第28話 対決宇宙海賊1

 トレーラーは元軍用だけあって道なき道を走り、強固な装甲はあらゆるものをなぎ倒して進む。木や草はもちろん、ちょっとした岩にぶつけても岩のほうが砕ける始末である。


「テレッサは一体何者なんだ。あの戦い方といい、拷問と言いい只のアンドロイドじゃないだろ」


「今頃、何を言っているのですかクリフ。私は軍の払い下げアンドロイドですよ。それだけのことです」


「俺が聞いているのはその軍で君は一体何をやっていたかだ」


「秘守義務があるので記憶の大半は削除されています。私は作戦時に大きく破損したため払い下げとなり、今の社長に拾われました。ですが蓄積された経験と当時使用していた機能の一部はまだ生きています」


「普通はあんな拷問装置は取り払うものなんだが……社長のやつ裏でなんかやったんだろ」


「否定はしません」


 正直いって違法まがいなことをやっているとしか思えない。だが今はそのおかげて色々とピンチを抜けたわけだから文句も言えないわけだが。しかし、このピンチを切り抜けれた後はやばいような気がしてならない。社会的な俺の立場がである。


 俺たちは逃げた車をその視界に捉えた。互いに車体を大きく跳ねながらも追う。しかし連中はどこへ行こうというのか、彼らの向かっている先は大きな岩壁である。


 このままでは衝突しかねない。まさか自暴自棄となって自爆する気なのかと思えるほどだ。彼らは車のスピードを緩めることも方向転換する気もないように見える。


「駄目だ、ぶつかる!!」


 俺が叫んだとき連中の車は不思議なことに岩壁の中へと消えていった。それは何事もなくまるで幽霊が壁をすり抜けたかのようにである。


「しまった。あれはフォログラム!」


 そう叫んだテレッサは急ブレーキをかけた。強いGがかかって俺たちは前のめりになる。シートベルトをしていなければまた酷い目に合うところだった。


 テレッサは再びアクセルをふかして急ターンをしかけた。目の前にあった大岩はパラパラとドットが抜け落ちてゆくかのごとく消え去ってゆくと、岩の裏から出現したのは宇宙船だ。しかも武装しており、テレッサの予測どおり軍艦だった。俺たちのトレーラーでどうのこうのできるような相手ではない。


 やっぱり関わるのではなかったと後悔の念がよぎった。だが今更嘆いたところで状況が変わるわけでもない。


 海賊の船は軍艦でいうところの駆逐艦ほどの大きさだ。全長210メートル、全高30メートルほどだろうか。旧型らしくブリッジが高く飛び出しており、その前に2連装の主砲が前に2基ついている。しかし、旧型とはいえ戦闘艦だ。主砲など撃たれたらこちらは木っ端みじんとなる。


 艦のブリッジ下の側面から複数のレールガンが飛び出すと銃口をこちらに向けられる。そしてレールガンの閃光が走るたびにトレーラーのすぐそばで爆発がおこった。装甲車だから爆風に耐えているがこれが普通の車だったら俺たちは今頃バラバラだ。


 だが凄いのはテレッサの演算能力である。彼女は自慢の演算能力で射撃の弾道を読んで高速弾をかわしていた。そして次弾を予測して予めかわしやすいように車体をコントロールしている。


 その辺りのロボにできる芸当ではない。さすが元軍用だ。もしかしたらテレッサのいた部隊は特殊部隊なのではないだろうか。


「おっほー。すっげ」


 状況を理解していないカテリアが後ろで興奮していた。彼女の瞳にはコレが遊園地のアトラクションのごとく感じるのだろう。一発でも当たれば全員即死なのだが……


 そのとき海賊船はエンジンの唸りを上げだした。


「まずい! 奴ら飛ぶ気だ!!」


 空に浮かばれてはもうこちらの撃つ手はない。トリニィとラプルが取り戻せなくなる。近づきたくともこうも攻撃されては近づくのは困難だ。いったいどうすれば……俺は悔しさのあまり自分の唇を噛む。


「なんだか腹が立ってきました。反撃します。ミサイル発射!」


「え!?」


 俺は彼女の口にした言葉に驚きを隠せない。トレーラーの天井にある二つの長い突起のうち左側が競り上がるとミサイルが出てくる。くるりと海賊船のほうに向くとジェット音のような音を立てて射出された。


「ボス! ミサイルだ!!」索敵を担当している海賊が悲鳴のような声を上げた。


「な、なにィィィ、撃ち落――」海賊が即座に迎撃を命じるも艦橋の後部で激しい爆発音と衝撃に彼らは見舞われた。


「ば、ばかななぜ迎撃できなかったんだ!」


 海賊のボスが驚くのも仕方がない。普通はレーダーと連動してミサイルなど迎撃できるはずであった。しかも抵抗のない宇宙空間ならともかく空気抵抗のある大気圏内である。


 彼の脳裏を過ったのは軍でしか扱っていない高額なスティルスミサイルである。お頭はクリフ達を軍の人間だと勘違いしたので、それしか考えられなかったのである。


 しかし実際に使用したのは旧式の大気圏内専用のロケットとスクラムジェットのハイブリッドミサイルである。近距離で放たれたため迎撃が間に合わなかっただけであるが、これはテレッサの計算通りである。


「被害状況!」髭だるまのような海賊のお頭が怒鳴りつける。


「艦橋後部レーダーおよびジャミング発生装置損傷、人員被害不明!」


「後部レーダーだと?」


 艦長はなぜそんなものを狙ったのか分からなかった。こちらの船は惑星を離脱するために浮上し始めているのだから、クリフ達の状況からすればエンジンを狙うのがセオリーだと思ったからだ。


 レーダーやジャミングを破壊したところで即座に救援がくるわけでもなし。


 可能性があるとすれば軍が隠れて潜んでいるかもしれないが、それならば軍に潜伏している同胞から連絡があってもよいはずだ。


「くそう上昇だ! 大気圏離脱! 軍が来る前にここを脱出するぞ」


 ともかくクリフたちが攻撃を仕掛けてきている以上、相手には何かしら手段があるのだとふんだ。ならばさっさとここをずらかるのが最良だろう。


「お、お頭! 下には仲間がいるんだぜぇ」


「やかましい! このまま全滅したいのか!!」


 部下の海賊が反抗した。それもそのはずである彼には弟がおり、まだ地上にいるのだ。だが頭ごなしに否定されて彼は内心怒りに満ちた。彼だけではないブリッジ要員の主な者は艦長とった判断に不服を感じた。


「ひゃっほうー」


「な、なんでミサイルがこの車に……」


 喜ぶカテリアを尻目にクリフは涙目になる。これも完全に違法である。言い逃れはできないだろう。確か懲役は十数年だっただろうか。しかも相手が海賊とはいえ許可の無い者が殺せば殺人罪も適用される。


「あ、あは、あははは……詰んだ……俺の人生…………」


 もう涙で前が見えない。


「あ! おいアレどんどん上に上がっているぞ!」


「ラプルーいっちゃやなのだぁー」


「逃がしはしません。一気に反撃です。陽気なエンゼル号、主砲! フォトンキャノン発射!!」


 テレッサが叫ぶと空から閃光が落ちてきた。激しい爆音ともに海賊船の後部が吹き飛び、黒煙を上げる。


 主砲!? 主砲だって? どっから出したそんなもの? 俺の知る限りエンゼル号に砲門など無かったはずである。俺は開いた口がもう塞がらなかった。ウソだこんなの夢だ。ありえねーよ!!


「あはッ、あははは……フハハハハ……」


 もう泣いて笑うしかありません。


「クリフも楽しそうだな!」


 空気を読まないカテリアの言葉が突き刺さる。楽しそうに笑顔を俺に向けて肩をポンポンと叩いていた。


「ジャミングが解除されたということは私と宇宙船のリンクが復帰するということです。あとは宇宙船に搭載された主砲で撃つだけの簡単仕事です」


 テレッサが勝ち誇って俺たちにご丁寧に説明をするが、それを理解できるのは俺だけである。しかもフォトンキャノンって何だよ。まだ現役バリバリの主力兵装じゃないか。


「なんでそんなものが俺の宇宙船に搭載されているんだよ!」


「もちろんあの船が軍からの払い下げだからですが、何をいまら言っているのですか? 何度もいいましたよ」


 だから普通は兵装は取っ払うんだよ。でなきゃ完全に法律違反だろうが。もはやそんな突っ込む気力すら失せてしまった。ご都合主義もここまでくると陰謀としか思えなくなってきた……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る