第28話 ミリア、国王にド忘れされる
「お前は…」
ん? あれ国王の反応が鈍い。もしかして私のこと忘れていたりして? いや、さすがに元とは言え、息子の婚約者だった人を忘れる訳ないよね?
確かに最後に会ったのは1年近く前だから、会っていなかった間に成長して見た目も多少変わったかもしれないけど、わからなくなるほどじゃないと思うのだけれど。
「あぁ、グレテリウスの元婚約者か」
あ、良かった。完全に忘れていたわけじゃなかったようね。……ド忘れはしていたようだけど。
「ええ、そうですよ」
「何だ、振られた腹いせに蛮族の協力でもしたのか? ぐふっ、それとも其方の体を売って協りょぶっ!?」
あ、国王が下種なことを言おうとする前に皇子に蹴られた。うん、まぁ。気持ち悪い笑みを浮かべていたから、蹴られても仕方ないのだけどね。
「オルセア皇子。さすがにここで殺さないでくださいよ?」
「あぁ、すまない」
国王の発言が気に入らなかったからなのか皇子は私が止めるまで何度も蹴り続けていた。このままだと死んでしまう、と言う程強くは蹴っていなかったのだけれど、止めなければずっとしていたかもしれない。
「それで、国王」
「うっ、ぐっ、何だ」
「先ほどオルセア皇子からもありましたが、こちらに王位を明け渡していただけませんか? 今、貴方が受け入れてくだされば、後の流れが穏便、且つ、事が滞ることなく進められるのですけれど」
「ふん! だから何故そのような事をしなければならない」
まあ、予想通りと言うかわかり切っていたけど、そう言うよね。このまま明け渡してくれれば周辺国とかの対応が楽でよかったのだけど、仕方ないわよね。
「仕方ありませんね。まあ、貴方を捕らえた段階でことらの目的は殆ど達成していますので、王位の明け渡しはそこまで重要な事ではないのですよ。元からこうなるだろうと予想は建てられていましたしね」
「はっ、グレテリウスは其方との婚約を破棄して正解だったと言うことだな。蛮族に股を開くような者が王家に入らなくて清々する」
蛮族、蛮族って国王はかなりグラハルト商国に洗脳されているのかもしれないわねぇ。
入って来る情報を鵜呑みにして、碌に自分で判断するってことが出来なくなっているのかも。たぶん、それもグラハルト商国の策略の一部なのでしょうけど。
「先代の国王は良い方でしたのに、なぜ貴方はここまで愚かな王になってしまったのでしょうか」
先代の国王も別に優秀だった訳じゃないのだけどね。碌に情報を精査しないでグラハルト商国と友好関係を結んでいるし。ただ、この国王よりも数十倍マシだったことは確かだけど。
「先代? あの愚図が私よりマシだと? あの碌に良し悪しを判断出来なびゅっ!?」
あ、今度は取り押さえていた兵士に殴られた。と言うかこの国王、発言が迂闊過ぎない? 敵に囲まれているのに何で相手を煽るようなことを口に出すのか。その辺も国王として足りなすぎる。
「な、何をする!」
「貴様に先王をそう呼ぶ権利はない。何においても劣っている貴様が先王を馬鹿にすることは許さない。確かに先王は貴様に王位を継がせた失敗を犯した。だが、それ以外は真っ当にベルテンス王国を導いた。なのに何故、貴様のようなゴミに後を継がせたのか、そこだけが私には理解できない」
「き、貴様だとっ!? われぐぉっ!?」
ああ、国王が兵士によって引きずられていった。と言うかゴミの部分は無視なの? それとも気付かなかったのか。
と言うか兵士も不満とかを結構ため込んでいたのかもしれないわね。国王を罵倒していた兵士の年齢からして、先王の時代から仕えていたみたいだし。
とりあえず、国王が退場したから一応ここは幕引きと言うことになる……のかな?
いきなり国王が引きずられていったから場が唖然としているけれど、軍の人も何人かついて行っているから問題は無いと思う。
実は演技でした、とかがあっても対処できるだろうしね。
いや、あの兵士の態度からしてそれは無いだろうけど。
さて、国王を確保したし、後は王城を制圧して腐敗王政の重鎮を捕まえれば侵略は達成したと言えるわね。
たぶん、その辺りはアルファリム皇国軍がやってくれるから大丈夫だと思うけど、後は何をしたらいいのかしら。
王が外に運ばれて行ってから何人か軍人が皇子に報告に来ているから、着々と侵略は進んでいるみたいなのだけれど。
あ、そう言えば第2王子であるグレテリウスは見つかったのかしら。普段通りなら城の中で生活しているし、居ると思うのだけど。
「オルセア皇子。現段階で第2王子の確保は出来ていますか?」
「いや、まだ確保どころか目撃もされていない。何処かに隠れているとは思うけれど、もしかしたら既に城から脱出しているかもしれない」
うーん。まだ見つかっていないのか。脱出は多分ないと思うのだけど、そもそもグレテリウスはあまり判断力は無いし、行動力もない。だから城が攻められていたとしても自分から脱出する何て選択はしないはず。
ただ、一緒に居たあの令嬢がどう判断するのかがわからないから何とも言えないのだけれど。
ん? いや、そう言えばゲームの侵略ルート、と言うかバッドエンドルートだと2人とも死んでいるのよね? と言うことは、まだ城の中に残っている可能性は高いのでは?
「ひゃっ!?」
「うおっ!?」
突然、城のどこかから爆発音が聞こえ、城が大きく揺れた。私は考え事をしていたため突然の揺れに対応できずにバランスを崩してしまった。
「おっと」
私が倒れそうになっているのに気付いたオルセア皇子が直ぐに手を伸ばし、体を支えてくれた。
「あ…ありがとうございます」
「いや、構わない。が、まさか城の中でも爆弾を使って来るとは。大分追い詰められているのか? それとも見られては困る情報でも消しているのかも知れないな」
む? それは困るわね。王族のすげ替えにはその辺りの情報は必要だから、消されたら大分困ることになるのだけど。
「それは困りますね。とりあえず、爆発があった所に行くべきでしょうか」
「まあそうだな。しかし、ミリアさんは行かない方が良いと思う。ただでさえ城の中で爆弾を使ってくることがわかったのだから、出来れば城の中からも出ていて欲しいのだけど」
「いえ、それは出来ません。このことに深くかかわっている以上、半端な状態で手を引くことはしたくありませんので」
「そうか。……ならなるべく私たちが先行するから、ミリアさんはその後についてくる形にしてくれ。でないと何かあった時に庇いきれない」
「…わかりました」
庇うって、いや、今後のことを考えると私よりオルセア皇子が生き残らないと拙いのだけど。
庇うとか、守るとか言ってくれるのは嬉しいのだけど、私がここで死んだところで大きな影響はあまりないのよ? なのに何で、当たり前のように私を庇おうとしているのかしら。
「さて、行くぞ」
皇子がそう近くで待機していた軍人に指示を出して、爆発が起きた場所へと向かった。
そして爆発があった地点に到着すると、そこには多くの城の一部だったものの破片や、爆発した時に近くに居たであろう人の死体が多く散らばっていた。
中にはまだ息のある人もいるのだけど、おそらくこの世界の医療技術ではもう助からないくらい。
そんな中に、見覚えがある人物が居ることに気付いた。
「グレテリウス王子」
怪我の具合から、爆発地点から多少離れた位置に居たのかもしれない。
ただ、爆発の際に飛び散った城の建材が当たったのか、爆風に飛ばされたのか、少なくとも複数個所の骨折と裂傷が見られた。
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