第十八匹 少女の偵察

 俺とヘカテリーナは、谷を挟んで点在する獲物に近づいていく。


「ヘカテリーナ、見えている獲物の姿の特徴や今の様子を教えてくれるか? 」


と、小声で狩る獲物の詳しい情報を問う。


「はい、シカっぽいのですが・・・。アキトさんが前に狩ってくれたシカとは少し毛皮の色が薄く、白い玉の模様がいっぱいあるように見えます」


シカなのは確定みたいだが、ノロジカとは違う種のたくさんの白い玉模様・・・。俺はそれらの情報を照らし合わせ、一つの結論を導き出す。


「実物を確認してないから、絶対とは言えないが・・・。それはダマジカだろうな。広がった角をしているオスジカがどこかに居ないか? 」


「ちょっと探してみます・・・。あっ、アキトさんの言う通り、それらしき大きな角を持ったシカが一頭だけいます」


どうやら、俺の読み通りダマジカでほぼ間違いない。また、オスジカが一頭だけしかいないということは、この群れは、そのオスジカのハレムであるということを意味する。


獲物の種類以外にも、群れを構成している個体の性別や幼体の有無などの情報が群れの特徴を理解するために必要不可欠なのである。


今回は、ハレムを形成しているダマジカということなので、それに適した狩猟方法で獲っていこう。



そうこうして、群れに近づいていくうちに、ようやく俺のスキル「望遠鏡」がダマジカの身体の白い水玉模様を識別できるほどになった時、ヘカテリーナが小さな声で俺に囁く。


「アキトさん、シカ達の様子が少しだけ変わった様な気がします。なんだか、辺りが気になり始めているように見えます」


それを聞いて俺は、


「おっと、微かではあるがこっちの気配に気付きはじめたか。しゃーない、接近はここまでだな・・・」


そう言って、近くの木々が生い茂っている場所にヘカテリーナと一緒に身を隠す。


「ヘカテリーナ、俺がこの銃を構えたら、すぐに両耳をしっかり塞ぐんだぞ。かなり大きい音がでるからな」


そう彼女に警告すると、ヘカテリーナは首を縦に三回ほど大きく頷いて理解するのである。


それじゃあ、俺は頑張って見つけてくれたヘカテリーナのために、新鮮な肉を獲って食べさせてやらなきゃな、と気合いを入れ直すのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る