第29話 対決宇宙海賊2

 海賊の船は後部エンジン辺りから黒煙をあげていた。俺の目から見てもあれではスクランブルがかかってエンジンは緊急停止に入っただろう。そうなると反重力装着へのエネルギーの供給が足らなくなる訳で、つまり……


「メインエンジンに被弾! 出力低下、船体上がりません。高度下がります」


「畜生! やっぱり隠れ潜んでやがったか! どこの宇宙軍だッ!!」


 髭だるまの艦長は怒りで茹蛸のように赤くなって怒りを露にしていた。


「船体傾きます!」


「スラスターで踏ん張れ! 着地するまで姿勢を維持するんだ、でないと着地した瞬間横転するぞ!!」


 宇宙船の船体横からスラスターが吹き出すと辺りの木々が暴れた。俺たちのトレーラーもまるで暴風の中にいるようである。そのためレールガンからの射撃は止まった。


「敵艦の位置は捕捉出来たか!!」


「ダメですレーダー使用不能!」


 オペレーターは悔しそうに報告する。当然だ海賊船のレーダーは俺たちのミサイルで破壊済みなのだから。ミサイルの攻撃がレーダーに当たったのは偶然である。テレッサが狙ったのはジャミング装着だったが敵のジャミング装着はレーダーと一体型となっていたのだ。


 よしんばレーダーが無事だったとしても陽気なエンゼル号はスティルス中だ。しかも光学迷彩まで施してあるので旧型の海賊船では捕らえるのは難しいだろう。しかしながら海賊の船長も場数は踏んでいたようで……


「バカたれ! こーゆーときは攻撃方向から割り出さんか!!」


 的確な指示をだした。オペレーターは納得してすぐさま計算に入る。


「敵位置補足!」


「ようし反撃するぞ! 主砲発射準備!」


「駄目です敵艦は本艦の真上、射角外です!」


「く、くそう……」


 そう、このタイプの船は真上が主砲の死角となる。艦の側面に主砲が搭載されていれば旋回して狙えたかもしれないがこの船に搭載されている主砲は上部艦橋の前に2門、後ろに1門である。


 本来なら下部にも1門つくはずだが、地上で拠点のように運用するつもりだったようで取り外してあるのだとはテレッサの予想だ。


 ま、どのみち俺たちの陽気なエンゼル号には届かんがな。


「なめやがって……ミサイルで応戦するぞ」


「し、しかしミサイルでは撃墜されてしまいます」


「んなことは分かっとるわッ! 数で押し潰せ!!」


 オペレーターはなるほどと納得するが、それは最後の手段である。つまり彼らはそこまで追い詰められているということになる。


「右舷左舷発射管開け! 甲板の垂直発射管もだ! 全管にBCLおよびLCL装填!」


「了解! 右舷1番から15番BCL装填!」

「左舷1番から15番BCL装填!」

「垂直発射管1番から30番LCL装填!」


 一斉にオペレーターから慌ただしくミサイルの装填指示が飛び交う。ミサイルであれば発射後に軌道を変えれるが主砲のフォトンキャノンと異なり速度が遅いため迎撃されやすい。海賊たちはそれを数で補おうとした。


「全管装填完了!」


「目にもの食らわせてやれ! 全弾発射!!」


 海賊船から一斉にミサイルが発射されてゆく、俺たちの頭上、船の左右から発射されたミサイルは速度が乗ると軌道を空へと向けた。


「や、やってくれますね。主砲連射モード。迎撃します!」


 遥か上空から閃光が雨のように降り注ぐ。テレッサによれば俺たちの陽気なエンゼル号の砲門は2門しかない。船の装甲を貫く訳ではないので出力を下げて連射で対応することになる。だが全60発のミサイルを補足できたとしても時間内に撃墜できるかは微妙だ。


 海賊のミサイルを次々と撃墜してゆくが連射モードとはいえ次弾との間隔はどうしても開いてしまう。撃墜位置はみるみると上空へと変わってゆく。


「チッ!」


 テレッサが舌打ちをした。相当悔しいのか、このような彼女を見たのは初めてだ。


 遥か上空で大きな閃光が輝いた。


「お、おい。まさか俺たちの船、やられたのか!?」


 明らかにミサイルを撃墜している光とは異なる閃光に俺は焦りを感じた。せっかくジャミングを破壊したのに船が無くては応援を呼ぶどころか救難信号を出すこともできなくなる。


 こんな惑星で銀河ネットワークにアクセスできるとしたらもう海賊船ぐらいだろう。だがそう簡単に奪えるような代物ではない。


 しかし俺の目にミサイルの爆発の中から見覚えのある閃光が落ちてくるのが映った。


「上空の敵艦から砲撃来ます!」


「うぉのれえぇぇぇぇぇぇ」


 出力を落としたフォトンキャノンが海賊船のミサイル発射口を破壊し、レールガンを破壊した。残った装甲の厚い主砲もさらに出力を上げたフォトンキャノンにより破壊された。


「これで敵の攻撃オプションは全て奪いました」


「え? ど、どうして?」


 陽気なエンゼル号は元軍艦とはいえその使用用途は連絡挺であり、駆逐艦に比べればかなり小さいし、装甲は紙同然の代物なのだ。ミサイルなど食らえば一発で粉々にるのは素人の俺にでも容易に想像できる。


 テレッサはそんな俺の疑問に答えてくれた。


「破壊されたのは砲門の一つだけですよクリフ」


 そういうとテレッサ目は勝ち誇っていたが俺はわけがわからない。そんな俺を見透かしてテレッサは追加で説明をしてくれた。


「陽気なエンゼル号の砲門は浮遊砲台で、破壊されたのはその一基だけです。船は離れた位置で静止しているため被害はありません」


 その言葉に俺はようやく納得し、胸を撫で下ろした。もし船が落とされていたら救援など絶望的だ。そうなれば俺は一生この星で生きてゆくしかなくなるだろう。


 一生? カテリアやトリニィたちとずっと……?


 それはそれで楽しいかも知れないと感じてしまったとき、俺は胸にズキリと痛みを覚えて思わずシャツ越しに胸のペンダントを握りしめた。


「この高度なら行けます」


「え? 行くってどこへ!?」


 唐突なテレッサの提案で俺の意識は現実へと引き戻された。そうだ今はそんな先のことよりトリニィを取り戻すことが先決だ。彼女が捕まったのは俺のミスなのだから、命に変えても必ず助けださなければいけない。


 しかし海賊の宇宙船はゆっくり降下しているとはゆえ、まだ浮いている状態だ。車両の出入り口のハッチも閉まったままであり侵入できそうにもない。


 突如加速したトレーラーは海賊船に向かって走ってゆく。


「まさか突っ込む気じゃないだろうな! いくら装甲車でも宇宙船の装甲は抜けないぞ!」


 そうだいくら装甲車でも宇宙船の分厚い装甲は貫けない。ぶつかれば俺たちのほうがぺしゃんこだ。だがテレッサのはじき出した結果は可能だとでたのだろう。だが本当に大丈夫なのだろうか。軍から払い下げている以上、テレッサの機能は他にもどこか不具合があるかも知れないのに信用していいのか?


「みなさん衝撃に構えてください。ブラスターキャノン発射!!」


 トレーラーの天井にある二つの長い突起のうち今度は右側が競り上がると銃口が出てくる。海賊船の横っ腹、先ほど海賊の車が侵入した格納庫と思わしき位置にブラスターキャノンの閃光が当たる。大きな爆発音とともに船体に大穴が開き、さらに二発三発と放って穴を大きくする。


 確かにこれならトレーラーは入れる大きさだ。だが海賊船の高度は低いとは言えまだ宙に浮いている。侵入は不可能だ。


「行きます!」


 テレッサはトレーラーの速度をさらに上げる。そして宇宙船が着地していたときにできたと思われるえぐれて盛り上がった大地をジャンプ台にした。


 彼女の緻密な計算の元、俺たちのトレーラーは見事に先ほど空けた穴へと飛び込んだ。


 だがそれでも激しい衝撃を受け、車体は宇宙船のあちこちにぶつけてしまう。そして最後に狭い穴に突き刺さるようにして止まった。


「無茶苦茶にもほどがある……俺たちを殺す気か!?」


「大丈夫、計算通りです」


「計算どおりって……」


 俺は振り向いてトレーラーの中を見回した。基本的に大半のものは収納されてはいるので危険なものが車内を飛び交うのは避けれた。だが収納扉はひしゃげて今にも中身が出そうだ。


 医療装置や工作装置もモニターにヒビが入り、ラウンジはベッドなのかラウンジなのか判別できない状況だ。窓を兼ねている外壁モニターも半分死んでいる。これを大丈夫というのか。


「とにかくトリニィ達を追いましょう」


 こうなるともう連中とドンパチするしかない。そうなる前に取り戻したかったが致し方がない。俺はアタッシュケースからパラライザーガンを取り出した。


 白兵戦だ!

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