第26話 リプルとラプル5

 俺はトリニィを追ってトレーラーに戻るとかテリアが怒って胸ぐらを掴んできた。


「クリフ! トレニィに何をしたんだ! いきなり泣いて帰ってきたと思えばずっとあの調子だ!!」


 俺はカテリアが指差す方向に顔を向けた。ベッドモードになっているラウンジでトレニィは布団をかぶり泣いている。そんなトレニィを心配してリプルとラプルが彼女を慰めていた。


 俺はカテリアの手を払ってトリニィの元にゆく。名前を呼んでも彼女は顔を見せてくれなかった。だが泣くのはやめてくれたようだ。


「トリニィ……イヤな話を聞かせてしまってごめんよ。あれはただの推測の話なんだ」


 そうだあくまでも予測の話だ。そう声に出していても、彼女たちが俺を慕ってくれたのはそうではないと自分に言い聞かせても、心のどこかで疑いを持っている。


 当事者でない俺でさえこうなのだ。トリニィは俺以上に拭うことは難しいだろう。ゴメン、本当にゴメン……


 できる限り言葉を尽くして言い訳をした。カテリアから事情を問い詰められて白状するとこってりと怒られた。ショボくれる俺にリプルとラプルが俺の頭を撫でて慰めてくれる。


「みなさん、あまり時間がありません。早めに集落にいって準備をする必要があります」


 『神』と名乗るものたちが『神』などではないことを証明するためには連中を捕まえて白状させるのが手っ取り早い。その準備を整えるためにも早目に集落へと向かう必要があった。


 トリニィとカテリアは俺の言い訳を信じきれるといった感じではないようだ。リプルとラプルは『楽園』が偽りと信じたようで不安そうに落胆している。


 トリニィの心情が少し落ち着いたところで俺たちはラグーン族の集落へと向かった。


 ラグーン族の集落にて再び『神』と崇められて否定と、同じパターンが繰り返される。ここでは神や楽園の話は混乱を避けるために隠しておくことにする。


 俺とテレッサ、トリニィ、カテリアは神に見つからないよう草葉に隠れて神が来る時間を待つ。トレニィはショックをいまだ引きずっているようで終始言葉は少なくて暗い表情のままだ。


 リプルとラプルは貢ぎ物用の祭壇のような場所に鎮座している。祭壇と言っても木製パレットを階段状に三段積み上げて布を敷いただけの簡素なものだ。


 リプルとラプルはそ上でペタリと座り込んで互いに手を取り合って恐怖に耐えていた。事前にあのような話をしてしまったために彼女たちは自分たちに行く先が楽園などではなく地獄なのだと知ってしまったからだ。


 事前に話すべきでは無かったかも知れない。明らかに二人の顔は引きつっており、これでは神を名乗る偽者どもにばれてしまう可能性がある。だが何がなんでも二人は助けなくてはいけなかった。


 俺はパラライザーガンを事前に用意しておいた。すぐにでも撃てるようにである。できるかぎり偽者どもを捕まえて連中の目的を吐かせてやる。


 しばらくして電気自動車のモーター音が近づいてくる。


「来ましたオフロード車が2台です」


 テレッサの報告に身震いする。車が二台ということは少なくとも相手は2名以上だ。俺はどうやって二人を助けつつ偽者どもを捕まえるか必死に考えていた。


 何しろこちらは捕まえたいだが、相手にしてみれば殺してかまわないだ。状況としてはこちらが不利なのは最初から分かっていた。


 車は祭壇の前で停止する。見たところ一般車のようだが軍などでも採用しているタイプのオフロード車だ。タイヤが大きく車高が高い。そして車内も大きく広いタイプだ。フロントにはパイプ式の大型バンパーとライトが取り付けてある。屋根にもライトが取り付けられていた。


「どうやら一般車向けの車両ですね。追加オプションも一般的に売られているもののようですし、特殊な装備もなさそうです」


 テレサの目が虹色に輝いて車両を分析していた。もし武装していたら飛び出すのはかなりヤバイ。また対人センサーが装備されていたら俺達が隠れているのがバレバレとなってしまうところだった。ひとまずは安心する。あとの問題は相手の人数と武装だ。


 車両のドアの音がバタバタと聞こえてきた。


「車を降りた相手は四名、全員人間です。脇や腰に武器を所持しているのを確認。ブラスターです」


 やはり武装していた。こうなると相手より先手で攻撃しないとこちらが殺されかねない。車を降りて現れた男たちの着ている服は疎らで厳ついセンスの服ばかりだ。人相もいかにも悪人の下っ端といった感じがにじみ出ている。最も俺も企業の下っ端感を醸し出してはいるが……


「どうやら国家や企業といった感じではありませんね」


「悪徳企業という路線はまだあるだろう。ただの雇われ者たちかも知れない」


「惑星改造を行うような企業があのような風貌の連中を雇うとは思いにくいですが、確かに可能性はゼロとは言えません」


「どうする?」


「このまま迂回して彼らの車両に近づきましょう。遠距離で撃ち合ったらこちらが不利です。近接で一発必中でやってください」


 テレッサは現状から奇襲という最善の方法を計算で求めたようだ。俺はカテリアと顔を見合わせて頷くとテレッサのいうとおり迂回し、祭壇からみて車両挟んだかたちで裏側へと回った。


 車を降りたのは4人だったが運転席に各1名づつ座っている。つまり相手は全部で6名だった。俺はカテリアやトリニィは木と草葉を利用して隠れていたが、テレッサは見事な足さばきで音もなく車両のすぐ横へと張り付いた。俺たちはテレッサからしばらく待つように言われていたのでその様子を見ている。


 テレッサは運転の相手とはドア一枚挟んだ位置にいる。運転手が祭壇のほうに気を取られた瞬間、その男をあっという間に引きずり降ろし手を離したときには気絶させていた。そして音もなく開けたドアをこれまた音もなく閉じた。あまりの早業に俺たちは唖然とした。テレッサにあのような芸当ができるとは思いもよらなかった。


 テレッサは身をかがめて前の車両に移ると同様に車の男を気絶させて俺たちに手招きをする。足音を立てないよう慎重に俺たちは車に近づく。すると連中の声が聞き取れるようになった。


「今日のところはこの二匹で終了だな……」


「今月の便は今夜にでも立つんだろ? 次の便には頼んでおいたものが来るから楽しみだぜ」


 連中はどうやらラグーン族に話が聞かれないよう自国の言葉を喋っているようだが、こちらは翻訳機のおかげで丸聞こえだ。ゆえにカテリアとトレニィは会話の内容が分からないようだ。


 さてと、どうやって四人を一度に倒すか……事前に打ち合わせていたゼスチャーでテレッサは対峙する相手を指示した。ここで声を出せば相手にもばれてしまう。彼女の指示は各自一人ずつ相手することだった。その時だ。


「なぁ、なんかこいつら怯えていないか?」


「ん? そういや怯えていやがるな……」


「貢ぎ物に選ばれた奴はみんな喜んでいたのにおかしくないか?」


 まずいどうやら感づかれたようだ。


「そういや先日、宇宙船の反応があったそうじゃねーか、こいつらまさか……」


 偽者たちの男の一人がラプルの腕を掴むとラプルはもう耐えられずに声を張り上げた。


「いやなのだぁー!」


 彼女は泣いて拒否した。まずい完全にバレた。位置が悪いがテレッサは仕方ないと判断して突撃の合図を出す。


「いっけぇーッ!!」


「その娘を放しなさい!」


 カテリアもトリニィも飛び出す。遅れて俺も飛び出した。

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