第11話 魔術学園の決闘 その2

 闘技演習場。


 ロイドは学園の演習場に連れ込まれていた。

 ぼくとルッカも、彼らを放っておくことなどできず、一緒に付いてきていた。


 演習場の中心では、ロイドと上級生が対峙している。

 その姿を、ぼくはルッカはふたりで演習場の観客席から見つめていた。


 ルッカの横顔は不安に満ちている。

 自分のせいで、彼を巻き込んでしまったと後悔しているのだろう。


「言っておくが、使う道具は練習用の杖のみだ。おかしな小細工はするなよ?」


「ああ、わかった」


 ロイドが頷く。

 ロイドは、自分からあの上級生の相手を買って出た。

 勇敢な行動だが、相手の性格からして、穏便に済むとは思えない。


「それじゃいくぜ。……《ブロウ》!」


 巨漢の上級生が、ロイドに向かって衝撃魔術を放った。

 ロイドはぎりぎりのところで飛びのき、その場に転がる。

 立ち上がりざま、杖を上級生に向けて同じく《ブロウ》を詠唱。


 だが、そのロイドの反撃は不発に終わった。


「なっ……」


 ロイドが驚愕。上級生がにやりと口元を歪める。

 基礎的な衝撃魔術をロイドが失敗した。

 一見すればそう見えるところだが、ぼくにはそれがべつの理由にあるとすぐにわかった。


 慌てて周囲を見渡す。

 すると、闘技場の両端に、あの巨漢の上級生に付き従っていた腰巾着の二人が、密かにロイドに向かって杖を向けていた。


 妨害魔術だ。

 あれのせいで、ロイドは通常の詠唱を邪魔されている。


「なんて卑怯な……!」


 魔術を封じられたロイドに、巨漢の上級生の《ブロウ》が直撃。

 ロイドは吹き飛ばされる。


「ロイドっ! ひ、ひどい……!」


 ルッカは悲鳴に近い声を上げて、たまらず立ち上がる。

 だがそれを、巨漢の上級生は杖を向けて制した。


「おっと。男同士の勝負に女が水を差すんじゃねえよ。それとも、オマエがオレ様のモノになるってのか?」


 巨漢が下衆な笑い声を上げる。

 すると、ロイドもみずから立ち上がった。


「だめだ、ルッカ……。ここは、俺がなんとかする」


「へっ、言うじゃねぇか」


 上級生は立ち上がったロイドに、再び衝撃魔術を叩き込む。


 ロイドはなすすべもなく、再び弾き飛ばされる。

 三発目、四発目、五発目……。

 容赦ない攻撃にロイドは傷ついていく。

 ルッカはぼくの手をぎゅっと握りながら、それを見つめていた。

 その手はひどく震え、目には涙が浮かぶ。

 

 ぼくは知っている。

 この後、ロイドはその特別な力の一端を解放し、見事あの上級生を返り討ちにする。主人公らしく。

 それがわかっていても、ぼくの胸はひどく傷んだ。


 ルッカの手から伝わる熱が、その痛みをさらに大きくしていた。


「――やめろっ!」


 気づくと、ぼくは観客席を飛び出し、闘技場に乱入していた。

まるでオネスらしくない行動だと、自分でも思った。


「馬鹿……やめろ、オネス……」


 ロイドは自分が満身創痍にもかかわわず、ぼくの心配をした。

 本当に主人公らしい勇敢さと優しさだ。

 だからこそ、ひとりの友達として、ぼくはこれ以上見てはいられなかった。


 たとえ、本来の物語から離れようと。

 友達を見捨てるよりは、何倍もマシだから。


「なんだぁ、お前がやるってのか?」


「そうだ。ぼくが、代わりに相手になる」


「言っておくが、特別な装備は使えねぇぞ。オマエが金持ち貴族のボンボンだってことは知ってるからな。それでもやるってのか?」


「……」


 巨漢の上級生は、オネスにとって痛いところを突いてきた。

 ここでは、以前にショップで買ったような最強クラスの装備は一切使えない。

 それなら――


 ぼくはショップを開くと、【スキル】の項目を選択した。


 装備が駄目なら、


 【右ストレート(レベル99)】

 【武術の心得(レベル99】

 【手加減(レベル99)】 

 【反射神経(レベル99)】 

 【動体視力(レベル99)】

 【魔術耐力(レベル99)】


  合計:372,900,000,000ゴルド


  ▼以上の商品を購入しました。またのご利用をお待ちしております。 

 

 例によって、必要なものをまとめて全部購入。

 途端、身体に力がみなぎる。

 ぼくは一度深呼吸してから、巨漢の上級生を見上げた。 


「いくぜオラぁ!」


 ぼくの顔に向け、衝撃魔術ブロウが放たれる。

 あくびの出るような速度と威力だ。


 ぼくはそれを人差し指でかき消した。


「は?」


 その場にいた誰もが呆然とする。

 ぼくはさらに一瞬で、巨漢の上級生の懐に潜りこんだ。


「悪いけど、人を好きこのんで痛めつけるような相手に、容赦はしないから」


 その腹に、右ストレートを叩き込んだ 


「ぐあああああああああああああああああああ!?」


 ぼくの倍の体重はあろうかという巨体が、軽々と吹き飛んだ。

 もちろん手加減はしたつもりだ。

 だがそれでも、数日は起き上がれないかもしれない。

 

 けど、そこまで気にする必要はないだろう。

 妨害魔術を唱えていた取り巻きの上級生たちが、慌てて巨漢を介抱しにいく。


「オネス、きみは……」


 ぼくは傷だらけで膝をついたロイドに手を差し伸べた。

 ルッカが駆け寄ってくるのが見えた。


「ロイドが戦って相手の体力を減らしてくれたおかげで、助かったよ」


「そ、そういう問題か?」


「とにかく、ぼくたちの勝ちだ。さあ、帰ろう」


 直後、ロイドの手を引いたぼくに向かって、ルッカが問答無用で抱きついてくる。

 驚いたぼくは、その場に情けなく押し倒されるのだった。

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