アルファリム皇国にて

第17話 皇からの呼び出し

 皇都に入ってから、会話らしい会話は無かった。何かさっき受け止めて貰ってから皇子の態度がおかしい。その前までは何をするでもなく私の方を見ていることが多かったのに、今はたまにこっちを見ては直ぐに視線を外に向けてしまっている。本当に何をやってしまったのだろうか。いや、思い返してみても失礼になるようなことはしていないし、言ってもいないはずだから、正直見当がつかない。

 まあ、嫌われた感じではなさそうだからずっと見られているよりも何倍もましなのだけどね。



 オルセア皇子の態度が元に戻らないまま、皇城に到着した。

 私たちは一旦客室で待機してくださいとの指示を貰っているので、おとなしく案内された客室で待つことになった。

 城の内部や客室の構造はどうやらベルテンス王国の王城とそう変わらないようだ。いえ、むしろ部屋の中に設置されている調度品はアルファリム皇国の方が質は良いようね。ベルテンス王国の客室に置いてある調度品は、客人が良く触れるような物は質を少しだけ下の物を置いていたのよね。

 客室の中を見ているとドアからノックの音が聞こえて来た。


「どうぞ」


 私が入室の許可を出すと、執事とメイドが1人ずつ部屋の中に入って来た。執事はこの客室に案内してもらったのと同じ人のようだけど、メイドが入って来たのはどうしてなのかしら。


「何かありましたか?」

「その、皇からお呼びがかかりましたので、それを伝えに参りました」

「え? そ…そうですか。今すぐに…ではないですよね?」


 いや、客室に待機しろと言われていたから、ほんの少しだけ呼ばれるかもしれないとは思っていたけど、まさか直ぐにではないわよね? 一応身なりは整えているけど、皇の前に出るにはもう少し準備した方が良いと思うのだけど。


「いえ、出来るだけ速やかに来るようにと、そう言伝を預かっております」


 まじかー。まあ、皇ともなればあまり時間は取れないから仕方がないのかもしれないけど、少しくらい猶予をくれても良いのだけどね。あ、と言うことはこのメイドは身支度の補佐要員という事かしらね。


「わかりました。急いで支度をしますので外で待っていてくださいますか?」

「はい」


 そう言って執事は部屋の外に出て行った。ディレンも何をいう訳でもなく、それに続いてついて行った。メイドはそのまま部屋の中に残っているので、予想通り身支度を手伝うためにここに来たようだ。


「お手伝いさせていただきますね」

「ええ、お願いします」


 そうして身支度を終えた私は外で待機していた執事に連れられて皇の待つ場所へと向かうことになった。


 連れて行かれた場所は想像していたよりも近くだった。皇が居る場所だから客室からは遠くの場所だと思っていたのだけど、もしかして最初から呼ばれることが決まっていたという事は無いわよね? 多分決まっていたら最初から身支度を済ませるようにと進言があるはずだから。


「連れてまいりました」


 そして先導していた執事が部屋の中に確認を取ると中からオルセア皇子が現れた。


「ありがとう。ではミリアさん、申し訳ないのだけど中に入ってください。ああ、正式な場ではないからそこまで気張らなくても問題は無いよ?」


 オルセア皇子はそう言って私を部屋の中に誘導した。いや、正式な場でなくとも皇に会うのは誰だって緊張はすると思うのだけど? 

 まあ、オルセア皇子からしたら皇は父親だし緊張はあまりしないのかもしれないけど、一応私も公爵家だからベルテンス王国の王家に連なる血筋ではあるけど王にはそう簡単に会えるものではないのだけどね?


「失礼します」


 部屋の中に入るとそこは執務室と思われる場所だった。え? 皇に会うならもう少し広い部屋だと思っていたのだけど、何で執務室に呼ばれた? 侵略を手伝うと言っても一応他国の貴族が皇の執務室に入って大丈夫なのかしら?


「ようこそ。我がアルファリム皇国の国皇の執務室へ。売国のお嬢さん」


 部屋に入ると直ぐに執務机の奥に座っていたおそらく皇が声を掛けて来た。売国って、事実だけどこれは探られているのかしらね? それとも単に弄ったら面白そうだとでも思われているのかしら。


「お初にお目に掛かります。ベルテンス王国のレフォンザム公爵家の長女、ミリア・レフォンザムと申します。以後、よろしくお願いいたします」


 私がそう返すと皇は何やら面倒臭そうな表情をした。あー、何か拙い事でもしたのでしょうか。一応ミリアが覚えている通りにやったのだから不手際は無いと思うのだけど。


「ああ、そう言うのは無しでいい。あくまで今日は顔合わせみたいなやつだ。だから一々そういう感じで話されると肩が凝るから止めてくれ」

「え? い…いえ、そういう訳にもいかないかと…」


 さすがに皇に向かって畏まらないで話すのはどの場であれ駄目だと思うのだけど。そう思ってオルセア皇子の方へ向いて助けを求める。


「あぁ、父上はこういう方なのだ。あまり気を張らなければ大丈夫だよ。父上もそう言っているしね」


 いやいや、皇本人がそう言っていたって周りに聞かれたら問題視されるでしょう!? しかも初対面なのだしそう簡単に気張らずに会話なんて出来ませんよ。

 何か、もうこの段階で面倒なことが起こる気がして仕方がないのですけど、出来れば少しでもいいから穏便に話が進んで欲しい所ね。

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