第三三匹 大猪
少年は森の中を突き進むアキトの背中を追いかけながら、彼に質問する。
「アキトさ、アキトさ、あのイノシシらはほったらかしでええんでか? 」
「ああ、大丈夫だ。男衆を先導してるヘカテリーナが、血の匂いでここにもう気づいているだろうな。だから、後のことは任せてる」
「そげでしたか。ハァハァ・・・、ほじゃ、なんでアキトさは森の奥さぁは、どんどん進んでるべか」
少年は息をあげながらもアキトの歩く速度に辛うじて着いてくる。
「ああ、まさかとは思うが俺の誘導作戦を見抜いたイノシシがいるんじゃないかと思ってな。一応、その確認をするぞ」
「でも、アキトさ。この奥は獣でも転げ落ちるほどの急斜面だべ、イノシシもそげなことは知っとるはずだば、そっちには行かねだ」
「ただのイノシシだったらな」
アキトはそう言って、さらに歩く速度をあげて森の奥へ。少年は、些か見に行くことに疑問を持ちながらも、離されまいと必死にくらいつく。
∴ ∴ ∴ ∴ ∴
そうして、その急斜面にたどり着いた時には、その少年の疑問は吹っ飛ぶ。
「こ、こげな、坂を上がった跡があるでねか・・・。ま、まさかほげにイノシシが登ったべか・・・」
「やはり、登ったやつがいたか。それにこの急斜面を難なく上った痕跡から察するに・・・、こいつはかなりの大物。もしかすると、お前のいう大イノシシかもしれない」
少年の顔が大きく豹変し、目の色が変わる。
「アキトさ、それは本当べか」
「ああ、本当だ」
「んだば、おらたちもこの坂を上るべさ」
「まぁ、落ち着け。馬鹿正直に追っても意味はない、この坂は迂回していくぞ」
その言葉に少年は納得がいかない表情をする。だが、アキトはそんなことお構いなしに坂を迂回し進んでいくので、少年はそれを追いかけるしかなかった。
そうして、迂回し進んでいけば、先ほどの坂の反対側の緩やかな斜面に至る。
「アキトさ、ここからどうやってイノシシの痕跡を追っていくべか」
「そんなに焦んな。イノシシってのは平地が好きで、穴堀りを好んで行う習性がある。ならば、大方の行く先は絞れる」
「そげな、まさか・・・」
少年は、アキトの言うことに疑問を持ちながら、後を追いかけていたが、森が開けて広い平原に出て目の前の光景を見たとき
少年の感情が溢れでるのであった。
「じいの仇、仇が居やがる・・・」
少年の憎悪が全身から溢れ出し、髪の毛は逆立ち始め、呼吸は早くなっていく。
「面倒な奴だな・・・」
アキトは少年の背後に回ると、抱き上げて空高く放り投げる。
「へ? 」
突然の出来事に少年は思考が止まる。そうして、落下してくる少年を見事掴んだアキトは一言
「冷静になれ」
と言い、先に進んでいく。
それで、少年はハッとして我に帰る。
「いけねぇだ。頭さ血が上り過ぎて、おらまた失敗するとこだった」
そう言い、少年は気を引き締め後を追うのであった。
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