第10話 魔術学園の決闘 その1

 魔術学園の生徒たちは多忙だ。

 

 座学の授業はもちろんのこと、屋外での実習や実験、様々な魔法生物との交流や、実戦さながらの訓練やテストまで幅広いカリキュラムがある。

 それに遅れず付いていくのは大変だ。


 というわけで、ぼくらはいつものように廊下を早足で歩いていた。


「ほら、ふたりとも! 次マンドラゴラの実験だから、第三棟の栽培室だよ!」


 先頭のルッカに引っ張られるぼくの横で、ロイドは横で苦笑いしていた。

 しっかり者のルッカがいなければ、ぼくは早々に落第生になっていたことだろう。


「きゃっ」


 廊下の曲がり角に差し掛かったとき、ルッカが誰かとぶつかった。


「いたた……」


「ルッカ、大丈夫?」


「う、うん、わたしはべつに――あ」


 ぼくとルッカは、目の前に仁王立ちする巨漢の男子生徒を見上げた。

 その後ろには、二人の生徒が腰巾着のように付き従っていた。

 いずれも制服の襟章から、上級生であることがわかる。


 ぼくははっとした。

 この展開……原作で見たことがある。


「なんだ、テメェら? 新入生のガキかよ」


 第一声から、巨漢の上級生の口調は敵意に満ちていた。


「おい。オレ様にぶつかっておいて、謝罪もなしかよ?」


「ご、ごめんなさいっ」


 ルッカがぺこりと頭を下げる。

 ぼくはルッカの手を取って立ち上がらせ、会釈してその場を立ち去ろうとしたが――


「待てよ」


 巨漢の上級生がその行く先を塞いだ。


「おい、女。オマエ、よく見たら顔は悪くねぇじゃねえか。ちょうどいい、謝罪ついでにオレ様がもらってやるよ」


「なっ……」


 無礼な巨漢の上級生の言葉に、ルッカは驚きと怒りで頬を染める。


「っ……失礼します! 行こう、オネス君!」


 横を通り過ぎようとしたルッカの行く手を、巨漢の上級生は再び邪魔する。


「生意気なんだよ――」


 巨漢の上級生がルッカに手を伸ばした瞬間、


「彼女に触るな」


 間に割り込んだロイドが、巨漢の上級生の太い腕を掴んでいた。


 おお、さすがの主人公ムーブ。

 ……なんて感心している場合じゃない。ぼくもなにかしなくては。

 とはいえ、こういう緊迫した空気のなかでどう動けばいいのか。

 咄嗟に機転がきかない。


「彼女はモノじゃない。当然、あんたのものでもない」


「はぁ? オレ様のものはオレ様のもの。オマエらの物もオレ様のものなんだよ」


 巨漢の上級生は、理不尽な理屈を平然とのたまった。

それでも一向に怯まないロイドに、巨漢の上級生の額に青筋が浮かぶ。


「いい度胸じゃねぇか。身の程ってものをわからせてやるよ」


「彼女に手を出すな」


「はっ、そんなにオモトダチが大事か? だったら、テメェに相手してもらおうじゃねぇか。言っておくが、今さら逃げようったってそうはいかねぇぞ?」


「……わかった。付き合ってやるよ」


 ロイドは強い意志を秘めた眼差しで、巨漢の上級生の申し出を受けた。

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