第6話 商国と皇国の実態


 私はグラハルト商国に関する情報を父親である公爵に詳細に伝えた。記憶を思い返すようにやや長く沈黙していたが、どうやら思い至る部分があったのか、公爵は深く嘆息すると脱力したように執務椅子に腰を下ろした。


「確かに、そう聞けば思い当たるものが多くある。いや、納得の方が大きいな。思い起こせばグラハルト商国との友好を結んでから王政の空気が変わったように感じたな。しかしなぜそれを今まで気付けなかったのか。…いや、それも情報操作によるものか」

「それにアルファリム皇国の印象が悪いのもその結果によるものでしょう。そもそもアルファリム皇国は別に奴隷推奨国ではありませんし、過度な攻撃による侵略も行ってはいませんよ。おそらくグラハルト商国の実態と置き換えられていると言う事なのでしょう。私たちを含めた王国の民が持っているアルファリム皇国の印象と、グラハルト商国の実態は殆ど一致していますし」


 はっきり言って私が協力を求めようとしているアルファリム皇国の印象は、この王国内では頗る悪い。おそらく私がアルファリム皇国の皇子に協力を要請すれば多少時間は掛かろうとも了承してもらえるだろう。しかし、その後にこの王国内に残っている真面な貴族の協力を得るには、この印象は大きな壁になるはずだ。


 とはいえ、そう簡単に印象が良くなる方法がある訳が無いので色々とやる必要があるのだけどね。一番楽な方法は王国の貴族がアルファリム皇国の領土に行って実状を見ることなのだけど、それをスムーズに進めるには皇国側の有力者が必要になる。まあ、それがアルファリム皇国の第1皇子なのよね。


「今の王国の内情を考慮しますと、さすがに両国からの侵略を止めることは不可能です。なので、侵略された後の扱いが良く交渉の余地が大きいアルファリム皇国の者に接触して協力を仰ぎたいのです」

「王国内の貴族だけで行うのではないのか? それではどの道乗っ取られてしまうことになるが」

「おそらく、王国内で協力していただける貴族だけで行っても可能だとは思います。ただし、その後のことを考えると、後ろ盾として影響力のある国は必要です」


 王国内の貴族だけで王国の政権奪取は可能だと思う。しかし、それをするにも犠牲は出る。それと王国軍もおそらくグラハルト商国の手は及んでいるだろう。しかも、王政を乗っ取ったとしても王国の友好国としてグラハルト商国は強く出て来るだろう。それに、王政を取り戻すという名目で攻め入ってくる可能性も十分ある。

 だから、後ろ盾…いや、牽制の意味合いでもアルファリム皇国の協力は必要と言うことだ。


「ああ、そうか。内々で済ませても国は確実に疲弊する。そしてそうなれば内通者がいる限り攻め入る好機を与えるだけか」

「そうです。王国は既に自力で事を終え、他を抑え込むほどの力は残っていません。だからこそ他国を抑え込めるほどの国力を保持しているアルファリム皇国が必要なのです」

「なるほど、理解した。しかし、アルファリム皇国の者に協力を仰ぐとは言うがどうするつもりだ? 王国内にはアルファリム皇国の関係者は居ないぞ」

「それに関しては、どこに行けばよいか多少の情報がありますので、私に任せておいてください」

「む? ……情報の出所が気になるが、ミリアが言い出したことだ。そちらは任せよう。私は協力できそうな貴族を当たってみるとする」

「ありがとうございます。お父様」


 そうして公爵との話は一旦終わった。

 これから準備を始めるとして、出来るだけ早くアルファリム皇国とこの王国の間にある山岳の国境にある駐屯地に滞在しているはずのオルセア・アルファリムに会いに行かなければならない。

 それにゲームだとバッドエンドより他のエンディングの方が早くストーリーは終わっているから、だらだら時間をかけていると最悪バッドエンドへの道が途切れる可能性があるんだよ。


 まずは国境に行くまでの足だけど、これは公爵家の馬車を使う訳にはいかない。王政が腐り警備が緩くなった状態でも公爵家の馬車が普段行くことのない場所に行けば、王国内に工作員が多くいるグラハルト商国には気付かれるだろう。そうなればあちらの計画が前倒しになる可能性が上がるし、こちらの計画が明るみになる可能性も上がる。

 さて、どうしたものか。この辺は深く考えていなかったんだよね。何とかなるとは思うけど、時間をかけるわけにはいかないし。


 夕食のタイミングでもう一度公爵と会話できたので、昼に話しきれなかったことの補足をした。外に出ない理由を精神の不安定化と体調不良として決め、計画実行の目安は半年となった。そしてどうしても私では思いつかなかった足の着かない移動方法を聞いたところ、色々提案されてしまった。思いの外多くの案が出て来て、貴族と言うのは自由に移動できる感じではないのだなと感じた。

 それと、私がどこに行って何をしようとしているかも薄々感づかれたようだ。でも、これで国境までの移動方法は確保できたので良しとしよう。これ以上突っ込んで聞いてくる感じでもなかったし。

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