第25話 魔物を探して

 

 警戒しつつ、反応があった場所へゆっくりと近づいていく。

 “範囲探知エリアディテクション”も継続しているが、今の所変わった気配はない。


 目標の場所の付近まで来ると、切り立った崖が聳え立っていた。

 見上げるほど高い崖の麓に、一か所にぽっかりと空いた大きな穴がある。

 反応はその洞窟の50mほど奥に入ったところにある。


 先にいくつか“トーチ”で明かりを作り出して洞窟の奥へ飛ばし、明かりを確保する。

 奥の方に広いスペースがあり、そこに結界を張った何かがいるようだ。

 反応がある場所は一見何もないように見えるが、大気の揺らぎのようなものが感じられる。


 全員の補助魔法を上書きし、タックとオレが先頭に、セラーナとプラントさんが真ん中に、後方にススリーが続いて、後ろからの奇襲にも備える形で奥に進んでいく。


 今回は、王都で初めて<ワームホール>に遭遇した際の反省を踏まえ、作成したそれぞれの装備も装着済みだ。


 家具を作ったときの様に各自がこんな装備が欲しいとアイデアを出し、金属製品はタックに、布や革製品はセラーナに作成をお願いし、オレとススリーで付与術を行った。

 それぞれ好みや個性があって興味深く、全員満足のいくものを製作することが出来た。

 オレは動きやすさや取り扱いを重視して、ブラッドウルフの皮に鉄のプレートを組み合わせた防具と短剣を二本作ってもらった。加えて弓も作ってもらったが、遠距離攻撃は魔法で代用できなくもないのであまり使わないかもしれない。

 また、家の貯水槽を作った様に“次元隔離収納ディメンションバッグ”を作成して皆に持ってもらっている。

 大きさや容量、重さを気にすることなく持ち運べるので大好評だった。

 オレは“倉庫ストレージ”という魔法を新たに作り出したので、バッグすら必要なくなったが、手ぶらなのも怪しいので一応小型の“次元隔離収納ディメンションバッグ”を腰部につけている。


「結界を使える魔物は初めてです。ブラッドウルフではない様ですから気を付けましょう」


 セラーナの言葉に皆で頷き、各自武器を手にして奥へ進んでいく。

 “トーチ”を先に飛ばして照らしているし、結界の内側からはこちらを確認可能なはずなので、こっそり近づいても正直バレバレだが、いつ襲ってきてもいいように慎重に近づいていく。

 10mほどの距離まで近づき様子を覗うが、結界に変化はない。


「これはただの認識阻害の結界っぽいね」

「そうですね。防御効果やトラップなどもなさそうですが……」

「オレが解除してみる。皆、念のため襲撃に備えておいて」


 そう言って結界を解除するための魔法を使う。

 “強制解除キャンセル”といって、“ジャミング”の技術を応用して魔力の流れを阻害することで、無理やり魔法を解除してしまうものだ。

 これもリーベラさんに“スキャン”が効かず見破られた時、魔法が効かない、破られる可能性があることも考え、自分たちで様々な魔法の弱点やうち破り方を研究した成果だった。


 何の抵抗もなく解除され、効果を失っていく魔物の結界。

 中の様子が露になった時、そこにいたのは1体の白い魔物だった。

 村で聞いたようにライオンのような姿で、以前見かけたブラッドウルフのボスよりも一回り大きい。

 すかさず改良した“スキャン”も行っておく。

 風魔法Lv7,雷魔法Lv7、光魔法Lv6と“白い牙ホワイトファング”というスキルを持っているようなので皆に情報を共有しておく。

 しかし、魔物は横たわりこちらに顔を向けてたまま、動く気配はない。


「ん? なんか怪我してない?」

「あれ? 本当ですね」


 真っ白い毛並みの身体だが、所々赤く染まっており、特にお腹の辺りが著しい。

 黒い方の魔物が見当たらないが、誰かが討伐に来たのだろうか?


「ヒト族か……。我を討伐しに来たか」

「うぉっ!? びっくりした。話せるんだ」

「我らはな。我らを探しに来たのだろう?」

「そうだね。近くの村に被害が出たから、その調査と討伐に来たんだ」

「やはりか……。すまない、村の者たちには迷惑を掛けてしまった」


 なんか予想と違う反応だ。


「じゃあ村を襲ったのはあなたで間違いないのかな?」

「……。そうだ」

「わかった。やっぱり黒い方だけか。そいつはどこに行った?」


 驚いたようにこちらを見る白い魔物。

 村の人の目撃情報とエイミーちゃんの情報をまとめると、襲ってきたのは黒い方だったし、白い方を見かけた人は襲われていなかった。

 エイミーちゃんが襲われた時も、もう一体が来たことで黒い方も去っていったらしいし、白い方は何もしていないんじゃないかと思っていた。

 しかし、白い方は答えない。


「とりあえず、村を襲っていないあなたを傷つけるつもりはないよ。でも、その傷は誰にやられたんだい? 黒いやつかい?」

「……そうだ」

「黒いやつは仲間じゃないのかい?」

「……先ほどまではそうだった」

「なるほど。いずれにせよオレたちは黒いやつを探しださなければならない。仲間を庇う気持ちは分かるけど、これ以上被害を出さないためにも話を聞かせてくれないかい?」


 しばし逡巡した後、白い魔物はゆっくりと話し始めてくれた。


「……我らはフォーステリアのシュゴットという国の森で暮らしていた。近年、シュゴットを治めるジルグラインという王が<フォーステリア>と<ミリテリア>を繋ぐ魔法の研究をし始めてから、<ワームホール>が頻繁に発生するようになってきた。多くはすぐに閉じてしまい、特別影響はないのだが、運悪く<ワームホール>が発生した際に、我らはその付近にいて巻き込まれてしまったのだ」

「魔族が作った<ワームホール>で送り込まれて来たわけじゃないってこと?」

「そうだ。我らはジルグラインの為すことにも<ミリテリア>にも興味はなかった。しかし、偶然発生した<ワームホール>に巻き込まれ、こちらに来てしまった」

「それは災難だったね……」

「すぐに戻ろうとしたが<ワームホール>は閉じてしまった。だから我らはこの森に隠れ、再度<ワームホール>が開くのを待っていた。しかし、<ワームホール>が開くことはなかった。我らはこの地で生きていくことを決めたが、我とヘスラーの考えは異なっていた。我はこの森でひっそりと暮らしていくことを望んだが、ヘスラーはヒト族の村を奪うと……」


 時折苦しそうに顔を顰めながら話を続ける。


「我が止めていたが、この前、我が目を離した隙に、遂にヒト族を襲ってしまった。そして、『やはりヒト族は弱い。我らが森に隠れて生きる必要はない』と言うようになった。それでも説得を続けていたが、不自由な生活に嫌気が差したのだろう……。先ほど我を襲い、ここを出ていってしまった……」


 白い魔物は傷ついた身体を起こして、こちらに向かい合うように座った。

 タックが思わず叫ぶ。


「おい、酷い怪我なんだから動くなよ!」

「ありがとう、ヒト族の子よ。こんな事を頼めた義理ではないが、どうか、ヘスラーを止めてくれないか。これ以上人を傷つけてしまう前に……」


 そういって、こちらに頭を下げた。


「言われなくても止めるつもりだよ。オレたちはそのヘスラーに両親を殺され、姉も酷いけがを負わされた妹から依頼を受けてきたんだ。はっきり言っておくと、そのヘスラーの命を奪ってでも止めるつもりだ。それでも構わないんだね?」

「あのヒト族の家族か……仕方がない。罪のない命を先に奪ったのは我らだ。命を持って償うしかない……」

「ヘスラーはあなたの家族なのかい? あなたって呼ぶのも慣れないな。名前は?」

「我の名はクロウリー。ヘスラーは我の弟だ。ヘスラーはあんなことをする奴ではなかった。<フォーステリア>でもヒト族と共に暮らしていた時もあった。こちらに来てから変わってしまった……」

「同情する余地はあるけど、かといって見逃すわけにはいかないからね。こうしている間にも襲われているかもしれないし、急がないと。クロウリー、どこに行ったかわかるかい?」

「向かった先はわからぬ……。ただ、ヘスラーも我と戦って傷を負っているからすぐに人を襲うことはないと思うが……」

「そうか。じゃあ弟を止めたいならクロウリーにも手伝ってもらうよ」


 “治癒ヒーリング”でクロウリーの傷を治していく。


「これは……治癒の魔法……!? しかもこの傷の治りの速さはかなりの高Lv……! なぜヒト族が!?」

「いろいろ事情があってね。傷は治ったけど減った血液や体力はすぐには戻らないから、無理はしないように。まぁ説明はヘスラーを止めてからにしよう。何か居場所が分かる方法はないかい?」

「ありがとう、ヒト族の子よ。我らは姿を隠していても、お互いに匂いでわかる。ヘスラーの匂いを辿っていけば追いつけるだろう」

「わかった。オレたちも後ろからついていくから、全速力で頼む」


 立ち上がり、匂いを探すクロウリー。


「こっちの方角だ」

「よし、じゃあ行こう」


 被害が出る前に早く止めなければ。

 クロウリーを先頭に、オレたちはヘスラーを追って森の中を突き進んでいった。

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