第二十匹 少女の喜美

 「アキトさん、シカを仕留めたんですね。すごいです」


ヘカテリーナは大いに喜びながら、身体全体で嬉しさを表現する。その様子は、なんとも可愛らしいものである。


それはそうと、早く仕留めたオスジカの血抜きをやらなければならない。俺は茂みから出て、倒れているシカに近づく。シカは息苦しそうに頻回に呼吸している。俺はすぐに止めをマタギナガサで刺す。


シカの心臓の近くある大動脈を突き刺して、ナガサを抜けば血が勢いよく溢れ出る。目の光は次第に色褪せていき、真っ黒な目に変わっていく。そこから、血が流れやすいように頭部分を下にして、あらかた血が出た尽くしたら腹を裂いていく。


腹膜を肉から分離させ、すべての内臓を取り出す。もちろん、ハツとレバーはちゃんと確保する。それをヘカテリーナがそれを目を輝かせながら、見ている。


「安心しろ、今日頑張ったからこのハツとレバーはヘカテリーナのものだ」


そう言うと、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべ、


「アキトさんのお役に立ててよかったです。やったーー、嬉しいです」


その喜ぶ姿を見ながら、俺はオスジカの屠体をスキル【回収業者】で吸引して近くの沢へと移動する。そして、到着すれば屠体を沢の水で冷却していく。手際良くすることで、シカ肉の肉質が保たれてうまいのだ。


冷ましている間に、俺は落ちている木の枝を拾って焚火を熾す。ヘカテリーナはそれを待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべる。


「まぁまぁ、そう焦るな。ちゃんとうまく焼いてやるよ」


俺はそう言って、まだ新鮮で光沢のあるレバーとハツを食べやすいように切り分けていく。そして、それらを串に刺して、じっくりと焼いていく。


しばらくした後、ハツとレバーは見事な焦げ目をつけて焼き上がる。ヘカテリーナはそれを今か今かと耳をヒョコヒョコさせながら待っている。そんな彼女をもうちょっと見ていたい気もするが、可哀想なので食べていいぞと声をかける。


それを聞いたヘカテリーナは、串を手に取り一口ずつ食べる。


「んんんん、おいしいです。こっちはコリコリしてて歯ごたえがいいです。」


そう言いながら、半分残す。


「おう? どうした、全部食べていいんだぞ? 」


俺は不思議に思い、そう聞くとヘカテリーナはモジモジとしながら


「あ、アキトさんが仕留めてくれたので・・・。アキトさんにも食べてほしいです」


彼女はそう言って、俺に串を渡す。ヘカテリーナの優しさを無下にはできないなと考えて、俺はそれをもらって食べる。うん、うまい。


「ありがとうな、ヘカテリーナ。ヘカテリーナは、優しい子だな」


そう褒めると彼女は顔を赤くして、耳と尻尾もピョコピョコと嬉しそうに動かしながら、褒められてたことに照れるのであった。

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