第27話 リプルとラプル6

 テレッサはまるで影が這うようにあっと言う間に一番遠い男に近寄ると相手の男の腕を掴んだ。その瞬間、バチバチと音がして彼女の手に稲妻が走った。男は悲鳴も上げれずに倒れる。


 カテリアは自慢のパンチで突きあげ気味にボディブローを決めると男は4メートルほど宙に浮いていた。そしてそのまま気絶したまま地面へと落ちた。男はブラスターを抜いていたが引き金を引くこともできずに泡を吹く羽目になる。


 トリニィはツルで男を捕縛している。そして俺はラプルを掴んでいる男に銃口を向けた。


「動くなァ! 動くと撃つぞ!!」


 相手を降伏させようとした。だが!


「バカクリフ! すぐに撃ちなさい!!」


 テレッサが激しく怒った。俺の持っている銃はパラライザーガンだ殺傷能力はないので万が一ラプルに当たったとしても死ぬことはない。だが俺は人を相手にたとえパラライザーガンであろうと引き金を引くことを躊躇してしまったのだ。撃ちそびれた男は腰のベルトから拳大ほどの機械を空中に投げ捨てた。


「手榴弾!? しまった伏せて!!」


 テレッサの悲痛な叫びと同時に機械は爆音とともに激しい閃光をもたらした。


「!?」


 あまりにも強烈な閃光に俺たちは視界が奪われた。テレッサは? カテリアは? トリニィは大丈夫だろうか、俺が躊躇したばかりに何という事なのだろうか。俺は激しく後悔する。


「くッ……これは閃光弾」


 テレッサの声が聞こえた。どうやら手榴弾ではなかったようだ。少しづつ視界を取り戻したとき車のモーター音が聞こえた。そして視力を取り戻したとき俺の見たものは過ぎ去ってゆく敵の車の後ろ姿だった。


「クリフ、ラプルとトリニィが連れ去れました」


「なんだって!?」


 ラプルは分かるがなぜトリニィまでもが、やはりまだ動揺していたのか。だがそんな詮索はあとだ。


「すぐに追わなきゃ」


 俺はいてもたってもいられなかった。怖がる二人に頼んで無理に囮になってもらったのにまんまとラプルを連れ去れてしまうなどと! そしてそれどころかトリニィまで……


「落ち着てくださいクリフ。追うなら私たちのトレーラーのほうが良いです。いま呼び寄せています。それよりこいつらが何者なのか調べる必要があります」


 テレッサは敵の車に乗ろうとした俺を止めた。


「調べてる暇なんかあるか、すぐに追わないと!」


「クリフ! 敵の向かう先は分かっています。相手がどんな敵なのか知らずに戦うのは危険すぎます」


 テレッサのいうことは最もだ敵の向かう先はジャミングの発生源だろう。そしてこいつらが何者なのか知らなければ戦いようがない。俺たちはテレッサの指示どおり捕まえた連中は一か所に集めて身動きできないよう捕縛した。そしてそのうちの一人を叩き起こした。


「て、てめぇ俺達を敵に回してただで済むと思うなよッ!」


「人の心配よりご自分の心配をなさったほうが良いですよ」


 悪態をつく悪人にテレッサは怖いことを言う。


「さっさと吐かねぇとどつくぞ!!」


 カテリアもテレッサの脅迫に便乗した。だが彼女のパワーで殴られたら相手は死にかねない。


「おい、テレッサ一体どうやって口を割らせるんだ?」


 到底簡単に口を割るとは思えなかった。しかも嘘を言われたら正しいか嘘かなどと判別できない。


「御心配には及びません。この男の意思など関係なく直接脳から記憶情報を取り出しますので……さほど時間はかかりません」


 テレッサはさらりと恐ろしいことを言うと両腕に機械手袋のようなものを取り付けた。そして手の甲部分がガバッと開き中から拷問道具としか思えないような細いアームや器具が何本も出てくる。それを見た悪党はさすがに震え上がったようだ。


「や、やめろ…やめてくれ! 話す、自白するから止めてくれ!」


 悪党は青ざめて懇願した。俺はなんとなくその男に同情しそうになる。だが二人が捕まっているのだ。この際慈悲はなしだ。


「駄目です。諦めてください」


「頼む、本当の事を話すから」


「ごめんなさいもう時間がないのです」


「い、嫌だぁ助けてくれぇぇ」


「大丈夫です。痛いのは最初の一瞬だけです。すぐに気持ちいいと誤認識しますのでご安心を」


「ひいいいいいい」


 男はテレッサの悪魔のような目つきに恐怖して顔を引きつらせた。はっきり言って端から見ているこちらまで怖くなりそうである。見た目は幼女なのにやることなすこと一切容赦がない。そのギャップがこれまた恐ろしい。


「ぎゃぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」


 あまりの恐ろしい光景に俺の脳は俺の意思と関係なく緊急モザイク防御をかけてくれた。――単なる拒否反応だが、相手が犯罪者とはいえコレでは相手は助からないだろう……これって……殺人罪じゃないの? ねぇ俺の知っている神様、どうしてこんなことに……俺はその現実を拒否しつつ途方に暮れる。


 カテリアもリプルもあまりの光景に白目をむいて倒れてしまった。


「おーいカテリア、リプル、大丈夫か?」


「うーん、味噌が……脳が……」


「…………」


 駄目だ二人とも完全に目を回している。


「お待たせしました。情報は引きだせたのでトレーラーで移動しつつお話します」


「いや、それ以前にこれ殺人罪だろ!」俺は涙目で訴える。俺の許可もなしに勝手に犯罪行為に走るなどアンドロイドとしてあり得ない行動だ。……あ、そういえばコイツは壊れてるから軍から捨てられたのだっけ…………それを思い出すとなぜ捨てられたのか妙な納得感を得られた。


「トリニィとラプルが拐われたのです。私たちにそのような余裕はありまそん!」


「こ、このポンコツ!! 人の命をなんだと思っているんだ!!」


 俺の一言にテレッサはムスリとして目で不服を訴えかけてくる。


「死んでませんよ。一応……」


 俺は「え?」とした顔で相手を見てみれば拷問を受けた相手の頭は縫合されて気持ち良さそうに寝ている。もっとも拷問の傷跡はエグいことになってはいるが……


「こ、これで生きてるって……うぇぇ……」


 生きていることには一安心だが色々と罪状は免れないだろうなと俺は思った。とはいえ拐われた二人を救出するのは急務だ。


 俺たちは急いで目を回しているカテリアとリプルをトレーラーに乗せてすぐに出立する。何がおきたのかと唖然とするラグーン族の視線を俺は見ないことにした。


◇◇◇◇◇


 悪路に車体が暴れる。俺は座席に座らせているカテリアとリプルを支えていると二人はその振動で目を覚ましたのでトリニィを追いかけいる所だと事情を説明する。


 スクリーン窓の景色は凄い勢いで流れており、相当スピードを出しているようだ。俺は二人をシートベルトで固定してやったあと助手席へと座った。


「連中何者だったんだ?」


「彼らは宇宙海賊です。読み通りこの星を改造して愛玩具の飼育場としていたのです」


 なんということだ宇宙海賊は最悪の相手だ。この銀河系には無数の国家が存在するが大きく分ければ3つである。複数の国々が集まってできてた銀河連邦と銀河帝国、そしてその他の国々だ。前者二つが最大の国家と言っていい。そして俺は連邦に属している。


 だがそんな社会に裏で根を広げて荒らしまわっている連中が宇宙海賊だ。海賊と言えば一見荒くれ者の個別集団をイメージするが実際には彼らをまとめ上げているボスがいるとの噂である。しかも海賊は政治家、警察、軍、企業、などあらゆる機関に入り込んで暗躍しているため性質が悪い。


「えぇー、あの人が海賊だったのぉ!?」などとテレビインタビューではよく聞く話だ。正直言ってテロ国家や悪徳企業のほうが正体が割れているぶん100倍マシだ。


 俺は海賊と聞いて激しく逃げ出したい気分となった。だがトレニィとラプルが連れ去られてしまい見過ごすことはできない。でも宇宙海賊は怖い。テレッサは腰が引けた俺をみて一言付け加えてきた。


「クリフ、ここに駐留している海賊の規模は小さいと推定されます」


「ど、どのくらいなんだ?」


「海賊のやり口だと宇宙船をアジトにしいるでしょう」


 確かにその方が何かあった場合、すぐに逃げることができるからな……


「ジャミングが扱える宇宙船は駆逐艦級以上となりますが、巡洋艦クラス以上となると隠れるのが困難となりますので滞在しているのは駆逐艦級とみて間違いないでしょう」


 宇宙海賊は中古品の軍艦や武器を搭載した偽造民間船を使用していることが多いと良く聞くのでそうなのだろう。


「1隻ならば相手は100名ちょっとです」


「…………」


 どう聞いても駄目じゃん。死ぬ未来しか見えないよ。

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