第11話 練習試合 VS泉浦高校

 



 海原高校とのゲーム後、海原高校と泉浦高校が対戦する都合上、時間が空いた。

 3校での対戦なので、必ず残る1校は手持ち無沙汰になる。さっきも泉浦高校が、そんな状況だった。

 その時間は、軽食を取るのと、練習をすることになっている。

 まず先に軽食をサッと取る。

 時間を無駄にしないよう、軽食をとり終わったら、海原高校が貸してくれている外のバスケットコートに向かう。


 コートで、監督の集合がかかった。


「今日の試合を見ていると、海原高校は少し力が落ちていたようだ。さっきの試合は勝てたが、次の試合は油断するなよ。泉浦高校の方は今年はかなり強いらしい。県大会でも戦うことになるだろうな。このチームは全国優勝が目標だ。まずこの試合でしっかり学ぼう。絶対に勝つぞ。じゃあ、作戦を伝えるから、作戦板をしっかり見とけよ。まず、河田は–––––––」


 監督の話から察するに、海原高校は去年までは強かったらしい。

 三年生や二年生が練習試合の相手を告げられたとき、ざわめいたのも頷ける。

 引退した人たちが強かったのかな?


「じゃ、練習開始だ!」


「「「おう!」」」


 外のコートでも、変わらない気迫の中、練習が始まった。


 ***


 外での練習が終わり、再び体育館の中に入ってアップ。

 その後ゲームだ。


 しっかり体を温め、いよいよ泉浦高校との対戦だ。

 泉浦はエメラルドグリーンに白文字のユニフォーム。

 白で書かれたizumiuraの文字がすげぇかっこいいと思った。

 俺たちは今度は白地に濃い水色のユニフォームだ。


 それを纏って試合に臨む。


 最初は3年生の試合だ。


 ジャンプボールは残念ながらジャンパーバイオレーションになってしまい、泉浦高校ボールから試合が始まった。


 そのままの流れで泉浦高校が点を重ねていき、うちのチームが追い上げていくという構図になっている。第1Qは川島18ー26泉浦で終了。


 第2Qに入っても変わらず泉浦高校が優勢で、なかなか点差が縮まらない。

 さらに、泉浦の14番のスリーポイントシュートが当たり出し、余計に点差が開く。結局、川島27ー41泉浦で第2Qを終え、休憩時間へ。


「クッソウ!強え……!」

 河田先輩が悔しがる。


「強いな……。思っていた以上だ」

 植原先輩も同意する。


「まず、14番のスリーポイントがよく入りますね……」


 作戦会議が始まった。


「まず、マークしっかりしようぜ」


「カバーもだな。っていうか、声しっかり出そうぜ。出てないよ」


「おう。あとは–––––––––––」


 休憩が終わって、試合が再開する。


 その前に円陣だ。


「絶対勝つぞっ!」


「「「おう!!!!」」」


 そして、第3Qが始まった。


 話し合った内容をしっかりと実践し、着々と追い上げていく。

 みるみる点差が縮んでくる。もちろん泉浦もそれをほっとくわけがなく、より厳しいディフェンスと、激しいオフェンスで競り合ってくる。


 そのままかなりのハイペースで試合が進み、第3Qは川島47ー52泉浦で終わった。


 そして第4Q。


 俺も試合に。

 スリーを決めてこいと監督から言われた。


 始まったら、一生懸命走って、スクリーンをしてもらってフリーにしてもらい、シュートを決める。スクリーンがダメだった時もボールを貰えばドライブを仕掛け、シュートをねじ込んだりパスを回したりした。

 先輩たちも逆転するため、必死でプレー。


 途中から武田も入ってきた。

 武田も得意の鋭いドライブを使って点を重ねていく。


 気づけば第4Qが終わっていて、いつの間にか逆転していた。

 全く記憶なし。


「「「ありがとうございました!」」」

 挨拶をしっかりして、ベンチに戻る。結論から言うと、めっちゃ褒められた。

 監督からも「よくやった」って。

 めちゃくちゃ嬉しい。


 次は2年生の試合だ。


 こちらも初めはうちが劣勢だったが、徐々に追い上げ、第3Qには逆転し、さらに点差を広げて快勝。

 ちなみにこの時の応援で俺は喉を痛めた。


 最後は俺たち1年の試合だ。


 スタメンは海原戦と同様、俺、武田、小林、小山、村山だ。


 ジャンプボールも変わらず小林が担当。


 小林がしっかり取ってくれた。


 ボールは俺に回ってきた。


 ドリブルで、相手陣地に攻め込んでいく。


「武田っ」

「ヘイッ」


 武田にパス。


 ボールを受け取った武田はいきなりスリーを打った。


「おおっ?!」


 ガンッ

 ボールは残念ながら、リングに当たって落ちた。

 リバウンドは泉浦にとられた。


「ドンマーイ!!切り替えて切り替えてっ!!」


 ベンチから応援歌と共に声がとぶ。


 切り替えてディフェンスだ。


 しっかり守り抜き、ボールを奪う。


「速攻っ!走れっ!!」


 先陣を切って走り出したのは武田。


 ボールを取った小山からダイレクトにパスが飛ぶ。


 そのまま武田はレイアップ。


「よーしっ!!いいぞぉ!!」


 チームが盛り上がる。

 こうなれば流れはもううちにある。


「ディフェンス!!声出せ!!」

 監督からも指示がとぶ。

 気を引き締めてプレー。


 一本一本確実に守って、攻める。

 守って、攻める。守って、攻める。


 もし点を取られても、慌てず丁寧に点を取る。


 そうして、第1Qが終わる。


 点差は川島26ー14泉浦。


「勝ってる勝ってる!!」

「いいぞお前ら!!」


 先輩たちも盛り上がっている。


 これを最終Qまで保てないとな……。


 汗をタオルで拭いながらそう思う。


 そして第2Q。


 あ、あれ……?!


 相手の動きが第1Qと全然違うぞ?!


 武田も戸惑っている。


「な、なんでだ?!」


 急に動きが良くなった泉浦高校は、脅威の猛攻で追い上げ、俺たちの必死の食らいつきも虚しく、あっという間に逆転され、第2Qが終わってみれば、川島35ー45泉浦という結果に。


「後半はもっとコミニュケーションとって、点を取ろう!」


 そして第3Q。


 相変わらず動きがいい。

 何より連携と個人技、両方の能力がとても高い。


 俺もスリーを打つが、


 ガンッ


 一向に入らない。

 ディフェンスもうまい。


 相手に一方的に攻められる。


 なんとかこちらも点を重ねるが、結局試合が終われば川島48ー73泉浦と惨敗だった。


 負けた……。


 その事実が重くのしかかってくる。


 先輩たちは勝っていたから、余計に。




「「「ありがとうございました」」」


 挨拶を済ませ、控室へ。


「くそうっ!!」


 床に手をつき、肩を震わせる。


「負けたっ……!」


 練習試合なのに、めちゃくちゃ悔しい。


 着替えて、集合場所に指定されていた校門の前へ。


 監督からの話だ。


「海原戦の話は昼にしたからもういいな。泉浦戦だな。2、3年はまあ、良かった。が、ノってくるのが遅いかな。序盤もしっかり点が取れれば、な。うちはスロースターターのチームじゃないし、そこはきっちり頑張ろう。そして、1年」


 刹那、1年生は体が強張らせる。


 俺も例外無く、何を言われるかドキドキしていた。


「1Q目は良かったな。問題は2Qから。まあ、あの変わりようは俺もびっくりしたが、お前たちは海原戦はもっと動きが良かったと思うぞ。どんな相手でも、自分の実力を出せないとな」


「「「はい」」」


「あとは、もっと練習だな。合宿でしごくからな。待っとけ」


 みんな顔が引き攣る。

 まあ、頑張ろう。


 もう二度と、負けたくない。


「じゃあ、帰るぞー」


「「「はい!」」」


 ***



 電車に揺られながら考える。


 どこがダメだったか。

 あの場面で俺は何ができたか。

 何をするべきだったか–––––––。

 何度も何度も、今日の試合を頭の中で思い返す。


 よし。


「もっともっと上手くなれるように、合宿でいっぱい練習するんだ……!」


 ゴテン。


「痛!」


 頑張ろうと決意してるのに、誰だ俺に体を倒してくるやつは……。


 見ると、武田。


「こら、起きろばかやろー」


「んにゃ?お母ちゃん、おはよー」


「俺はお前の母ちゃんじゃねえし、朝でもねぇよ!」


「……ん?ああ、伊織。おはよう。あれ?ここどこ?」


「だから、朝じゃねぇって。んで、ここは電車の中」


「あ、そっか。悪りぃ」


「はぁ。お前、寝てるけど、負けてなんも思わないのか?」


「え?なんか思っても仕方ないだろ?失敗をしっかりと反省したら、あとはもう振り返らない。俺の生き様」


「生き様って……。正直かっこ悪っ。でも、そうだなぁ。クヨクヨ過去ばっかり見ていても、仕方ないよな。いいや。反省点は分かったし、あとはそれを改善するんだ」


「そうそう。な?俺いいこと言っただろ?」


「ああ、その一言で全部台無しだけどな。お前、そういうことは反省もしないで振り返ってないだろ」


「……えへ?」


「えへじゃねぇよこのぶりっ子め」


 なんだかんだ、武田がいるから楽しく過ごせてるのかもなぁ。と、最近は結構思っている。



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読んでくださりありがとうございます。







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