第29話 おいこら、グレテリウス!

 しかし、何でグレテリウスが爆発に巻き込まれるような場所に居たのかしら。それに、一緒に居ると思っていたあの令嬢も居ないし。

 あ、もしかして城の一部を崩して足止めでもしようとしたのかしら。


「あぁ、ミリアか。何でここに…って、その恰好を見ればわかるか」


 グレテリウスは私の姿を確認して力なく乾いた笑いを浮かべた。


 一応戦いに出る以上、私も鎧的な物は着けている。まあ、重量とか筋力的な部分で金属製ではなく皮鎧だけど。

 しかし、グレテリウスは鎧、と言うか防具を付けていなかったのは何でかしら。


 こちらが攻めて来ると言う情報が漏れていたから待ち伏せの兵士がいた訳なのに、王子であるグレテリウスが防具も着けていないのはおかしいわね。もしかして情報は細部まで回っていなかった?

 いや、国王には情報が回っていたから、王族であるグレテリウスも知っているはず。

 

 ん? そう言えば、グレテリウスが居たと思われる部屋は、吹き飛んできたと考えたらここかしら? 


 うーん。ここは客室ね。しかもベッドがあるから他国の重鎮が長期滞在の時に使うところ…ね。

 ……ベッドの近くに鎧、乱れたシーツ、女物の羽織。いや…まさかね? さすがにこんな時にねぇ。


「ねぇ、グレテリウス?」


 客室を見てから私が訝しんだ目を向けるとグレテリウスは、気まずそうに視線を逸らした。

 おい。こんな時に何やっていたのよ。あれかしら、危機的状況で気持ちが盛り上がったとか、燃え上がったとかで致しちゃったと? そんな感じなの? 状況考えなさいよ!


「貴方、馬鹿なの? あ、いえ、馬鹿だったわね」

「さすがにこんな状態になっていたら否定は出来ないなぁ。……何か、ミリア雰囲気が変わった気がするけど何が…」


 さすがに思い当たる節はあるわよね? 自分がやったことなのだから。


「さすが親子ね。国王と同じで口が軽いと言うか、考えなしと言うか。王族としての立場からしたら在り得ない迂闊さだわ」

「否定できないけど、その言い方からしてもう父上は捕まっているのか」

「そうね。先ほど確保したわ」


 私がそう言うとグレテリウスは諦めたように息を吐いた。


「と言うことはこの国はもう終わりか。ミリアもこの国のために尽くすと言っていた割にあっさり他国に乗り換えているみたいだし、何処がいけなかったのかなぁ」


 何処がいけなかったって、貴方があの令嬢に乗り換えたのが事の始まりなのだけど? いや、正確に言うとさっき確保した国王が王になったのが最大の間違いだけどね。


「おい」

「ん? 君は…確か、皇国の第1皇子だったかな」


 今まで後ろで様子を見ていたオルセア皇子がグレテリウスに近付いて行ったのだけど。何か凄く怒った表情をしていたわね。

 また蹴るの? さすがに動けない怪我人を攻撃するのは止めて欲しいのだけれど。


「お前は、この国の現状を見て何も思わなかったのか? それに先ほど別動隊が国倉を確認した所、殆ど中身が残っていなかったらしいが、その辺りは把握しているのか?」

「え? 国倉の中が無くなっているなんて聞いていない。別の倉庫じゃないか?」

「いや、元々それを管理していたレフォンザム公爵から国倉の位置は聞いている。なので間違いではないはずだ。しかし、その反応からして一切知らなかったようだな。王族だと言うのに」

「嘘だろう? 国倉の中身が尽きかけているなんて話は一切聞いたことが無い」


 うん、まあそうだろうね。グラハルト商国関係の貴族が裏から国力を減らすために浪費を進めていたから知ろうと思わない限り気付けなかったんじゃないかな? しかも、この分だと国王も知らなかったかもしれないわね。


「王族ですら国の現状を把握できていないとはな。それにお前はミリアさんの元婚約者だろう? 普段から王国の現状の悪さは話していたと聞いているが、何故そのような状況で何も思わずに過ごせるのだ?」

「過剰なことを言って危機意識を持たせようとしていると思っていた。周りの者に聞いてもそのような事実はないと聞いていたから、そうなのだろうと」

「何故自ら調べようと思わないのか。あの国王と言い本当に救いのない王族だ。入って来る情報がすべて正しいとどうして思うのか理解できない」


 ああ、なるほど。グレテリウスに何を言っても良い反応をしなかったのって、既に正確な情報が入らない様にする包囲網が出来ていたからなのね。

 まあ、たぶんこの段階でミリアは目を付けられていて、あの夜会の対象になったと言うところかしら。


「それに、ミリアさんは国を乗り換えた訳ではない。ベルテンス王国は皇国ではないある国から既に侵略されつつあった。そして、その国に完全に侵略されるのは拙いと判断し、私が居るアルファリム皇国に助けを求めただけだ」

「どう言うことだ? 侵略されていたとは、どこの国に?」

「グラハルト商国ですよ、グレテリウス」


 私と婚約破棄する前から結構あからさまに王宮内で動いていたようだけど、それにも気付いていなかったのかしらね? ミリアが変だと思って調べ始めたのもその辺の動きがあったからだし。


「いや、友好国だぞ。そんなことをする訳がない」

「王宮内でグラハルト商国に否定的な重鎮が消え、商国に不利益を生む貴族が消え、その反対に友好的な新興貴族が乱立したと言うのに、それを一切不自然に思わないのかが理解できない。お前は何を見ていたのだ?」

「オルセア皇子。もういいですよ。何を言っても無駄です。おそらくそれを不自然に思わない様に刷り込みなり洗脳に近いことを常にやられ続けていたのでしょう。そうなれば、そこを正すのは直ぐには無理です」

「いや、だが」

「いえ、時間の無駄ですし、どうしようもないです。そもそも、その辺りの結果がこれですしね」


 今まで碌に考えてことかった結果がグレテリウスの今の現状だ。それに、出血量を見るからにそろそろ限界だろうから。

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