第21話 ゴロツキ登場…からの壁ドン

 とりあえず逃げ出したけれど、この後どうしようかしら。時間的にはもう夕方だし、オルセア皇子にこの後の予定はないだろうから、おそらく追いかけて来るはず。

前も同じように逃げ出した時にも追いかけて来たから。


 まあ、その時は直ぐに見つかったから戻って来たのだけど。今回はそれを踏まえて見つかり辛い裏路地の方に逃げ込んだから、そう簡単には見つからないと思う。たぶん。


 このまま立ち止まっていたら見つかる可能性があるので、薄暗い路地裏の奥に進んで行く。思い返してみればここに来てからこういった路地裏に入った記憶は無い。それに皇都の裏側の治安を確認するにはいい機会かもしれない。


 そう言えばいつもは護衛としてデュレンが付き添っていたけど、咄嗟に屋敷を出て来てしまったから今は居ない。これは大丈夫かしらね? こういった世界観の裏路地と言えばガラの悪い人たちの巣窟になっていることが多いのだけど。さすがに皇都の裏路地には居ないかもしれないわね。そもそも皇子の屋敷付近でもあるし。


 路地裏を皇都の大通りに向かって進んでみる。最初の頃とは違って、少しずつ道にゴミが目立ち始めた。やはり、皇子の屋敷付近は人が少ないと言うか、裏で生活している人にとっては居心地が悪いのかもしれない。


 そろそろ大通りに出られそうだけど、どうも少し前から何かしらに後を付けられているようね。

 後ろから足音が聞こえている。ただ、足音が聞こえている時点で裏家業の人とかではないかもしれない。そう言う人って普通だったら足音を消して近づいてくるし。もしかしたらあえて音を出して付けられていると言うことを知らせて、恐怖を煽っているのかもしれないけれど。


「おんやぁ? お嬢ちゃん。こんなところで何やってるんだぁ? もしかして、俺らと遊んでくれるのかい?」


 足音が聞こえ始めてしばらくすると目の前に、ゴロツキやってますと言わんばかりの服装をした男が3人現れた。

 まあ、お約束の展開ね。おそらく後ろに居る人とグルでしょう。


「いいえ、私はただ皇都の裏を探索していただけよ。貴方たちと遊ぶような無駄な時間は無いわ」


「いいじぇねぇか。少しぐらいよぉ。おっと、向こうから俺の仲間が来たなぁ? 逃げられねぇぜ、嬢ちゃん?」


 うーむ、前に3人、後ろに2人か。それと刃物は持っていないか、出していないと。無理やりやればどうにかなるわね。面倒だからさっさとしましょう。


「お前ら、囲ぶぇっ!?」


 最初に向かって来る男から対処しようと構えたところで、リーダーらしき男が変な声を出して路地の壁に叩きつけられた。それを見た他の男たちはそれに気を取られて惚けている。


「お前ら、その子に手を出すつもりか?」


 壁に叩きつけられた男が倒れたことで、男の向こう側に居た人物が確認できた。まあ、案の定オルセア皇子なのだけど、何か今まで見たことが無いくらいに怒っている。


「その子は私の物だから手を出そうとしたお前たちはお仕置きしないとなぁ?」


 いや、いつもとキャラが違うのですけれど? 普段怒らない人を怒らせるとあれ的な奴なのかしらね?


 そんなことを考えている内に私を囲んでいた男たちはオルセア皇子によって無力化されていた。さすがに皇都の中では人殺しはしないのだろうか? もしくは警備の兵士に引き渡すためかもしれないわね。


「……さて、ミリアさん」


 ああ、次は私がお仕置きされる番と言うことなのかもしれない。ここはまた逃げた方が…。そう思うよりも早くオルセア皇子は私が逃げられないように路地の壁側に追い込まれた。


 正面には怒った表情のオルセア皇子。背中には壁。そして逃がさない様に私の顔の横に突かれた腕。これは、もしかして漫画とかとよく見た壁ドン!? もうテンプレとなって久しい壁ドンではないですか。

 いや、中学生くらいまではあこがれていたけど、漫画とかで何度も見ている内に気持ちが冷めたと言うかここに来る前には、あーはいはい壁ドンね、くらいの感じになっていたのよね。


 で、実際やられてみた感想を言うと、正直怖い。

 うん。単純に自分より大きな人が迫ってきているのだからはっきり恐怖を感じている。これが好きな相手とか憧れの相手だったらよかったのだろうけど、現時点で私はオルセア皇子のことを好きとは断言できない。いや、確かにいい人だしかっこいいのだけれど、完全な好意を持っている訳ではないのよ。


「君は何でこんなところに1人で入ったりしたんだ!? いくらこの辺りの治安が良いと言っても路地裏にはああいった輩が居るんだぞ。何かあったらどうするつもりだったんだ!」


「あ、いや…その」


 オルセア皇子が本気で心配してくれているのがわかる。嬉しいと言う気持ちもある。ただ、やっぱり少しだけ怖い。


「君を追い込んだ私も悪いが、心配になるようなことはしないでくれ」

「っ!?」


 オルセア皇子が優しく私の頬に触れた。それを感じて私の心臓が大きく鼓動した。ああ、これが胸キュン? ってなんで私は冷静にこんなことを考えているのかしら。混乱しすぎで一周回って冷静になったとか、そんな感じかしらね。


 頬を優しくなでられる。オルセア皇子のその行為を受け止めていると胸の奥がじんわり暖かくなっていくのが感じられた。

 あれ? 私、皇子のこと実は結構好きになっているのでは? 何か吊り橋効果みたいな感じはするのだけれど、少なくとも触られていることに対しては全然嫌じゃない。


「ミリア。今後はこんなことはしないでくださいよ?」


「え? あ、はい。ごめんなさい」


 ここに来て呼び捨てかぁ。もう嫌って思っていない段階で、私はオルセア皇子のことをかなり好きになっているのかもしれないわね。


 うん? 私がじっとオルセア皇子のことを見つめていたら、皇子の顔が段々迫ってきているような?

 え、ちょっと待って! まさかキスしようとしているの!? いや、まださすがにそれは早いと思うのだけれど!?


「おっと?」


 私は迫って来ていたオルセア皇子の顔を遠ざけるために、反射的に皇子の体を押し返した。

 うん、咄嗟にこう動いたってことは、まだキスしたいと思う程は好きではないと言うことかしらね?

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