第27話 謁見の間にて

 

 安堵した様子のオルセア皇子に抱きしめられる。皇子の後ろから続々と軍の人が来るので一応合流は成功したと言うことになるだろう。タイミング的にギリギリだったけど。

 気付くといつの間にかに、奇襲をかけて来た他の兵士は対応していた私兵と後から来た軍人によって倒されていた。


 うーん、皇子に抱きしめられているのだけど、今は戦いの最中な訳よ。だからね。


「皇子。助けていただいたのは有り難いのですけど、その、鎧が」

「あっ」


 いやもう、金属製の鎧を付けた状態で抱きしめられると硬いし、角が当たって痛いのよね。引き寄せられた時は結構勢いが付いていたけど、抱きしめる時は優しくしてくれたからそこまで痛くはなかったけど、多少痛かったのは事実だし。


「すまない。鎧を着ていることを考えていなかった。申し訳ない」

「皇子が来てくれなかったら駄目だったと思うので、それほど怒っていないのですよ」


 謝って来る皇子を窘めるように言葉を返す。


「まあ、とりあえず合流できましたのでこの後のことですけれど」


 庭園の方に視線を向ける。皇子も私につられて庭園の中を見つめ、他の軍人に指示を出していた。


「このまま進むと確実に奇襲を受けることになりそうだ。だから、何かが潜んでいそうなところにそれで攻撃する」


 そう言って皇子は軍人が持っていた重そうな荷物を指した。それは小さい大砲のような物だった。たぶん籠城した時に使うつもりだった物だと思う。


 そして皇子が指示を出すとその小型大砲が発射され、発射された火の球がバリケードの一つを破壊した。いや、何か鉄球を飛ばすと思っていたのだけど、何で火が付いた球が飛んで行ったのかしら?

 小型大砲から火の球が飛んで行ったことに戸惑っていると、突然バリケードが爆発した。


「えっ!?」


 皇子が私に覆い重なる。爆発した場所からそこそこ離れているから爆風はそこまでこない。でも、爆発地点に在ったバリケードの破片などが周囲に勢いよく飛び散った。大半は盾でその破片から身を守っているが反応が遅れた者の中には破片が直撃したのも居たようだ。


「あ…ありがとうございます」

「いや、ミリアさんを守るのは当然のことだ」


 嬉しい。そう思い気が緩むと同時に、今は戦いの中だから気を引き締めなければと思い、複雑な気持ちになる。


「他の物も壊しておいた方が良いな。後で爆破されたら面倒だ」


 皇子がそう指示を出すと、他のバリケードに向かって小型大砲から火の球が打ち出された。


「え、あれってあの火の球が爆発したんじゃ?」

「いや、さすがにそんな危ない物を大砲で打ち出したりしないよ。手元で爆発したら唯じゃすまないし。たぶんあの障害物の後ろに爆弾を持った兵士なんかが居たんじゃないかな」


 ああ、なるほど。火が付いた球を飛ばしているのだから、それが爆弾だったら危険すぎるわね。それにこの世界にスイッチ押したら爆発するような物はまだないだろうからそうなるのか。爆弾を持って待機していた兵士はご愁傷様ね。


「しかし、まさか爆弾を使って来るとは思わなかった。公爵からは多少情報が外に漏れていると言う報告は貰っていたのだけど、まさかこんなことをするとは」

「本当ですね。まあ、相手からしたら欲しいのは国であって、物や人はそこまで重要ではないと言うことでしょう」


 と言うか、お父様は情報が洩れていることを知っていたのね。でも、何で私に伝えてくれなかったのかしら。まさか、忘れていただけとかではないわよね?


 そうこうしている内に庭園に設置してあったバリケードは全て破壊され、同時に爆弾も処理された。その間に、いくらか兵士が逃げ出しているようだけど、それは一部の軍人が居っているようだから私たちは無視していいわね。




 庭園を抜けて、城の中に入った。

 王城は入って直ぐの所はホールになっている。普段であれば夜であろうとメイドや兵士が待機しているのだけど、今は私たち以外の人は見つからない。


 もしかしたら、先に入って行った軍人で組まれた制圧隊が排除しているのかもしれないけど。


「とりあえず城内に残っている奴らは確実に確保しろ! 抵抗された場合は致しかた無いが、なるべく攻撃はするなよ!」


 城の内部にまだ残っている人を確保するために先行していった軍人に対して、オルセア皇子が指示を飛ばす。


 私はこのまままっすぐ王族が普段いる場所へ向かい王と残っている王族の説得または確保することになっている。おそらく説得は出来ないので、ほとんど確保するために行くようなものかもしれない。


 城の奥に進んで行く。一緒に進んでいるのはオルセア皇子と10人ほど。王の近くは厳重に守られているだろうからもう少し人が欲しいのだけど、オルセア皇子曰くこれで十分とのこと。

 本当に大丈夫なのかしら?


 奥に進んで行くと、謁見の間から光が漏れて来ていた。

 いや、何であからさまにここに居ますって感じになっているのかしらね? まあ、罠の可能性もあるけどね。


 周囲を警戒しながら謁見の間を覗く。

 すると謁見の間の中央付近にある豪華な椅子に大きな男が堂々と座っているのが確認できた。その近く、と言うか周囲には20人以上の兵士が守りを固めているので、たぶんあれが王なのだろう。


 何で、だろう、なのかと言うと、ミリアの記憶にある王の姿と違い大分横に大きくなっているからだ。

 まあ、最近は贅の限りを尽くした生活をしていたと聞いていたから、別に急激に太っていたとしても不思議ではないのだけれど。


 近くに居るオルセア皇子に手振りで確認を取り、先に軍人が謁見の間に突入した。


「ふん、来たようだな。我が国に侵略している蛮族どもが」


 突入して直ぐに王が声を上げた。と言うか、たぶん急激に太ったせいもあるのだろうけど、大分苦しそうな話し方ね。このまま行ったら成人病で早死していたかもしれないわね。まあ、その前に処刑されて死ぬことになるのでしょうけど。


「私たちは無駄な戦いはしたくない。出来れば穏便に王位を明け渡していただきたい、ベルテンス国王よ」

「はっ、何故そんなことをしなければならない。我が王だ」


オルセア皇子の問いを王は馬鹿にした態度で一蹴した。


「ならば仕方ない」

「数で負けているのに気づいていないのか? やはり蛮族は碌に考えることも出来ないようだな。やれ」


 王がそう指示を出すと王を守っていた兵士が剣を抜き、こちらに向かって走り出した。ただし、指示に従った兵士は半分だけだったけどね。


「ぬ? お前ら何故指示にしたごっ!? ぐぅふっ!」


 指示に従わなかった兵士が王を椅子から引きずり下ろし、王の体を床に押さえ付けた。


「お前っ! 何故我を攻撃する。裏切ったのか! 国を見捨てるつもりか!?」

「いえ、これは国のためですよ。貴方が王であり続ける限りこの国は崩壊し続ける。故に貴方には王の座から降りていただきたい、愚かな王よ」


 ああ、なるほど。兵士の中でも協力者は居たのね。それもかなり真っ当な考えを持った人が。


 仲間によって王が拘束されたことに戸惑いを隠せない兵士を軍人は躊躇なく倒していった。そして、完全に動ける敵兵が居なくなったところで私の出番になる訳よ。まあ、説得する訳だけど、王の態度を見る限り無理なのよね。


「お久しぶりですね。ベルテンス国王」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る