前線基地へ

第7話 物語の馬車移動によくある奴ら


 馬車が荒れた道を進む。一応道として使われているからしっかり道と言った見た目になっているけど、中世くらいの世界観でアスファルト何かを使って舗装されているなんてこともなく馬車の車輪が石を踏み、わだちにはまる等の衝撃が頻繁に発生している。さらに、馬車には衝撃吸収機構が付いている訳もなく、直接体に衝撃が伝わって来てお尻が痛い。

 これが隠れての移動じゃなければ過剰にクッションを敷いたりできるのだけど、今は弱小商会の他国への営業を装っている関係で、取引用の商品以外で馬車の中にお金がかかっているような物を置くことを控えている。

 かく言うミリアも普段来ているような、見るからにお金が掛かっている服は着ていない。今は平民の上層が普段着ているらしい物に、上から長めのフード付きコートを着ている。


 何事もなく王都から出ることが出来た。むしろ、警備らしい警備が無かったことに驚いたのだけど、少し進んだところに検問のようなところがひっそり建っていた。おそらく、あっさり王都を出られたことで警戒を緩めたタイミングを見計らって止めるとか、そんな感じの意図が見える。

 しかも、その検問を通過するのにもお金が必要だったらしく、所持金の3分の1程も持っていかれた。もしかしたら、本来はそんなことをしていないのかもしれないけど、安全にこの場を通過するにはそうするしかなかった。

 

 検問を通過してしばらく進んで行くと、川がありそこに架かった橋が見えて来る。今の所橋の所には人影は見えないけど、何か嫌な予感がするので馬車の御者にそれを伝えておく。

 この御者は公爵家の関係者なのである程度は戦うことが出来るので、半分は私の護衛役としてこの場に居るのだ。


 何事もなく橋を通過した。いやな予感は思い過ごしだったのかもしれない。しかし、まだ何があるかはわからないので警戒はしておく。そしてしばらく進んだところに、道を塞ぐように倒木が落ちていた。


 もう、この段階で嫌な予感は当たったことがわかった。そもそも、小説なりゲームなりこうやって道を塞がれている状況は、ある一種のパターンとして存在しているのだから。

 多分この後に、盗賊やらゴロツキやらのガラの悪い連中が出て来るんだろうなぁ。


 御者が倒木を退かそうと馬車の御者台から降りようとしている内に、道の脇にある物陰からわらわらと人影が出て来て馬車の周りを囲まれてしまった。


「おい、そこの馬車。荷物全部置いてけや!」


 ほらね。



 馬車を盗賊と思われる男たちに囲まれている。男たちの着ている服装は不揃いではあるけど、そこまで見苦しい感じの物ではない。むしろ上等な服を着ている者までいる。そういう奴はおそらくリーダー格だと思うけど、少なくとも生活苦でこういうことをしている感じではないな。


 それに出てきたタイミングと言い、馬車の囲み方と言い、こっちが馬車1台でここをこのタイミングで通ることを知っていないと出来ないと思うのだけど、どこかで見張られていたと言う事? いや最悪、検問の連中とグルと言う可能性もあるね。むしろこっちの方が可能性はあるかもしれない。


「おい! 御者も中に居る奴も出てこい!」


 うーん。出ないと駄目かな。出たら確実にさらに面倒なことになることは目に見えているのだけど。まあ、先に進めないし出ないと駄目か。

 馬車の荷台、というか幌の貼られた座るスペースがある荷台? から外に出る。


「おっ! 女じゃねぇか。これはついている」


 馬車を取り囲んだ男たちが下種な笑みを浮かべている。まあ、こういう場合女性はいろいろ使えるからなんだろうけど、深い極まりない声と顔だ。

 囲んでいる男の数は15人くらいかしら。たぶん全員は出て来ていないと思うからもう少しいるだろうけど、これくらいならどうにかなる…の?

 私は御者の方に視線を向けた。さすがにこの人数だと、難しいと思うんだけど。


「御者は動くんじゃねぇぞ!」


 私が御者に目を向けたのが何かの合図だと勘違いしたようで、リーダー格と思われる男が声を上げた。いや、ただ心配しただけなんだよ? 何でそこまで警戒するのか、こっちは武器を出していないと言うのに。


「女はこっちに来い」


 えー、さすがにそれはない。どう考えても人質扱いされる上に触られるのは嫌だ。うわ、触られることを想像しただけで、吐き気が。


「おい! 早く来い!」


行く訳ないでしょう? 少し考えればわかると思うのだけど。


「チッ! 手間かけさせんじゃねぇよ!」


 痺れを切らした男が私に向かって来る。気が短すぎるわね。もう少し時間が掛かるかと思ったのだけど、他の男は……動く気配は無しか。まあ、こいつが女である私に負けるとは思っていないからだろうけど、こちらからしたら好都合ね。


「おら! おとなしくついてこ、うぐおっ!?」


 私の腕を掴もうとしていた男の腕を躱し、それを逆に掴み引くことで男のバランスを崩す。そして、腹ばいになるように男の体を地面に叩きつける。まあ、そこまで強くは叩きつけられなかったけど腹ばい状態の男の体を立ち上がれない様に踏みつける。そこからまだ話していない腕を思い切り、骨格の可動域外に動かす。


「うぎゃあああぁあ!!?」


 鈍い音を出して男の腕は普通ならあり得ない角度に動いた。いきなり地面に叩きつけられた上に腕の関節を無理やり外された男は悲鳴を上げながら暴れる。まあ、痛さのせいでそんなに大きく動けている訳ではないので、私はまだ男を踏みつけたままなのだけど。

 これ、もしかして骨が折れたとかじゃないわよね? 何か痛がり方が異常なのだけど、慣れていないだけかしら。


 いきなり信じられない光景を見せられた男の仲間は、一瞬惚けていたがその隙に御者が隠し持っていた剣、サーベル?で切りかかった。それを対処できずに御者の1番近くに居た男が切られて倒れた。


 うわぁ、血がすごい。スプラッタね。

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