第十九匹 少女の成果

 ヘカテリーナは完璧に自分の仕事を成し遂げた。後は、俺がそれを引き継いで、完遂するだけだ。


そうして、背負っていた荷物の中から二本のシカの角を取り出す。


これからする狩りは、コール猟でこの角はその際に使う道具だ。


ハレムを形成しているオスジカは、別のオスの発する音を聞くと、それを追い払うために近寄ってくる習性がある。


今から行う猟はその習性を逆手にとる。俺は二本の角を両手に持ち、音が出るようにぶつけ合う。


ガチャァ!! カチカチカチ ガチャァ!! カチカチカチ


オスジカ同士が角を突き合わせて争っているような音を出していく。


それを聞こえたのか、遠くにいたオスジカが首を上げ、音のした方向を凝視し、こちらに近づいてくる。


一旦、ぶつけるのを止めて様子を見る。


オスジカは、時おり止まりながらも足早にこちらに近づいてくる。


「良し・・・いいぞ、そのまま来い」


微かに呟きながら、俺はその時を待つ。


オスジカは、60m・・・50m・・・どんどん近づいてきて、25mまで接近してきた。


「そろそろか・・・」


俺は二本の角を置いて、ショットガンに弾を素早く込めて構える。


ヘカテリーナが両耳をぎゅっと塞ぐ。


一方のオスジカは、神経質に歩いては立ち止まって周囲を見て、また歩くを繰り返しながら間合いに入ってくる。


だが、俺はまだ撃たない。なぜなら、散弾を撃つのは側面を向いた時なのだ。


その時をじっと待っていると、オスジカが横を向く。


俺はシカの肺部分に狙いを定め、引き金を引く。


ダッァァァァン!!


弾が発射されて、狙った場所に小さい粒が拡散する。


その直後、オスジカは崩れるようにその場に倒れる。


それを見ていたハレムのメスジカ達は、我先にその場から逃げていく。


俺達はそれを見送るしかなかった。


今回は、大物狩猟に初めて参加したヘカテリーナもいるし、オスジカがいなくなった群れは相当警戒して、容易に近づけないので


「今日のところは、見送るしかないか」


と、呟く。


そして、近くで耳を塞いでいたヘカテリーナに


「ヘカテリーナ、終わったよ。よくがんばったな」


そう労いの言葉を彼女にかけるのであった。

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