第15話 リベンジデート

「本日は私までお招き頂きありがとうございます」

 

 大森と西川から無理やり協力関係を結ばされてからの最初の日曜日。人混み溢れる中で、川波の礼儀正しい声が響いた。


「もうっ、そんなに堅苦しくなる必要なんてないって川波さん」


「そうそう、こういう時は『ちーす』ぐらいの気軽さでいいから」


「……」


 やたらとハイテンションな二人に、川波だけでなく思わず俺まで黙り込んでしまう。

 

 ここは県内にあるテーマパークのゲート前。大森たちが俺と川波の仲を育むために考えていた作戦というのはまさかの『ダブルデート』だったのだ。


「いやー川波さんにも来てもらえてほんとに良かったよ。危うくチケットが無駄になっちゃうところだったからさ」

 

 そう言っていつものイケメンスマイルを浮かべる大森。

 ちなみに彼が今言ったように、今回何としてでも川波を連れてくるために使った口説き文句は、「大森が手に入れた四名一組のチケットを使うため」という何ともまあ無理やり感と怪しさが漂うものだった。

 もちろん川波は最初訝しんでいたのだが、俺の誠心誠意の言葉と土下座によってしぶしぶ折れてくれたのだった。


 それにしても……

 

 俺は隣に立つ川波の姿をチラリと見やる。さすがにテーマパークへと訪れるので制服ではなく私服にしてほしいとこれまた土下座によって嘆願したおかげで、今日の川波の姿は天使のような純白のワンピースに淡い桜色をしたカーディガンという夢のようなコーディネートに仕上がっている。

 その姿が可愛いのなんのって、通りすがる人たちは男だけでなく女性でさえも羨望の眼差しで二度見してくるほどだ。

 ちなみに俺に関しては「え、なんであんな男が隣に?」と不快感と敵意を剥き出しにした視線を向けられる始末である。


 そんなことを思い出してしまい己の容姿と性格について神を呪っていると、川波が少し申し訳なさそうな口調で口を開く。


「本当に私が同行しても良かったのでしょうか?」

 

 クールな表情を保ちつつも肩身が狭そうな言葉を口にする川波。するとフレンドリーノーガードの西川はそんな川波と腕を組むとすかさずフォローを入れる。


「当たり前じゃん! このメンバーであと一人誘うとしたらどう考えても川波さんでしょ」

 

 ね? と俺たちに向かって同意を求めてくる西川に、「そうそう!」とすぐさま陽気な声で返事を返す大森。

 さすが学校でもリアル充実した生活を送っているイケメンイケジョである。他の生徒であれば声をかけることも緊張すると名高い川波相手でも普段通りに接している。ちなみに一緒に住んでいる俺はいまだに挙動不審な対応が多々目立つ。

 

 そんなことを思い一人ため息をついていると、何やら意味深な笑みを浮かべた大森がこちらをチラリと見てきた。


「それに今回は康介がどうしても川波さんを誘いたいって譲らなかったしな」


「なっ!?」

 

 突然不意打ちのような攻撃を喰らってしまい、俺は思わず悪友の顔を睨みつける。だが大森の瞳がいたって真面目なことに気づき、これはおそらく俺と川波が仲を深めるためのキラーパスを出してくれたのだと瞬時に理解する。


 大森のやつ……


 普段はチャランポランなただのイケメン変態のくせに、さりげなく気を使ってくれる友人に俺はぐっと拳を握りしめる。

 そんな自分の隣では、「そうなのですか?」と少し不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる川波の姿。その愛おしい姿を前にして、これは告白の前哨戦なのだと自分の気持ちを鼓舞すると、川波との距離を縮めるための勇気ある言葉を口にする。


「そ、その。川波にはいつも支えられてばっかりだからさ、だから俺どしうても○×△……」


 俺の勇気と想いを詰め込んだ会心の言葉は、テーマパークの方から聞こえてきたジェットコースターの音と悲鳴によってものの見事にかき消された。

 そのあまりにバッチリ過ぎるタイミングに、俺はしばし魂を失ったように呆然としてしまう。

 おそらく俺の愛ある言葉は完全に相殺されてしまっていたのだろう。目の前にいる川波は相変わらずきょとんとした表情を浮かべているし、視界の隅に映る大森と西川は「あーあ……」といわんばかりに呆れたようなため息をついていた。

 

 うん、どうやら俺の人生初ダブルデートは思った以上に幸先が良いみたいだなっ!

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