第27話 生きるということ


 ティルディスに戻り、セラーナとギルドに報告に行った後、オレは一人でリルファちゃんの所に任務達成の報告をしに向かった。

 サラさんが出迎えてくれて、食卓の椅子に案内してくれた。

 エイミーちゃんとリルファちゃんもすぐに部屋から出てきて椅子についたので報告を始めた。


「まず、村にも村人にも更なる被害は出ていなかったよ。そして森の奥の方で魔物を発見した」


 最初に発見したのはクロウリーという白い魔物だったこと、皆を襲った黒い魔物はヘスラーという弟だったこと、彼らは<ワームホール>によってこちらに飛ばされてきたことなどを順に説明していった。

 その後、仲違いが発生し、ヘスラーを追跡して発見するまでの経過も伝えた。

 そして、ヘスラーの方も人を襲うつもりはなく、むしろ人と仲良くしようと思ったこと、しかし、予想以上に驚かれて慌ててしまい、パニックになってあのような結果になってしまったらしいという事を伝えた。

 エイミーちゃんは複雑な表情をしている。


「信じるか信じないかは任せるし、無理に納得しようとしなくてもいいよ。」


 落ち着かせるため、優しく頭を撫でてあげる。

 両親を殺した相手に、そんなつもりがなかったんだと言われても、はいそうですかと納得できるわけがない。


「確かに突然こちらに飛ばされてきた彼らには同情の余地があったし、言葉通りに人間に危害を加えようとしていたわけではないことは、話していてわかったんだ。でもオレはリルファちゃんからの依頼を受けていたから、ヘスラーを倒した」

「殺しちゃったんですか?」


 エイミーちゃんがオレの目を見て問いかけてくる。


「ヘスラーは贖罪するかのように、わざと隙だらけの攻撃を仕掛けてきたんだ。殺してくれと言わんばかりに。だからその首元を狙って剣を一閃したよ。何の抵抗もなく、剣はヘスラーの首を通り過ぎていった」


 あえて肯定せず、切りながら治したことは伏せて、反応を窺ってみた。


「そうですか……」

「どうしたの?」

「わからないです……。確かにお父さんお母さんの命を奪った魔物だけど、今の話を聞くと、それでよかったのか分からないんです……。魔物を殺してもお父さんお母さんが生き返るわけじゃないし……」


 葛藤を抱えつつも単純な問題ではないと思ってくれているようだ。


「そうだね。オレもただ単純に殺せばそれで終わりというようなものじゃないと思ったから、一度倒した後に治したんだ」


 切りながら治したこと、ヘスラーとクロウリーと契約を結び、フォーステリアに帰れるようになったこと、それにより人への危害は許可がなければできなくなったこと、そしてヘスラーには償いの為にエイミーちゃんとリルファちゃんを命がけで守る様に伝えたことなどを説明した。

 もちろん、2人それを納得したらだ。


「2人が受け入れられないと思ったらなかった事にする。でも、短期間に色んな事が起こりすぎて気持ちも考えも整理できないだろうし、もう少し落ち着いてから考えようか」

「はい……、あの、その魔物と私が話すことはできるんですか?」

「召喚すれば直接話すことも出来るよ」

「一度、お話してみたいです。話をしてから決めてもいいですか?」

「もちろんだよ。でも家の中だと窮屈になっちゃうし、外だと周りがびっくりしちゃうからオレの家に移動しようか」


 リルファちゃんもサラさんも同行するとのことで、皆でオレの家まで移動することにした。


 道すがら、リルファちゃんはオレと手を繋ぎ、楽しそうにはしゃいでいる。

 エイミーちゃんは硬い表情をしながら俯き加減で歩いている。

 サラさんはその様子を気にしながらも、話しかけず見守りながらついてきた。


 ◆


 家に到着すると、3人とも家の大きさや豪華さに口を開けて驚いていた。

 色々自慢したい気持ちをグッとこらえて応接室に案内し、お茶とお菓子を出す。

 他のメンバーはギルドや仕事などで全員不在だった。


 リルファちゃんは既にお菓子に夢中のようで、エイミーちゃんもキョロキョロと部屋を見渡し、お茶やお菓子を口にする。

 家を建てた時の出来事などを話していると少し表情も和らいできたようだ。


「さて、そろそろ呼び出すかい?」

「……はい。お願いします」


 改めて、絶対に危害は加えられない事を説明し、“召喚コンジュレイション”でヘスラーとクロウリーを呼び出す。

 床に魔方陣が展開され、その中から黒と白のライオンのような魔物が出てくる。

 リルファちゃんは輝く魔方陣に目を輝かせているが、エイミーちゃんとサラさんは緊張した面持ちだった。


「こっちの黒い方がヘスラー、白い方がクロウリーだよ。ヘスラー、この子があの時の子で、エイミーちゃんだ。こっちのリルファちゃんは亡くなられた両親のお子さんで、サラさんはお父さんの妹さんだ」


 ヘスラーとクロウリーは『ハッ』と短く返事をし、お座りの形で姿勢を正している。

 ヘスラーは自分から話していいのか迷っていたが、エイミーちゃんが一歩前に出た。


「ど、どうして……、どうしてお父さんとお母さんを殺したんですか!? 命を奪って楽しいんですか!? あなた達なんて、魔物なんていなければ! お父さんもお母さんも死なずに済んだのに!」


 エイミーちゃんが涙を流しながら一息で叫び、その場に頽れる。


「エイミー殿、申し訳ない。我らが」

「エイミー殿! クロウリーは何もしていない。全ては我の責任なのです。我が未熟で愚かであったため、あなたを傷つけ、ご両親の命も奪ってしまった……。どんな理由がをつけようとも、その事実は変わらない……。主殿に与えられた命だが、エイミー殿が望むなら、この命で償わせて頂きたい」


 ヘスラーがゆっくりと、嘘偽りのない態度で話す。


「なんで、なんでそんなにまとも何ですか……。もっと悪者みたいにしてくれたら憎めるのに、これじゃどうしたらいいか分からないじゃないですか……」


 泣きながらエイミーちゃんが訴える。

 ヘスラーもクロウリーも言葉が出ず俯いている。


「エイミーちゃん、さっきも言ったように、無理して今すぐ答えを出さなくてもいいと思うんだ。世の中には反省してないのに反省していると言う奴もいるしね。ヘスラーとクロウリーはそんなことないと思うけど、これからの行動を見たり、気持ちが落ち着いたりしてからどうしたいかを考えてもいいと思うよ」


 オレの言葉にエイミーちゃんも頷く。


「わかりました、そうします。でも、もし反省が嘘だとわかったら、私は許しません」


 涙を拭って顔を上げ、ヘスラーとクロウリーをしっかりと見据えてそう言った。


「ありがとう。その時はオレも許さない。だからこの2人のこれからの行動を、しっかり見届けよう」


 再びエイミーちゃんが頷く。


「エイミー殿、主殿、償う機会を与えて下さり感謝致します。身命を賭してお二人の安全をお守り致します」

「我も微力ながら、この命を懸けてお守り致します」


 ヘスラーとクロウリーが伏せの体勢で誓う。


「あと、オレも正直に言うよ。実は、出来ればあまり命は奪いたくなかったんだ。神様に悪い魔物ばかりじゃないって聞いて、実際に魔物や魔族の中にもこうやって話が出来るやつがいるってわかって、話せばわかるんじゃないかって。でも、今回、エイミーちゃんにもそれを押し付けるような形になってしまって、本当に申し訳ない」


 真っ直ぐにオレの目を見て聞いてくれていたエイミーちゃんに向かって頭を下げる。


「いえ、ヴィトさん、謝らないでください! 私もヴィトさんのお話を聞いて、命を奪い合うのが本当に正しいことなんだろうかと思ったんです。今はまだよくわからないけど、考える機会を下さって、すごく感謝してます」


 エイミーちゃんが近づいてきたので顔を上げると、オレの手を握って言葉を続けた。


「それに、私もヴィトさんに救われたんです。ヴィトさんがいなければ、私も閉じこもった世界から出る事はなく、憎しみと後悔だけを抱いて生きて……、いえ、もしかしたら死を選んでいたかもしれません。だから、ヴィトさんが与えてくれたこの機会に、命ってなんなのか、生きるとはどういうことか考えてみたいと思います」


 先程までの硬い表情が少し和らぎ、笑顔でそう言ってくれた。


「リルも考える!」


 あまり話を分かっていないであろうリルファちゃんも手を上げて宣言した。

 サラさんはまだ不安げな表情をしているが、見守ってくれている。


「ありがとう。でも無理はしなくていいし、オレに気を使う必要はないからね。自分の思うように感じて、考えてくれると嬉しいな。皆で頑張ろうね」


 その後、新しくお茶を入れ直し、改めてヘスラーがエイミーちゃんとリルファちゃんをどの様にして守っていくかを話し合った。

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