2章-25

次!

急いで戻り、ユレーナをペチペチ叩いて起こす。

だめだ、起きない…

何ニヤニヤしてるんだか、こんな時にもう!


「リリース」


仕方がないので魔法で無理矢理効果を解除する。


「んふふ。はっ!」


「やっと起きた…魔法よく掛けてるんだから体が慣れて効かないとかないのかな。」


「効かなくなるくらいなら死んだ方がましです!」


どんだけだよ!


「ところでヨウ様、これはどういう状況ですか?」


「えーと、皆を眠らせて、檻の中の人を馬車に運び込んだ所だよ。これから危ない事をするからユレーナには先に起きてもらった。」


「おお!危ないのでしたら付与魔法が必要ですね!」


他に突っ込む所ないの!?

まいっか。


「エンチャントアジリティ」


「あぁぁぁ、この感じ、最高です!いつでも危ない事してください!」


言い方、言い方!

そういうのホント良くないから!

まったく…


次にやる事を考えてかなり強めに魔法を掛けたので随分と光ってしまった。

まぁ皆寝てるから平気だろう。

さて、やるか。

マナ不足になりそうだったので、鞄の中の魔石をいくつか取り出し、握る。


「サモン、パイア!」


そう、俺の考えた作戦の肝がこのパイア召喚だ。

白い魔族、マナの暴走で白い魔物になっちゃいました作戦!

俺の周りでマナがド派手に光り、魔石が急激なマナ消費に耐えきれず砕け散る。

世界樹のマナまで使ってしまったか?

俺のマナもごっそりもっていかれたのだろう、体が急にだるくなり、立っていられない。

その場に座り込み、ユレーナに檄を飛ばす。


「ユレーナ!パイアが出るけど暫く凌ぐだけにして!倒すのは皆を起こして状況を理解してもらってからだ!できるか!?」


「無論です!」


地面が円状に光り、白いバカでかいイノシシがせり上がってくる。

よし!成功だ!

練習では妖霊召喚までで、魔物の召喚はぶっつけ本番だった。

足まで出てきて一二歩動いたところで、うまい具合に檻を踏みつぶしてくれた。


じゃあ次!

もう自分産マナは枯渇しているので、バッグからまた魔石を取り出す。


「ディフュージョンリリース」


できるだけさっきと同じ量のマナを使って解除魔法を唱える。

魔石からマナが吸い取られて黒くなっていく。

砕けないのはマナ消費がそれだけ少ないんだろうな。


「んん…うぇっ!?パ、パイア!??」


「んぐぁ!なんじゃこのデカブツは!?」


「はっ!ダール様、危のうございます!!」


三人が起き上がり、パニックを起こしている。

執事が瞬時にキーアイル卿の元へ向かったのは流石だ。

主を守ることが体に染み付いているのだろう。

さて、そろそろ現状の説明をして刷り込まないと!


「さ、さっきの生け贄が魔物になった!!マナの暴走だぁぁ!」


わざとらしく叫び、視線をパイアに集中させた。

ユレーナもうまく苦戦しているようにパイアの攻撃を凌いでいる。

解除魔法で解除しきれない量の付与魔法を掛けたつもりだけど、どうだ?


「なんだと!おのれ魔族の分際で小癪な!おい、ディンク!このデカブツを殺せ!」


「くそっ!そういう事か!ユレーナちゃん助太刀する!」


「邪魔だ、本気を出せばこの程度一瞬で終わる」


「強がり言ってないで!君にもしもの事があればオレは…」


え?ディンクさん、ユレーナのこと本気だったの??

軽い感じだからてっきり冗談かと思ってたのに。


ユレーナはディンクさんを一瞥すると、瞬く間にパイアとの距離を縮めた。

前回戦った時より、明らかにユレーナのスピードが上がっている。

その勢いのままパイアの首目掛けて聖剣を振り抜き、一閃する。


ゴトリ。


パイアの頭がずり落ちて、その場に屍をさらす。

沈黙の支配。

俺を含めた四人は口が開いたまま微動だにしない。

息絶えたパイアが光の粒子を残して消えていく…


「い、今のは確かにパイアだったよな?なんで?なんで一撃?」


「お、おい、今のはAランク相当の魔物ではなかったか?」


「はい、確かパイアとか…」


状況がじわじわと分かってきたのかキーアイル卿が舌打ちをする。


「くそっ、あの魔族め!大人しくマナを出せばよいものを暴走などさせおって!あいつを買うのに幾ら払ったと思っておる!」


「ダール様、それよりも秘術が失敗した以上、聖樹様の回復はいかがなさいますか?」


「ぐっ。そうか、そっちの方が問題だな。しかし少しでも穴埋めせねば…おい!さっきのデカブツの魔石を寄越せ」


「魔石は出ませんでした」


ユレーナはあっさりと答えたが、本当に魔石は出なかった。

Aランク相当ならほぼ確実に出るはずだ。

それが出ないということは、原因はやっぱり召喚魔法だから、か?


「確かに魔石は出ませんでした。信じられない事ですが、マナの暴走の結果なので致し方ないかと思われます」


ディンクさんナイスフォロー!

申し合わせたような回答に乗っかる。


「マナの暴走とはかくも恐ろしいものでしたか…」


呟くように言ったせいか声が小さくなり、誰の耳にも届かなかったようだ。

無視されて若干悲しくなる。


「おのれ、何処までも忌々しい魔族め!!」


「では国王様に打診し、さらなる支援を要請し…」


「あの老いぼれが首を縦に振るわけがなかろう」


「では…では、私財を投入なされますか?」


「それこそ馬鹿げた話だ。そうだな、責任はこの者等に取らせるとして、さてどうするか…」


最低な事考えてるなこの人。

どうせなら俺達に聞こえないように相談してくれない?

ちらりとディンクさんを見ても肩を竦めるだけだ。

きっと慣れっこなんだな。


「そうだ!おい、老輩。そなた世界樹に合うポーションを作れるとか言っておったろう」


「ははっ。確かに申しました。植物の研究をしておりますれば」


「ならばそなたにポーション作製を申し渡す。費用はそちらでなんとかせよ。この状況、そなたらにも責任がある故な」


そんな無茶苦茶な!

俺らの責任ってどこにあるのよ?

横暴な貴族だな。


「ははぁ!ただ、今日明日すぐにとは参りません。ここに日参する事をお許しいただきたいと思います。今日は触ることも許されませんでしたので…」


「構わん、許可する。一月以内に結果を出せ」


「ひ、一月!?流石に半年程はいただきたいと存じますが…」


「ならん!そなたがポーションの開発に失敗すれば別の手を打たねばならんからな」


「か、かしこまりました。ご期待に沿うよう努力いたします」


「それでよい。おい、疲れた。帰るぞ!」


執事を連れて鼻息も荒くキーアイル卿が帰って行く。

話が大きくなっちゃったから仕方ないけど、結局回復ポーションの製法の事聞かれなかったな…

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