第20話 迫られた→動揺→逃げる


 ベルテンス王国を出てから2カ月ほどが経った。皇子の人となりに関しては大体理解できた。まあ、最初の評価とそれほど変わらなかったから、無駄な時間だったかもしれないけどね。そしてオルセア皇子が王になるのは有りか無しかで言うと、優秀な補佐役が居れば問題は無いのではないかと言うことだ。

 そもそも最初は皇子1人で国を動かすことを考えて判断していたのだけれど、よく考えてみれば国は1人で動かすものではないし、足りない部分は他の人が支えればいいのだから問題は無いのでは? と言う結論に至ったわけです。

 それと、さすがに皇子の観察を続けるのが飽きて来たと言うのもあるのだけど、そこは皇子の評価には関係ないからいいわよね?


「そろそろ軍での侵略計画が纏まりそうだけど、ミリアさんはどうすんだい? たぶん計画が纏まったら本格的に動き出すことになると思うけれど」

「侵略が始まる数日前に状況の確認と王国内からの指揮をするために我が家へ戻る予定でしたが、ここまで計画が早く進んでいますからそれを伝えるために早めに戻る必要がありそうですね」


 本当なら半年の計画だったのだけど、まさかその半分も経たない内に計画が纏まるとは考えていなかった。ベルテンス王国とは違ってアルファリム皇国の皇族の権力が強いからこそ出来たことだけど、むしろ皇子に全責任を負わせているなんて考えてもいなかった。


 そう、この侵略計画はオルセア皇子が全指揮を執っているのだ。どうやら皇が自身の子供に実績を積ませるためにいろいろやらせていて、その内の一つが侵略だったと言うことらしい。

 何でそんなことをやらせているのかとも思ったけれど、アルファリム皇国は完全な実力主義の国らしく、皇族であっても実績が無いと下に見られることが多いそうだ。


「ああ、そういえば計画を実行するに当りベルテンス王国内の協力者との連携を取るために、現在王国内で準備を指揮しているお父様と皇子は会った方が良いのかもしれませんね」


 計画ではアルファリム皇国による侵略をより確実にするために国内で反乱を起こし、王国軍を混乱させることになっている。それをより上手く行うためにも両方で指揮する者同士の事前の確認は必要なのではないかしら。


「ふむ。それは確かに必要かもしれない」

「ですよね? デュレン。お父様との連絡は可能かしら?」

「既に確認の連絡は取っております。おそらく数日以内には返答があるかと」

「あらそうなの? いつの間に」


 とりあえずお父様との連絡はつきそうだからいいわね。後は待つだけ…かしら?

 そう思っているとオルセア皇子が私の方へ近づいて来た。何かいつもよりも笑顔なのだけど何かしらね?


「ミリアさん。君のお父様に会わせると言うことに深い意味はあるのかな?」


 そう言うと皇子は私が座っている手前に跪いて私の手を取った。ああ、またこれか。

 最近、ちょくちょくオルセア皇子からアプローチされているのよね。最初は何かの冗談かと思ったのだけど、どうも本気らしく何度も同じようにこういったことをされている。正直私もミリアもこういった経験が乏しいからどう返したらいいのかがわからないのよね。


「いえ、そう言った意図はありませんよ」

「そうか、残念だな」

「そもそも皇子には婚約者候補がいるのではないですか?」


 皇子なのだからむしろいない方がおかしいと思うのだけど、いままでそう言った影を見たことが無いのよね。本当に居ないと言うことなのかしら?


「そう言うのは居ないね。うちの家系は基本的に婚約者を自力で探すと言う方針でね。だから父上の兄弟には結婚していない方も居るんだよ」


 まさか、ここでも実力主義とは。無理やり好きではない相手と婚約させられるよりは良いのかもしれないけど、下手したら一生結構できないと言うことよね。実際にそうなっている方も居るようだし。


「だから、私と婚約してくれないかな?」


 ちょっと!? えぇ? いつもみたいにもう少しやんわりと伝えて来るかと思ったら、いきなり真正面から攻撃されたような感覚になったのだけれど!? 

 いやいや、待って。不意打ちは駄目でしょうよ。


「あ、いえ…あの、ちょっと待ってください」


 あ、手の甲に口づけとかしないで! もう王子様じゃないのよ。…って皇子だったわ、この人。もう、こういうのに慣れていない所為で受け止めきれないから止めて欲しいわ。


「ダメかな?」


 だから、そうやって迫って来るのは止めて欲しいのだって。何度も似たようなことをやっているから皇子に私がこう言ったことが苦手であることが気付かれている所為で、的確に私の精神的に弱い所を突いてくる。

 いや、オルセア皇子は身長も高くて見た目も良いし頭も良いから、結婚相手としては申し分ないのだけれど、どうも通常時の性格とこういう時の性格が大分違うのよね。何て言うのか、好きな子は苛めたくなる系と言うかSの気がある気配がするのよね。その所為で踏ん切りがつかないと言うか。

 いや、そもそも計画が始まる前からこう言うことをしているのはどうかと思うって言うのもあるけれど。


「ミリアさん?」


 しかし、今回のこれはどうやら簡単には引いてはくれなさそう。このままだと、強引に押し切られそうだから、どうにかしたいところなのだけれども。

 あ、いっそここから逃げた方が良いのではないかしら? うん、それがいいわね。


「え、ちょっ! ミリアさん!?」


 私はそう考えて後ろから聞こえて来たオルセア皇子の声を無視して、屋敷から逃げ出した。

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