第55話 材料

 何もない空間だから、私達の足音だけが反響して怪しくて怖い。螺旋階段を幡羅さんの手を握りながら降りていても怖いものは怖い。


「おい」

「は、はい」

「あともう少しだ」

「え?」


 あ、先の方に明かりが。螺旋階段も終わって、たどり着いたのは鉄製のドア。なんか、重厚感があるんだけど。中には何があるんだろう。気になるけど、やっぱり怖いな……。


「おい」

『あ、京夜さん。開いていますのでどうぞ』


 中から実虹みにさんの声。幡羅さんが声が返ってきたのと同時にドアを開けてくれた。


「わ、わぁお」


 もしかしたら、ここは洞窟を掘って作り出されたところなのかな。洞窟の最奥と呼ばれそうな所に色んな物がある。

 奥には窯、その周りには長テーブル。その上にはよくわからない瓶やスライム上の何かが散乱してる。なにこれ……。勝手に触ったら怒られるかな?


「それが気になるの?」

「え、あ。すいません、勝手に見てしまって」

「大丈夫だよ。でも、あまり触らない方がいい。肌がただれ堕ちるよ」

「ひっ!?」


 あっぶな!! 触るところだったよ!!


「嘘なんだけどねぇ」

「え……?」


 何、この人。くすくす笑わないでくださいよ、腹立つな。


「おい、頼んでいたもんはどうした」

「あ、こちらですよ」


 洞窟の壁側にある棚に近付いて行く実虹さん。棚にも小瓶や本、色んな形の石が置いてある。そこから実虹さんは、私の首飾りを持ってきてくれた。よかった、壊されてないね。傷もついてない。でも、なんか。


「前より黒くなってないか?」

「やはり、そうですよねぇ」


 いやいや。”そうですよねぇ”、ではなく。何でそんなに黒くなってしまったんですか。元々赤いはずの石が、血のように赤黒く染まっている。一体、何をしたんだ実虹さん……。


「実は変色について私、一切何もしていないんですよ」

「なに?」

「え? なら、なんでそんなに黒くなっているんですか?」

「これは、怨呪退治を何回もやっていたらこうなってしまったんだ」

「どゆこと??」


 え、まじでどゆこと? 怨呪で黒くなったってこと? いやいや、まさか。そんなことがある訳が……。


「…………”うらみ”に反応してる可能性が強いな」

「ですね。あと、幸運なのかどうかはわかりませんが、何をしても壊れないです。一回、チェーンソーで切ろうとしたんですが傷一つつかなかったですよ」


 え、なに当たり前のように言っているんですか!? 仮に切れてしまったらどうするつもりだったんですか!? 怖いよこの人。まぁ、壊れなかったみたいだからよかったけどさぁ。


「なるほど。こいつの体調不良もこの首飾りが関係していそうだな」

「確か、倦怠感や肩こりなどが発症したと言ってましたね」

「あ、はい。でも、最近は治ったみたいで特に変わりがないです」


 首飾りを取ったら体調がよくなった。と、いうことはやっぱり、この首飾りには何かある。ここまで体に影響しているなんて凄い。どれだけ強い力が込められているんだろう。


「他に分かったことはあるか?」

「あとだと、何で作られているかですね。チェーンや石が嵌められている淵は見た目通りただの金属。特に気にしなくていいでしょう。ただ、この石だけは少し特殊かもしれないです。鉱石が主に使われているようですが、他にも様々な反応がありました。アルミニウムやクロムを含む、薬品が検出されています。ルビーを人工的に作ろうとしているようにも取れますね」

「確かに赤かったからな。目的はルビーを作ること――な、訳ねぇよな」

「はい。何を使われているかはわかりましたが、なぜここまで黒く染まってしまったのか。それと、この気配。怨呪に似た感じなので、そこも調べた方がよろしいかなと。もしかすると、普通の方法では検出できない物もあるのかもしれないです」


 待って。二人は話が通じているみたいなんだけど、私にはまったくわからないよ。当事者である私がよくわかっていないのはいいの?


「ひとまず、これが危険なものであることがわかればいい」

「危険? 確かに危険そうですが。それ、どうするんですか?」

「まだ色々調べた方がいいと思うしな。まだこいつに預けておく」

「あ、そうなんですね」


 何をしても壊れないみたいだし、大丈夫か。


「ところで、裏輪廻は最近どうなんだ?」


 裏輪廻……。もう一人の私のこと、幡羅さんはそんな呼び方していたのか。なんとなくわかりやすいな。


「最近は入れ替わっていないのでわからないです。無理やり表に出ようとしない、ということしか……」

「なるほどな。入れ替われなくなったとかではないということだな」

「それについてはなんとも……。幡羅さんと美輝さんと一緒に戦っていた時、なぜか入れ替わることができなくなったので。私もよくわからないです」

「なるほど」


 幡羅さんが顎に手を当て考え始めちゃった。でも、本当によくわかんないから何も言えないし、適当なことも言うわけにはいかない。


「その裏人格。私一度しか見れていないのだけれど、もう一度見せていただくことは可能かい?」

「え、今ですか?」

「いや、今じゃなくてもいい。ただ興味があるだけだからね」

「そうなんですか……。あの、血は抜かないでくださいね?」

「痛感がないとは聞いているのだけれど、なら眩暈などは起きるのか。出血はどこまで大丈夫なのか。どこまで斬り落としてもいいのか。調べたいことは山のようにあるんだけど協力はお願い出来ないかい?」

「無理です!!!!!」


 何この人!! めっちゃ怖いんだけど!!! 絶対に入れ替わってやるか!!! 私の話は全く聞いていないし!!


「なら、次の任務はこいつと行ったらいいんじゃないか?」


 ……え? 幡羅さん、何を言っているんですか? 私、死にますよ? 仲間であるはずの人によって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る