第57話 純粋な思い

 さぁて。こいつは入れ替わることができるか。入れ替われたとして、制御ができるのか。楽しみだな。


 目を閉じて、集中してんな。次に目を開けた時、左右非対称になっていたら注意が必要。何か仕掛けてきたら刀で斬る。


「…………来たな」


 あいつが纏っている空気が黒く、ドロリとした気色の悪い気配に変わった。この気配は、確実にうらみそのもの。しかも、今までより濃い、感じにくくなってる。

 感じにくいということは、うらみがどんどん強くなってるということ。


 もし、輪廻の裏人格がうらみで強くなるのなら、完璧に怨呪。だが、裏輪廻は転生者。恨みで力が強くなる恨呪のような性質を持っているはず。


 そこも聞かせてもらおうか。さぁ、目を開けろ。


 呑気な気配から完全に変わった輪廻。どす黒く、体に刺さるような気配。悪くないじゃねぇか。面白い。この気配と同じく力も強くなっていた方が、もっと面白いんだけどな。


「…………あ? なんだここ」

「よぉ、久しぶりだな」


 出てきた、裏の人格。今は周りを見て現状確認をしているところか。

 今の現状に頭が追い付いた時、こいつは自分のうらみに負け俺を襲うか。それとも、話が通じるか。まずは、それを確かめさせてもらう。


「ずいぶん物騒なもんを手にしてんな。それをどうするつもりだ? まさか、俺を殺すつもりか?」

「それはお前の出方次第だ」

「そうかよ。残念ながら、輪廻は武器を持ってこなかった。しかも隊服ではなく普段来ている着物。動きにくいったらありゃしねぇ。何もできねぇから安心しろ」

「そうだな。まぁ、お前の恨力こんりょくなら武器の一つや二つ、簡単に作り出せそうだけどな。だが、今はお前の言葉を信じてやるよ」


 ひとまず言葉は通じるらしいな、自然と握ってしまった刀から手を離すか。


 襲ってくる気配はない。あぐらに座り直し、物珍しそうにまだ周りを見渡してる。そんなに珍しいか? なんもねぇぞ。ただ、少し壁側に本が積みあがってるだけだ。


「本、好きなのか?」

「まぁな」


 いつもと気配が違うから、油断できねぇな。正直、いつ襲ってくるかわかんねぇよ。


「んで、俺に何かしたかったんじゃねぇの?」

「あぁ、色々聞きたいことがあるんだが、答えてくれるよな?」

「答えられるもんなら」


 答えられるものなら、か。それは、どっちの意味だろうな。


 知らなくて答えられないのか。それとも、知ってて答えられないのか。そこは俺の恨力で読ませてもらうぞ。


「んじゃ、質問させてもらうぞ」

「どーぞ」

「まず、お前は表に出ていないと時、何をしてる?」

「寝てる」


 ……いきなりぶち込んでくるな。しかも、嘘ついてねぇし。これはこれでどうなんだ。

 あぁ、なるほどな。だから表に出てきた時、状況を把握しきれねぇのか。今回もまず、周りの確認から入ってたもんな。


「そんなこと聞いてどうすんだよ」

「ほんの少しでも情報はあるに越したことはねぇよ」

「ふーん」


 興味ねぇのまるわかりだな。


「お前はなんで怨呪と戦ってんだ? ただ、暴れたいだけか?」

「それもある。あとは輪廻だ」

「輪廻? 表人格の事か。何でだ?」

「もし、俺が怨呪と戦わず思うがまま暴れてたら、輪廻と入れ替われねぇ。そうなれば、今以上に退屈になる。そんなもん、ぜってぇ嫌だ」


 退屈を極度に嫌っているといった感じだろうか。だから、永遠の退屈を味わうより少しでも外に出れる方を選択した。そういうことか。

 馬鹿なりに頑張って考えたんだろうな。少しでも、自由を手にするために。


「お前は、何がしたいんだ」

「それは、どーゆー意図で聞いてやがる」

「そう警戒すんな。単なる疑問だ」

「…………何がしたい、とかはない」


 ない? 暴れたいとか、人を殺したいとか言われると思ったんだがな。まさかない。だが、それだと今までの話に疑問が出る。

 こいつは少しでも自由が欲しいはずだ。なのに。やりたいことがない。なら、何のために自由を手にしたいんだ。


「その場でやりたいと思うことをやりたいんだ」

「その場で?」

「あるだろ。ご飯が食いてぇ、遊びてぇ。話したい、刀を握りたい。殺したいとかな」

「最後のはねぇよ」

「とりあえず、今はねぇんだよ。特に、輪廻みたいに怨呪をこの世から消したいとも思ってねぇ。ただ、その場でやりたいことを我慢せず、やりたい。あぁ、これが俺のやりたいことだな」


 嘘は……ないな。何かを企んでいるわけでもない。純粋に、ただ、を送りたいと思ってる。これが、こいつの本当の想い。

 これを輪廻は知っているのか。いや、知っている風ではなかったな。おそらく知らない。知っていたらこんな純粋で、悲しい想いを抱えているこいつに出来る限り寄り添い、あいつなりに何とかしようと動いているはずだ。


「今は暴れたいとか、殺したいなどの衝動はないのか?」

「今はないな。つーか、暴れでもしたらお前に殺されるだろ」

「安心しろ、殺しはしない。半殺しだ。ニシシッ」

「同じじゃねぇか」


 今はこいつを警戒しなくても問題なさそうだな。自分より強いものは本能で読み取り自ら襲いに行かない。ある意味自分をわかっている利口な行動だ。

 俺とやりあった時も、強制的に立たされたみたいなもんだったしな。


 というと、自分より弱い奴を相手にすると暴れるってことか? がき大将かよ。


「なぁ」

「ん? どうした? まさか質問され続けて疲れたのか? 流石に早すぎだろ」

「んなわけあるか。お前、なんで泣いてんだ?」

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