第45話 狡くても
「私が煙を霧散させる、京夜は攻められるようになったら攻めてくれ」
「了解だ。だが、大きい一撃を与えられるのはあねっさんだ。アシストばかりじゃなく、攻めてけよ」
「了解だ」
二人が言葉をかわすと、美輝さんが両手剣を構え、同時に幡羅さんが煙に向かって走り出す──って、え?!?!
「ちょ、危ないですって!!」
あの煙は触れた物を溶かすんじゃないの?! まだ霧散されてなっ──
「妖裁級を舐めるな」
「っえ?」
美輝さんが怒りと憎しみの籠った声で呟いたんですが。あれ、本気で怒ってる?
横目で美輝さんを見ていると、幡羅さんが煙の中に突っ込んでしまった────って、ああぁぁぁぁぁああああ!!!! 幡羅さぁぁぁぁああああんんんんん!!!!!!
幡羅さんが溶けてしまぅぅぅうう──え? なんで原型を留めてるの? ふっつうにクナイを男性に振りかぶってるし。
しかも、クナイだけじゃない? 」
足も器用に使い、男性の腕を蹴り上げる。体を立て回転させ、後ろへ移動。クナイを投げ、視線を逸らさせすぐ走り出す。懐から違うクナイを取り出し、風のように走り出した。
視界を逸らさせたからか、男性の動きが一瞬遅れる。でも、すぐにクナイを受け流してしまった。
全ての攻撃を避けられているにもかかわらず、左右に持っているクナイを交互に体全体を使い連撃を繰り出す。そこに、追い風のように突風が吹いた。
隣に立っていた美輝さんが両手剣を円のように回し、幡羅さんに風を送っている。筋力すご。
二人の事は信じている、私は何もできない。でも、少しでも役に立ちたいから、刀を握りいつでも動けるように準備。一歩、足を前に出しただけで体が重くなった気がする。あの男性から発せられる圧は凄まじいな。
「どうやって、幡羅さんはあの溶ける煙を潜り抜けたんだろう」
隙を見て近づきたいけど、そもそもあの煙のトリックをわからないと奇跡的に隙を見つける事が出来ても、近づくことが出来ない。
「全ての煙がそうとは限らない」
「え。全ての煙とは、限らない?」
それって、もしかして幡羅さんは普通の煙と溶かす煙を見分け向かっていったってこと?
そうか、幡羅さんの恨力ならそれが可能なんだ。
相手の思考や未来を見て、それから動く。普通なら間に合わないようなスピードだけど、幡羅さんなら間に合う。
相手の動きを"読む"じゃなくて、"見る"から始まる攻防。
ジャンケンなら後出しみたいなずるさがあるけど、今はそんなこと言ってられない。
ずるをしてでも、あの人を捕らえないと。
集中、男性から目を離さないで一瞬でも隙を――――ゾクッ!!!
なんで、口元に、笑みが――………
――――ゴンッ!!!
「っ!! な……」
「京夜!!」
私の隣、何かが横切った? あれ、なんで、男性が一人、煙草を余裕そうに吹かしているの?
……え。
「気を、失ってる?」
後、建物にぶつかり気を失っている幡羅さん。なんで、何が…………。
「はらさ――ヒッ!?」
なに、寒気、悪寒。隣から殺気? 怖い、怖い。
え、隣????
「美輝さん?」
体に突き刺さるこの感覚、美輝さんから放たれている?
「許せない」
「えっ?」
今の声、本当に美輝さん? 低くて、重たい。体をなにか重いもので殴られたような。そんな衝撃が襲う。
「え、ちょ、わ!! 美輝さん!?」
いきなり美輝さんが走り出しちゃった!? 近づくのは危ないって!!
「怒りに身を任せるなど。先の小僧の方が頭は回っていたということか」
「だまれ」
美輝さんが両手剣を振りかざした。
「怒りは時に、人を強くするエネルギーとなる。だが、覚えておけ。大半の人物は、自身の怒り、憎しみ、憎悪。そういったものに負け、我を失う。自身の内側にある恨みを開放してしまえば、人ではいられぬぞ」
……――――。
「美輝さん……?」
目の前の光景が、スローモーションのように動く。ゆっくりなのに、私の身体は動かない。目の前で起こってしまっている光景を、見るしか出来ない。
「だから、優しいおじさんが、君を人間のうちに眠らせてあげるよぉ」
美輝さんの胸を男の手が――――貫通した。
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