第26話 計画の始動

 

 計画当日。日が沈む時間帯に、多くの人数がしかし静かに王城へと向かう。今回の計画に賛同してくれた貴族は合計で9。決して多くは無い。

 今、私と一緒に王城に向かっているのは15人程度。少ない、と思うかもしれないけれど、そもそも私は他の陽動による混乱に乗じて城の中に気付かれずに入る事を目的としている。それを考えればむしろ多い方だと思う。


 今の所、まだ他の場所で突撃が開始されていないようで辺りは静かだ。出来れば大きな戦闘が起きない状態で城内を制圧したいところだけれども、どうなる事か。


 幸いかどうかはわからないけど、王城付近は貴族の家が立ち並んでいる。しかも、既に王国内、王都内から脱出している貴族が多いため、殆ど人がいないため人的被害が出にくくなっている。残っているのは腐敗政権に加担しているろくでもない貴族ばかりなので、酷い言い方をしてしまえば死んだところで問題は無いのだ。


 しばらくして、アルファリム皇国が攻めている方向から鈍い音が響き、地面が少しだけ揺れた。

 おそらく侵略軍が大砲を使ったのだと思う。 確かアルファリム皇国が攻める方には軍の関係施設があったはず。さすがにこんなに早く、オルセア皇子の指揮で何かあったことがわかるようなことをするとは思えないので、その辺りで抵抗されてやむなく使った感じかもしれない。


 しかし、これでこちらが王城に近づきやすくなったと思えばいいのかもしれない。ただ、王城内の警備が厳重になる可能性が上がるから、その辺りはあまり良くないかもしれない。


 大砲らしき音に気付いた時に止めた足を動かそうと周囲を確認して安全を確かめていると、いきなり爆音が鳴り響き、閃光が夜闇を照らした。


 え? 何…って爆弾? いや、そんな物はなかったはず。いや、大砲を打ち出す時に使うから火薬自体はあるけど、爆弾単体で使える物は…。

 まさか、ダイナマイトとかじゃないわよね? 確かベルテンス王国って鉱山を持っているからそこで似たような奴が使われている可能性はある。いやでも、それをここで使う? しかもあの方向はお父様が指揮している陽動隊が居る方向じゃないの? 大丈夫であって欲しい、そう思うけど今はそれを確認できる状況じゃなくなった。


 ん? あぁ、なるほど。グラハルト商国として考えると、別に被害が増えても良いのか。欲しいのは国であってそこに住んでいる人ではないし、物でもないのだから。むしろ被害が増えた上に人が減った方が支配しやすいから、態と被害を増加させるために爆弾を使っているのかもしれない。


 これ以上の被害を増やさない様にするためには早く王城に到着して、その辺りを指揮している人間をどうにかしないといけないわね。

 そう思いより早く移動する。そして、王城付近に近づいたところであまり予想していなかった事態に脚を止めた。

 何時もならいないはずの兵士が城内の入り口を固めていたのだ。

 

 これだと城の中に入れないわ。と言うか、ここまで対応が早いとなると、どこかから情報が漏れていた可能性がありそうね。

 別の入り口から入るべきか、このまま多少の犠牲を出してでも早く事態を収めるために正面突破すべきか悩んでいると、私たちとは違う方向からアルファリム皇国軍だと思われる集団が城内の入り口を警備していた兵士に突っ込んで行った。


 オルセア皇子は居ないみたいだから別動隊かしら。いえ、それは今考えることではないわね。この隙に城内へ入ってしまいましょうか。



 まあ、城内に入ったと言っても城そのものの中に入ったのではなくて、城の手前にある庭園に入ったところなんだよね。一応、城から伸びている建造物で囲まれているから庭園も城の一部ってことになるから、城内って表現になるらしい。


 そして本格的に城の中に入る前に皇子が率いる軍と合流することになっている。私たちは最短の道を使ってきたから早く着いたけど、皇子はまだ来ていない。いや、入る時に軍の一部が来ていたからもうすぐ来るとは思うけど。


 庭園の中には完全に入らないで中を確認する。城の手前にある庭園は式典とかで使用するためかなり見晴らしが良い。だから敵を見つけ易くはあるのだけれど、同時に私たちも見つかりやすいと言うことにもなる。


 で、庭園の中を確認したところ、どうもバリケード的な物が無数に置かれている。これで、こちらの行動が完全にバレていたことが明るみに出た訳だ。おそらく、いくつかのバリケードの裏には兵士が隠れているのだろう。


 これは皇子が来るのを待った方が良いかもしれない。私と一緒に行動している人たちは賛同してくれた貴族家に仕えている私兵だ。なので体は鍛えているし、武器を扱う技術もある。ただ、地の利があちらにある状態で突っ込むのは愚策でしかない。


 やはり皇子を待つべきよね。そう判断して他の人にそう指示を出そうと庭園から視線を逸らした瞬間、私たちから一番近い位置にある植込みの影から兵士らしき影が飛び出してきたのを視界の端に捕らえた。


「っ!」


私はそれに気づき、咄嗟に左手に持っていた小さめの盾を庭園側に向けた。


「はあっ!」

「くっ!」


 飛び出してきた兵士が振り落としてきた剣を盾で受け止める。盾から鈍い音が鳴り、私の腕に重い衝撃が走った。まずい。他にも兵士がこちらに向かって来るのが見える。まさか対して大きくない植え込みの陰からいきなり出て来るとは思っていなかったから、一緒に来ていた私兵の反応が良くない。


 いや、ベルテンス王国はここのところ平和な時期が長く続いていたから遠征とかに行くこと兵士とは違って、そう言ったことのない私兵の戦闘経験はほとんどなかったのかもしれない。それを考慮するのを忘れていたし、まさかバリケードに意識を向けさせて近くの植え込みから奇襲されるなんて考えていなかった。


 ようやく私兵が近づいて来ている兵士に反応して応戦し始めた。

 って、え? まって、私の前に居る兵士は無視するの? 嘘でしょ? さすがに正面から兵士と戦うような訓練何てしていないから、そろそろ腕が持たないのだけど。


 いや、本当にまずい。あ、盾が弾き飛ばされた。

 どうしようと焦る私を見て兵士の表情が楽しそうに歪んだ。そして、私の頭…ではなく腕を狙って兵士は剣を振るってきた。おそらく1撃で殺さないようにするためだ。甚振って殺す積もりなのか、痛めつけてからお持ち帰りするつもりなのかはわからないけど、確実に私の状況は悪い。


 剣を避けるために後ろに下がる。元より殺すつもりのない剣は私の前すれすれを通り過ぎた。しかし兵士は、躱されたことが気に食わなかったのか表情が険しくなった。そして、今度は完全に私を殺すつもりで剣を振り落としてきた。


 あぁ、これは躱せない。少なくとも最初の攻撃より早いし、さっきの攻撃より確実に当てるつもりの攻撃だ。多少、護身術的な物を齧った程度のミリアでは躱せるものではなかった。


「ミリアさん!!」


 後ろから皇子の声が聞こえたと思ったら前に居た兵士が吹き飛んだ上に血を流して地面に落ちた。


「良かった。間に合った」


 ああ、今の登場の仕方は物語に出て来る王子みたいね。オルセア皇子。

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