第24話 ブロックホーン村へ

 リビングに戻ると、グウェンさんは早速髪留めを付けて皆に見せびらかしていた。

 気に入ってくれたようでよかった。


 だがしかし。


「ちょっとヴィト! どういう事なんですか!?」

「ずるいよ! なんでグウェンさんだけなの!?」


 案の定セラーナとプラントさんに問い詰められた。

 改めて説明するのも照れ臭いが、言わないとずっと問い詰められるので、今日あったエイミーちゃんのことと、自分を重ね合わせたことを伝えた。

 2人は『それなら仕方ないわね……』と納得してくれていた。

 が、最初ドヤ顔だったグウェンさんの様子が少しおかしい。

『あれ? そんなこと言ったかな?』というような表情だ。

 まぁこういうことは言った方はあまり覚えていないだろうし、言われたオレが覚えていて勝手に感謝しているのだから問題ない。


「それよりも、セラーナもブロックホーン村の魔物の事でギルドに呼ばれたんでしょ? その話も聞かせてよ」

「あ、そうですね。ヴィトが今話したように、村人にも被害が出ているけど、巡回部隊を何度か派遣しても魔物が見つからないから調査してほしいと言われました。」

「オレは受けたい」

「俺もいいぜ!」

「そういうと思って、既に受けてます!」


 皆も賛成してくれたので、早速明日出発することになった。


 ◆


 ブロックホーン村はティルディスから西に40㎞程離れた場所にある。

 距離的には王都へ向かうのと同じくらいの距離だが、王都への道とは違い、街道が全て整備されているわけではなく、ちょっとした山越えもあるため、馬車で行くと王都への倍くらい時間がかかってしまう。

 今回は魔物が相手となりそうなので、グウェンさんはお留守番ということもあり、皆で走っていくことにした。

 “身体能力強化フィジカルブースト”と”移動速度上昇ウィンドトレイル”を使えばかなり早く到着する予定だ。

 ただ、今後の事を考えると、グウェンさんがいる場合、結局は馬車移動となってしまうので、何か考えなければ。

 あ、空、飛べないかな?

 帰ったら試してみよう。


 談笑しながら軽めに走っていると、2時間弱でブロックホーン村に到着した。

 農作業に出ている人が多いが、魔物の出没があったとしても働かないと食べていけないからだろう。

 農作業中の人に村長宅を聞き、そちらに向かう。


「ハンターギルドのティルディス支部から参りました、“ブルータクティクス”のセラーナと申します。魔物について伺いに参りました」

「遠い所、ご足労頂きありがとうございます。村長のサルトスと申します。狭いところで申し訳ありませんが、お上がりください」


 席につき早速魔物についての情報を伺う。


「どのような魔物だったか、目撃者はいらっしゃいますか?」

「はい。一番初めは3週間ほど前、森に狩りに行った者が見たのが最初でした。見たこともない大きな白いライオンのような獣がいたそうですが、すぐに奥の方へ逃げていったそうです。その後しばらくは何事もなかったのですが、2週間ほど前から家畜に被害が出るようになり、ギルドに巡回を要請したんです」

「それでも見つからなかったんですよね?」

「はい、巡回部隊が森の周辺や中も探索してくれたみたいですが、見当たらなかったようです。しかし、農作業中に白い獣を見かけたり、家畜や畑が荒らされたりすることは続いていたので、再度巡回をお願いしました」

「それでも見つからず、その後にエイミーちゃんとご両親が襲われてしまったんですね……」

「私がもっと魔物の危険性を理解して、巡回部隊の皆さんにもう少し滞在してもらうようお願いしていれば、あの子やあの子の両親は……」


 村長は責任を感じ、口惜しそうに眼に涙を浮かべている。


「村長さんの責任ではありませんよ。それに、ご両親は残念でしたが、エイミーちゃんは大丈夫です」

「しかし、女の子なのに顔や手足に傷がついてしまって……」

「それはうちのヴィトが治しました。ね?」

「村長さん、エイミーちゃんの傷はオレが魔法で傷跡も目立たない位にしっかりと治しましたので安心してください。それに、オレはギルドからの依頼の前に、個人的にサラちゃんから依頼を受けていたんです。お姉ちゃんを助けてって。そして村に出た魔物を倒してって。だから魔物の事は必ずオレたちが何とかします」

「あの傷を治してくださったんですか……!? ありがとうございます……ありがとうございます! 一生あの傷を背負っていくと思うと不憫で不憫で……」


 オレの手を握り締めて何度もお礼を言ってくる村長さん。


「エイミーちゃんもサラちゃんも元気ですからね。それより、エイミーちゃんは黒い魔物と言っていたんですが、村の皆さんが見たのは白い魔物だったんですね?」

「はい。村の者たちは白い魔物と言っていました。エイミーは見えてないけど2匹いたのかもしれないと言っていたので、襲ったのが黒い方、あとから来たのが白い方なのかもしれません」


 とりあえず白と黒、2体以上はいると考えておいた方がよさそうだ。

 はっきりと姿を見た人もいないようでそれ以上魔物の詳細は分からなかったが、エイミーちゃんとご両親以外、人的な被害は出ていないようだった。


「早速、森の方に調査に行ってきますが、その前に……エイミーちゃんのご両親のお墓はどちらですか?」


 村長にお墓を聞いて手を合わせに行く。

 すっかり失念しており手ぶらで来てしまったが、魔物の討伐が終わりエイミーちゃんとサラちゃんを連れて来た時で勘弁してもらおう。

 皆で手を合わせ、ご両親にエイミーちゃんの無事を伝えてから森へ向かった。


 村の西側に広がる森は広大で、奥に見える山の方まで続いているようだった。

 この中から魔物を見つけ出すのは難しいかもしれないが、やるしかない。

 プラントさんに初めて会った時、尾行されていたことに気づけなかったことから開発した“範囲探知エリアディテクション”を使いながら調査していくことにする。

 リーベラさんからパクった“新型スキャン”の魔力隠蔽も施してあり、こちらが探知していることもバレにくいよう細工済みだ。


 攻撃魔法や結界魔法、治癒魔法などは得手不得手があるようで、まさに適性が関係しているようだったが、補助魔法やこういう魔法は練習すれば出来るようだったので皆にも練習してもらった。

 もちろん、人によって範囲や効果の差はあるが、攻撃魔法は使えないタックも、錬金術のスキルのみだったグウェンさんも、補助魔法と“範囲探知エリアディテクション”は少し使えるようになっていた。


 現在は全員“範囲探知エリアディテクション”を使えるが、未知の魔物にバラバラになった時に遭遇すると困るので、今は固まって行動する。

 見逃しが無いように最も遠くまで探知できるオレと、その次に範囲の広いススリーで捜索していく。


 森に入ってから1時間ほど探索したが、魔物の反応はなかった。

 休憩を挟みつつ、森の奥へ向かい探索し続ける事4時間。

 1か所気になる反応を見つけた。

 ぽっかりと穴が開いたような感じがする場所がある。

 結界特有の反応だ。

 ススリーも探知できる距離まで近づき、同じ感覚を得たことを確認してそちらに向かった。

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