第12話 オフの日

 



 今日はオフ。


「何をしようか……」


 監督からゴールデンウィークの予定を聞かされた時から、この日は何をしようかとずっと思っていたが、結局何をするか決まらず、さらにはいつも朝練で朝が早いせいか無駄に早く起きてしまい、朝食を済ませると暇になった。


 とりあえずランニングでもいくか、と思っていると、近くにあったスマホが震えた。電話だ。


 ……誰だ?

 画面も見ずに適当に電話に出た。


『もしもし』


『しもしも?』


『武田だな?』


『な、なぜ分かった?!』


『いや流石に分かるわ。要件は?』


『いやー、あのさ、』


 話を聞くと、今日、クラスの人たちで様々なスポーツが楽しめる施設に遊びにいくらしい。

 で、俺を誘うために電話してきた、と。


『断る』


『なんで?!』


『バスケの練習したい。昨日今日で遊びにいく気分にはならない』


『バスケもやるぞ?っていうか、友情も大事だろー』

 まあ、武田が言うように、友情も大切だ。

 よく考えたら、練習したければ武田と1on1をすればいい。

 バスケができる施設があるのなら、まあ、行こうかなとは思う。


『分かったよ。行く』


『よっしゃ、今日13時からなー!忘れんなよー』


 場所は俺の家から、およそ十キロほど離れた場所にある。電車で行くのが1番良いが、運動するため、せめて自転車で行こうと考える。

 現地集合だし、良いだろう。


 午後からの予定は埋まったので、着替えてランニングに。


 玄関から出て、ふと気がつき、高校入学を機に、別に自転車通学でもないのに買ってもらったロードバイクのタイヤの空気が入っているかを確認。


 後ろは入れた方がいいか……。


 空気入れで空気を入れてから、チェーンに油をさしたりして、整備を終える。


 さて、ランニング行きますか!



 結局、十キロ走った。明日から疲れまくるからとは思っていたが、ついつい走ってしまった。河川敷を走るので、景色が綺麗で余計走りすぎた。


 家に帰って、汗をかいた服を洗濯機に放り込み、部屋着に着替えて時計を確認すればまだ9時。


 仕方ないので、やりたくない宿題を開き、進める。


 割と勉強が嫌いな俺にとって、苦痛でしかないこの作業は、まるで地獄。

 だが今日やっておかないといつできるか分かったもんじゃないので、できるだけ進める。


「ああああああ!!」


 しんどい!!


 なんとか結構な量を進めることができた。


 気づけば12時。


「ご飯よー」


 母さんが呼ぶ声。

 ありゃ、時間的にすぐ食べてすぐ家を出ないと間に合わないかもしれない。


 昼ごはんの炒飯をぱぱっと平らげ、なるべく動きやすい格好に着替える。

 そして、「いってきまーす」の声とともに外に飛び出し、自転車にまたがって目的地に向かって漕ぎ出す。


 結構飛ばさないと間に合わないかもしれないな……。

 武田、遅れるとうるさいからな……。


 ロードバイクだから、スピードは出るので、ルールを守りながら飛ばす。



 なんとか間に合った。

 現在12:53。


 自転車を置いて、スマホを確認すれば、1分前に『もう少しで着く』とのメッセージの通知。


 水分補給をしながら、入り口前で武田達を待つ。


 その数分後、武田含むクラスのメンバーがやってきた。


「伊織ー!早かったなー」

 武田が笑いながら寄ってくる。


「おう」

 返しながら、絶対不可侵領域を張る。実際には両手を前に向けただけだが、武田はノリに乗ったのか「ぐはっ」とか言いながら大袈裟に転んでみせた。


 みんなが笑う。

 この光景も、なんだかんだ定着してきた。

 そして、入学当初向けられていた変な視線はもうない。

 まあ、あれは俺が悪いんだが。


 結局、1年5組ほとんど全員、揃っていた。

 女子も来ているので、この機会にいいとこ見せちゃうぞと息巻いてる男子も少なくない。

 俺はバスケしかするつもりはないので、途中で適当に別れようと思っていた。


 みんなで施設内に入り、お金を払って入場。フリータイムで。時間を気にせず遊べていい。ちょっと高いけど。


 さあ、バスケのところに……と思っていたら、武田がスススッっと寄ってきてこう一言。


「勝手な行動は許さんぞ?」


 捕まった。


 で、いろんなスポーツをやった。


 バドミントンに、サッカーに、野球に……。


 結論から言うと、結構楽しかった。

 そりゃあ、もうとてもとても盛り上がったよ。


 何より男子が。


 女子がキャアキャア応援するから、めちゃくちゃやる気になって、本気でプレーする。

 何回か俺も参加したけど、応援が落ち着かないし、相手は燃えてるしで、負けっぱなし。

 ちなみに武田も。


 でも、意外と武田、シューティング(銃の方)ゲームをやってみれば、めちゃくちゃ上手くて驚いた。もしかして、前世スナイパーだったりすんのか?


 他にも、大人しそうな奴が、バッティングで好成績を出したりして、クラスメートの意外な一面を知ることができた。


 んで、遊び尽くして最後。


「伊織、俺たちの本領発揮だぜ」


「ようやくバスケ?」


「おう」


 この時を待っていました。はい。


 俺は、結局何をやっても全然ダメ。


 女子にも笑われる始末。


 このままだと馬鹿にされて一日が終わっちまうよ、と思っていたらやっとだ。


 ここでなんとか挽回して、何にもできないダメなやつ、という称号を捨てるんだ。

(誰もそんなことは言ってない)


 なんか、今までやってたスポーツはちょっと並んだりしたのに、バスケはコートが4面用意されてるのにそのどれもがガラ空き。


 ここら辺はバスケ人気ないのか?


 とにかく、バスケしたい。


 この様子じゃあ、時間を気にしないでバスケができる。ラッキーだ。


「がんばれー」


 女子が応援すると、男子が燃える。

 お願いだからやめてくれ。気が散る。応援はほどほどに……。


 気を引き締める。遊びだからといって、手加減はなしだ!


 なんか知らないけど、武田が同じチーム。


 いいのかいそこの君たち。

 バスケ部1年2トップが揃ってるよ?

 知らないよ?


 こういった遊戯施設にしては珍しい、規格通りの大きさの半面コートで試合。


 じゃんけんで、俺たちから攻め。


 まあ、他の奴には任せられないから、俺がガード。


 うん?武田がガラ空きだねぇ。


 よっ


 簡単にパスが通ってしまった。


「あああ?!」


 相手チームが嘆く。


 武田は、カッコつけるためか、わざわざダブルクラッチでシュートを決めた。


 あのフォームの良さは俺も尊敬するよ……。


 女子も目を奪われていた。と思う。


 攻守交代。


 相手の攻め。


 だが。


「あまーい!!」


 武田があっさりとボールをスティール。


 また俺たちの攻撃。


「伊織、決めちまえ」


 まだスリーポイントラインにも到達していない地点でボールをもらう。


 決めれるだろ?と武田はサムズアップして一応のリバウンド用意。


「決めるからそこまで行かなくてもいいのに」


 まさかここから打ってくるとは思っていない相手の男子は、かなり下がっている。


 余裕で打てる。


 よっ


 ビッ


 ヒュー


 スパッ



 相手の男子はあんぐり口を開けて固まっている。かわえて武田以外の味方も同様の状態に。


「おーい、大丈夫か、おーい」


 なんとか目を覚ましてやる。



「伊織くんすごいね」


「かっこよかったなー、今のシュート」


 そんな女子たちの声が男子の奴らに届いた瞬間。


 俺に向けられたのは、憎悪と怒りの視線。


 ギロリ。


 幾多の視線がひしひしと俺に伝わってくる。


 あ、やべ。

 こりゃやばい。


「いおりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


「俺たち全員と、お前1人で勝負しろやぁぁぁ!!!!!!」



 …………は?


 まじで言ってる?


 21対1……?


 無理あるよ……。


「いや、せめて武田は抜いてもらっていい?」


「いいぜ」


 ならいいや。


 流石に武田含む21人と戦うはきついよ。


 結局、20対1。


 なぜか5対5はどこかへ行ってしまった。


 せめてのお情け、と俺ボールから。


 なんかすごくなめられてる気がするな……。


「あのー、君たち、忘れたわけじゃないよね」


「「「あ?!」」」


「いや、なんでもないですすみませんでした」


 謝りながら、なぜかすっかり下がりきっているディフェンスの前でシュート。


「ああああああああ!!!!」


 うん。正直、アホなのかと思ったよ。

 いや、さ。一応俺はバスケ部で、技術に差はあるけど、流石に直前でみせたプレーを忘れるとか、さ……。


 やっぱりこれも綺麗に入る。


「なんでだよっ!なんで入っちゃうんだよ!!」


「いや、あのー」


「できるなら最初から言えよぉ!」


「いや、だから君た」


「伊織許すまじ」


「いやなんで?!」


 結局、20人中、10人が俺のマークについて、大乱闘状態になって、俺がボッコボコにされて決着がついた。


 女子が幻滅してたのは彼らには内緒にしておこう。


 そろそろいい時間になったので、各々帰宅することに。


 数人は、もうちょっと残って遊ぶ、と言って残ったが、俺や武田は明日から合宿だし、門限がある奴も少なくないので、多くは帰ることに。


 俺以外の奴らは電車で来たので、施設から出たところでさようならだ。


「じゃーなー伊織ー」


「バイバーイ」


 駅に向かって歩き出す武田たちを見送ってから、俺も自転車に乗って我が家を目指す。


 来てよかったな……。

 なんだかんだ楽しんだ。

 明日からはまた頑張ろう。


 家に着くと、いい匂い。


「ただいまー」


「おかえりー」


 この匂いは……カレーだな?


 家モードの服装になって、夕食。


「楽しかったの?」


 母さんが聞いてくる。


「うん。楽しかった」


「よかったわねー。母さんはね、学生の時は–––––––––」


 母さんの思い出話を聞きながら、伊織家の夕食の時間は過ぎて行った。


 ***


 寝る前に、合宿の準備。

 必要なものをカバンに詰める。


 3回全部入っているか確認。


 念には念を入れて。


 そして、スマホでアラームを設定し、早起きの準備。

 明日は朝6時起き。


 早めに布団に潜り込む。


 今日はいい1日だったなー。

 明日からの合宿も楽しみだなー。


 目を閉じていろんなことを考える。




 そうして、伊織のオフ日は終わった。


 ***


 ちなみに……。


 他のメンバーの過ごし方



 河田:主に運動。家で映画も見た。


 植原:宿題を終わらせた。トレーニングをこなした。


 筒井:宿題やって、ゲームやって終わり。


 江川:家がラーメン屋で、お駄賃ありのお手伝い。


 上島:寝てた。


 倉敷監督:ほとんど寝てた。合宿のスケジュールを考えた。


 顧問:採点など、学校の仕事。帰って、子供と遊んだ。




 結局、オンオフが激しい人たちばかりである。


____________________________________


読んでくださり、ありがとうございます。



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る