨てに行く。今回は○○にある採石場跡へ捨てに行った―――
○○採石場跡、叔父が猫を捨てたのは採石業者が廃業したばかりの頃だ。今は雑草が生い茂った空き地だが、当時は草木が無い戦隊物の戦闘シーンに使われ相馬場所だったと聞いたことがある。実際にドラマの撮影に使われたし、そのドラマも観た。
―――何もない所へ放されて途方に暮れていた。ちょっと面白いと思った―――
日差しを避ける木陰も無く、身を守る隙間もない場所へ放された猫はどうなったのだろう。採石場跡に猫がいるみたいな噂を聞いたことが無い。恐らく生き延びる事は無かったのだろう。
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