第14話 悪友たちの協力

「きゃははははっ!」

 

 清々しいほど晴れ渡った空が広がる屋上で、西川のバカ笑いが響き渡る。その隣では前回よりも酸欠になりそうになりながら、お腹を抱えてのたうちまわっている大森の姿も。


「……」

 

 まるでお笑い番組でも見ているんじゃないかというほど笑い転げている二人を、俺は冷め切った視線で睨みつつ昼飯の弁当のおかずを箸でつつく。もちろん二人がこんなにもバカ笑いしているのは、先日俺がやらかしてしまった失敗の数々が原因だ。


「はぁ……だから話すのは嫌だったのに」


「ごめんごめんっ! だってまさか筒乃宮が……」

 

 きゃはははっ、と話しの途中で再び狂い出す西川。俺はそんな西川を見てため息を漏らすと、箸先で掴んだだし巻きを口の中へと放り込む。……うん、やっぱり川波の作ってくれる弁当はうまい。

 

 そんなことを一人思いながら俺はダダ下がりだったテンションを何とか浮上させると自分たち以外誰もいない屋上をチラリと見渡した。

 本来であればこの場所は立ち入り禁止なのだが、何故か鍵を持っていた大森が昼飯をここで食べようと提案してきたのだ。尚、どうして大森が鍵を持っていたのかについては、「若手の女性の先生をあの手この手で味方につければ簡単だ」と豪語していたのだが、踏み込めば間違いなくややこしいことに巻き込まれそうなのであえて聞いていない。


「そういえば川波さんには声をかけなかったのかよ?」


「いや誘ったんだけど、昼休みは生徒会の仕事があるって」


「あーそういや川波さんそんなの入ってたな」


 そう言って大森はコンビニで買った菓子パンをかじっていた。

 何でも彼曰く、ここで昼飯を食べれるようになれば人目を気にせず俺と川波が思う存分イチャコラできるだろうと話してくれていたのだが、目の前に大森と西川がいる時点でそれは不可能。ってかこいつらが俺たちのやり取りを楽しもうとしている魂胆にしか思えないんですけど?

 

 そんな疑念を瞳に滲ませて悪友を睨むも、相手は気付いているのかいないのか、これといって態度を変えることもなく話しを続ける。


「でも珍しいよな。川波さんって部活も委員会も興味ないって言ってたのに生徒会には入るとか」


「別に入りたくて入ったわけじゃなくて生徒会は成績上位の生徒から選ばれるんだってさ。前に川波が珍しく嫌そうな顔しながら言ってた」


「へぇ、てっきり俺はたまには康介やクラスの男子だけじゃなく他のクラスの男の顔も見てみたいのかと思ったぞ」


「おい」


 冗談とはいえ聞き捨てならないことを言い放ちやがった悪友に、俺はギロリと睨みを利かせる。

 あの川波に限ってそんなふしだらな目的で生徒会にはいるわけなどない。断じてない! ……って、なんだかこれがフラグみたいに思えてきたんだけどほんとに大丈夫だよね? 何なら今から生徒会室覗きに行こうかな??

 

 大森の発言のせいで一人プチパニックに陥っていたら、今度は西川の声が耳に届く。


「ってか川波さんって筒乃宮と二人っきりだと笑ったりすんの?」


「え?」


 先ほどまでケラケラと声を上げて笑っていた西川が急に真面目な表情でグイッと顔を近づけて尋ねてきた。パーソナルスペースが人の倍以上ある俺とは違い、フレンドリーでノーガードの西川はいつもこんな感じで距離が近い。

 そのせいでまったく興味はないのだが、彼女の綺麗な顔やらグラマーな胸元やらが間近に迫ってきて俺はドキマギしてしまい目のやり場に困ってしまう。まあ、まったく興味はないんだけどなっ!


「そ、そりゃあもちろん俺の前だと……」


「「…………」」


 ぎこちない口調で答え始めた俺に何やら黙り込んでいた二人は、失礼なことに俺が答える前にため息を吐き出した。そしてやれやれといわんばかりに小さく首を振る。


「まあ同棲しているとはいえ、康介と川波さんの心の距離は銀河二つ分くらいはあるからな」


「お前はほんとに俺を応援する気があるのか? それに別に俺だけじゃなくて川波は誰の前でもクールだからな」


 そうだ、川波こそクールビューティーという言葉がピッタリと似合う美少女なのだから別に笑ってくれなくたって構わない。たまに俺が彼女の心を開かせようとギャグを放つこともあるが、無視されたって俺はまったく気にしてないからな。……グスン。


 などと川波との距離感に一人心を痛めていた俺だったが、彼女が誰の前でも笑わないのは紛れもない事実。

 というより俺に対しては積極的に(家政婦として)声をかけてくれる川波だが、基本的に他の人間に対しては素っ気ない。いや、素っ気ないというよりも昔から川波は人とのコミュニケーションが苦手なのだ。


 だからだろう。俺が思い出す幼い頃の彼女の姿がいつも一人ぼっちなのは。

 

 そういや昔……

 

 何かの記憶が頭の中にひっかかり無意識に首をひねる俺だったが、そんな思考は目の前でニヤニヤと笑う二人の姿によって遮られてしまう。


「な、なんだよ……」


 明らかに悪巧みでも考えていそうな幼馴染み二人組に、俺は思わずゴクリと唾を飲み込む。すると大森がニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「いやこの前優奈ゆうなと話してたんだよ。どうせ康介の奴が一人で頑張っても川波さんとの関係がうまく進むことなんてないし、ここはやっぱ仲間として俺たちがもっと協力すべきじゃないかって」


「そうそう! 私らが協力すれば筒乃宮と川波さんだってすぐにゴールインしちゃうって」


「…………」


 なぜだろう。眩しいくらいに自信たっぷりにそんな言葉を口にする二人に、ありえないほどの不安と恐怖感を覚えてしまうのは?

 

 そんなことを感じてしまい返事の言葉が思い浮かばず黙り込んでいると、「よしっ、決まりだな!」と大森の中で俺は勝手に同意したものと決められてしまう。

 なのでさすがにこの流れはマズイと思った俺は、「ちょっと待……」と口を開こうとしたのだが、悪友が続け様に口にした言葉によって遮られてしまう。


「ならとりあえず、今週の日曜は空けとけよっ」


「……はい?」


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