第24話 静かさの共鳴

 季節ごとの美しさがあります。

 お祭りの賑やかさも楽しいですが、静かさのなかで、移ろう季節の情景にひたるのも味わい深いものがあります。


 今回ご紹介するのは、春夏秋冬、それぞれの季節を動と静であらわした句です。



 ✢✢✢



ひさかたの 光のどけき 春の日に

静心しづごころなく 花の散るらむ

 /紀友則


閑さや岩にしみ入る蝉の声

 /松尾芭蕉


太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。

次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

 /三好達治



 のどかな春の日差し、忙しく散る桜。

 静寂な空間、騒がしい蝉。

 子供の寝息、しんしんと降る雪。


 ひとつの空間で動と静が調和して、季節に深みを与えている。

 短い句でそれを表現できることに驚きます。


 そして、秋――。



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この明るさのなかへ

ひとつの素朴な琴をおけば

秋の美しさに耐えかねて

琴はしづかに鳴りいだすだらう

 /八木重吉



 前回紹介した詩人、松下育男さんはツイッターでこうつぶやいています。


もう

だれにも伝わらなくてもかまわないから

真に書きたいことを

自分のために書いてみよう


そんな詩

こそが

然るべき人の胸に

伝わってゆくのだろう



 素朴な琴は、美しい紅葉と響き合い、共鳴し合い、共振し合い、自分からひとりでに静かに美しい音を奏でだす。

 同じように、ただ自分のために書いたものが、自然発生的に誰かの心に響き、震え、感動を呼び起こす。


「あなたの作品に出会えて良かった」


 そう言ってくれる読者と出会えたなら、書き手としてとても幸せなことですね。


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青く、蒼すぎず、高くふかく 遊井そわ香 @mika25

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