計画の実行

第25話 公爵家にて

 

 お父様とオルセア皇子は挨拶もそこそこに、我が家で一番厳重に警備されている応接室に入って行った。計画のすり合わせをするのだと思うけど、何か問題が出ないと良いわね。


 ああ、厳重に警備されていると言っても、警備している人が多いのではなく単純に窓が無い上に通路の突き当りに部屋があるってだけ。要はこの部屋は外から中が見られなくて音も殆ど漏れないと言うことね。

 だから今回みたいな、絶対外に情報を漏らせない場合にだけ使われる部屋。まあ、毒ガスとかが充満したら逃げられない欠陥部屋だけど、この世界にはまだそう言った物が無いようだから問題ないとも言えるのだけどね。


 2人は1時間もしない内に部屋から出て来た。2人の様子を見る限り問題は無かったようだ。良かった。


 皇子はこのまま直ぐに前線基地へ戻るらしい。ここに居てもやることは無いし時間の余裕もないのだから仕方のないことだけど、もう少しゆっくりして行って欲しいとも思う。ここまで馬車での移動ではなく徒歩での移動だったし、ここの所侵略のことで忙しそうであまり休んでいる所を見ていないから絶対に疲れていると思う。


 皇子が屋敷から出て行こうとしている所に声を掛けても良いのか悩んでいると、そんな私に気付いたのかそれとも元から声を掛けるつもりだったのか皇子が近づいて来た。


「ミリアさん。…ん? どうかしましたか?」


 あ、これは元から話しかけて来るつもりだったのか。たぶん近づいて来てから私が微妙な表情をしているのに気づいて、それが何なのか気になった感じか。


「いえ、ここの所休んでいる所を見ていないので、直ぐに出て行って大丈夫なのか心配になりまして」

「あぁ、これくらいなら大丈夫だよ。これでもしっかり訓練しているからね」

「そうですか」


 確かに皇子の疲れている様子は一度も見ていないけれど、疲れって一気に来る時があるからしっかり訓練しているくらいだとあまり安心はできない。


「ミリアさん。心配してくれてありがとう。さすがに駄目だと判断したらしっかり休むから安心してください」


 オルセア皇子はそう言うと私の髪を撫で、次第にいつもと同じように頬を撫でて来た。そして頬を撫で終わったと思ったら私の体を軽く抱きしめて来た。まさかここでこのようなことをしてくるとは思っていなかったので、碌に抵抗も出来ずそれを受け入れることになった。私が抵抗しようと思った時には既に背中に回された腕は解かれ、皇子の体は私から離れ始めていた。


 解放された、そう思うと同時に少しの寂しさを感じていると皇子の手が私の髪、と言うか頭を優しく触れるとその近くに手とは違う少しだけ柔らかなものが触れた。

顔が近い。と言うことは頭にキスされた? 何故? そう言えば碧の時に外国の映画に家族観で似たようなことをする場面があった。と言うことは愛情表現的なもの?


 オルセア皇子が心底嬉しそうな表情を向けて来るのに対して、私は恥ずかしさとどうして良いかわからない戸惑いから皇子に向けて、はにかむことしかできなかった。



 皇子が屋敷から前線基地へ向かって行った。

 それを見送ってようやく緊張が解けたのか、一気に疲れが体に現れる。具体的に言うと眠い。時間帯はもう深夜と言えるのでいつもならとっくに寝ている時間だ。この世界には電気なんてものは無いから夜になれば大体すぐに寝ることになる。


 ただ、この世界には魔法とかのファンタジー要素はほとんどないのだけど、加熱すると一定時間光る鉱石があるので完全に真っ暗になる訳ではない。うん。蛍石みたいに一瞬光るとかじゃないからちゃんとファンタジーしているよね。ちょっとだけだけどさ。


 さて、久しぶりに自室で寝ようと思って振り向くと、微妙な表情をしたお父様と目が合った。

 うわぁ、そう言えばお父様が居ることを忘れていたなぁ。皇子とは言え今回初めて会った大して知らない男と娘が触れ合っているのを見れば、まあ気分の良いものではないわよね? どうすればいいのかしら。このまま何もなかったように部屋に戻った方が良いのかしら?

 いえ、こちらに何かを言って来る感じではないようだからこのまま部屋に向かっても良いわよね。ええ、そうしましょう。


 そうしてお父様に軽く会釈してから自室に向かった。お父様も何を言って良いのかわからなかっただけかもしれないけれど、何も言ってこなかったから問題ないってことで良いわよね?



 翌日、お父様から国内での計画の流れと王国内の現状を聞いた。どうやら今の王国は、表面上は変わっていない様に繕っているらしく平民の間では混乱は見られないとのこと。ただし、貴族の間ではかなりの混乱が見られるとのこと。

 どうも腐敗政権側に付く貴族と王国から亡命している貴族が続出しているらしい。これらを聞く限り、取り返しがつかなくなる寸前の状態のようだ。王都に付いた時も思ったけれど、本当に計画が早く纏まってよかったわね。


「ミリア。少し聞きたいことがあるのだが」


「何でしょう?」


「アルファリム皇国の計画では皇子をこの国の王に据えるとあるがそれは聞いているのか?」


「聞いていますよ」


「そうか。なら聞きたいのだが、オルセア皇子は王としての資質はあると思うか? 私では今回初めて接触したから完全には判断できんのだ」


「ああ、なるほど。それなら私の見解になりますけれど、王としての資質はあると思いますよ?」


「思う、とはどう言うことだ?」


「1月半ほど見た限りは問題ないと言うことですね。ただ、少し判断力と言うか、思い切りが悪い所があるので、その辺りを補佐できる人が必要だと思いますけれど。まあ、それは誰が王になっても必要だと思いますけど」


「なるほど、わかった。ミリアの意見も踏まえて補佐役の方を見繕っていた方が良いな」


 ん? 言い方からして元から皇子が王になることを認めているような感じだけどどう言うことかしら?


「今のお父様、その言い方だと皇子が王になることを肯定しているように聞こえますが?」


「ああ、元より私はあの皇子が王になることはある程度認めていた。短時間ではあるが話した感じから充分な情報の取捨選択は出来ているようだし、そもそもそれが出来なかったとしても今の王よりは数千倍はましだ」


 オルセア皇子が多少だけどお父様に認められていると思うと少し嬉しい。いや、現王の評価が低すぎてまともに比較が出来ないから、どのくらい認めているのか正確にわからないけど。


「そうですか。それは良かったです」


「ミリア。お前はオルセア皇子……いや」


「そうかしましたか?」


「あぁ、いや聞きたいことはあるが、これはことが済んでから聞くことにしよう」


「そうですか」


 私とオルセア皇子の関係を聞こうとしたようだけど、踏ん切りがつかなかったのか別の思惑を思いついたのか、とりあえず私は気付かなかった振りをして返事をしておいた。

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