第54話 優しさ

 明神さんと戦闘を行って数日。いや、一緒にというか。明神さんが一方的に戦って、浄化してしまっただけだけど……。私、刀すら抜かなかったし。避難誘導も少ししかしてない。何も役に立たなかったんだよなぁ。


 私の寮は妖雲堂から妖裁堂に移動され、今は非番の妖裁級の人達が直々に特訓相手をしてくれてる。今の相手は、一番の常識人である海偉鈴里かいすずりさん。

 後ろで二つに結んでいる銀髪がひらひらと、動く度になびいて綺麗。体は平均女性より低いから、それも相まってかわいらしい。


 だが――……


「ったい!!!」

「まだまだ動きに無駄があるね。刀の動かし方、体の重心移動。それと、相手を見失わないように動体視力もまだまだ。早く強くなって、僕と本気の手合わせをしてよ、輪廻ちゃん」

「…………はい、善処します」

「はい、ならすぐに立って。すぐに態勢を立て直す」

「え、もうぶっ通しで三時間は行っていますよ!? もうそろそろ一回休憩をはさんでも……」

「そんな甘えは許されないよ? 強くなりたいんでしょ? なら、限界まで頑張らないと」

「は、い……」


 ものすっごく、スパルタ!!!! 休みすら与えてもらえない!!


「ほら、行くよ?」

「うっ……。はい」


 私、ここで死ぬんだろうか──……


 ※


 し、死んだ……。死んだよ……。

 手加減ありの手合わせ、何回やったんだろう。もう、途中から数えるのやめたよ。とりあえず、百回以上はやった、確実に。


「いてて……」


 うぅ、竹刀をぶつけられたところ、痛いなぁ。まぁ、自分が弱いから仕方がないんだけど……。


 今までもう一人の私が戦ってくれていたから、特訓していたと言えど感覚がわかんない。というか、体が動かない。いや、動いたとしても海偉さんの姿を確認できないからどっちにしろ無理。


「はぁ……」

「おい」

「ひょわぁぁあああ?!?!」


 後ろからいきなり声?! 妖裁堂の廊下だからめっちゃ油断してた。妖雲堂と比べても人がいないから、いきなり話しかけられるなんて思わなかったんだよ。人の気配とか感じなかったし……。


「あ、幡羅さん。お疲れ様です」


 任務帰りだな、返り血が頬を汚してる。


「前にお願いしていた首飾りの件。少しだけ進展があったらしい。あいつの所に行くぞ」

「え、あ、はい!」


 そう言うということは、実虹みにさんから連絡があったのか。

 

 幡羅さんの後ろを付いていくと、外に出てしまった。妖裁堂を囲う森の中って、なんか怖いんだよなぁ。

 薄暗いし、道は一本しかない。ただ、今私達が歩いているのは唯一ある一本の道ではなく、茨の道。道無き道を歩いている。


 葉や枝が服に引っかかったり、スカートだから足が切れる……。地味にヒリヒリして気になる痛みがあるんだよなぁ。


「あの、どこに向かってるんですか?」

「あいつの研究室」

「いや、あの。それがどこにあるのかを聞いているのですが……」

「辿り着いたらわかんだろ」


 付いてきたらわかる、ではないんですね。たどり着くまでわかんないんですね。せめて、あとどのくらいで着くのかだけでも教えてくれませんかね。聞いてもしょうがないだろうから聞かないけどさぁ。


「言葉で伝えても結局わかんねぇだろうがお前」

「もう、心を読まれるのに慣れてきました」

「なら、次は読まれないように努力するんだな。ニシシ」

「無理難題では!?」


 幡羅さんは常に人の心を読んでしまうんですよね!? それで読まれるなは確実に無理だと思います!!


 もう、なんでそんな事しか……あれ。なんか、道が開いてきた?


「ついたぞ」

「え、ついたって……」

 

 目の前には何か特別なものがあるわけではない。今までと違うといえば、木は円形に切られ、土がえぐられていることぐらい。無理やりここに何かを作ろうとしている途中のような感じだ。


 えっと。とりあえず、ここが本当に目的地? 研究室って、何処ですか?


 あれ、幡羅さん? いきなり円の中心に立ってどうしたんですか? 地面を足で払っている?


「え……」


 じ、地面から鉄の扉が現れ……た?

 もしかして、もともと地面に扉があって、土でカモフラージュしていたってこと? 幡羅さんは元々知っていたから簡単に見つけて開けることができたのか。普通ならわからないもんな。


 にしても、すごいなぁ。こんなの所に隠し扉。どうやって作ったんだろう。


「ひとまず中に入るぞ。他の奴に見られたらめんどくせぇ」

「え、あ、はい」


 他の人って誰なんだろう。見つかったらまずいの?


 あ、扉の先には下りの階段。光源がないから普通に怖いんですけど……。しかも、少し湿っぽいから、入るの躊躇してしまう。

 幡羅さんは慣れてるみたいだな、当たり前のように私を置いていこうとする。


 足音が周りの壁に反射して大きく聞こえる。一種のホラーだよ、足が竦む…………。


「さっさと来い、早く扉を閉じろ」

「い、行きたいのですが、こわくて……」

「…………はぁ。仕方がねぇな」


 え、何を? いきなりこっちに来てどうしたんですか。もしかして足元を照らしてくれるとか? 何か持っているんですか?


「悪いが光源は生憎持ち合わせていない。代わりになるかはわからんが、これで我慢しろ」

「え、あの。幡羅さん?」

「時間が惜しい、さっさと行くぞ。俺から離れんなよ」


 離れるなんて無理でしょう。ナチュラルに、手を繋がれた。しかも、優しく包む感じに。速度もちょうどいいというか、時間が惜しいって言っていたのにいつもよりゆっくり……。


 こんな紳士的なこともできるんだ、幡羅さん。女性にモテそう。普段の言動をもっと改めたら。


「余計なお世話だ」

「聞こえていましたか。でも、改めた方がいいですよ。その方が絶対にモテます」

「手を離してほしいと?」

「すいませんでした!!!!!」

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