第44話 千里眼

 す、凄い。いや、もはやすごいという事しかわからない。


 相手を動きを完璧に封じ、大きな一発は狙わず地道に。それでも確実に削っていき相手を弱らせていく。

 

 男性が何か動きを見せる前に仕掛け、身動きすら取らせない。徐々に傷つき、血がしたたり落ちる。足、腕。次はどこを狙うのか。


 というか、どうやって男の先を読み攻撃を仕掛けているんだろう。予備動作? いや、男性にそんな動作はない。動く気配すらないから、いつの間に近付かれている。


「どこを見て相手の動きを先読みしているんだろう……」

「あれが京夜の恨力。簡単に言えば千里眼だ」

「千里眼?」


 千里眼って、遠くの光景を見たり、相手の思考や将来を見通すことが出来るってやつだったかな。


 ……………え。


「もしかして幡羅さんって、相手の考えていることが分かる感じですか?」

「その力なら主様も封じることが出来なかったらしく、普段から発動している。ちなみに、遠くを見る、未来を見るは封じているため普段は使われないぞ。だが、今は解放したらしく一時的に使用可能となっている」


 えっと。つまり幡羅さんの恨力は”目”。

 相手の思考を読み取る、何メートル先の景色を見ることができ、少し先の未来を見ることまで可能。


 え、最強じゃないですか。やばいっすね感動。


「だが、やはりずっと使っていると目が痛くなり眩暈が起きるらしい。頭痛もしてしまう為、長くても三十分。それ以上は無理だそうだ」


 三十分。短いな。今で何分何だろう、あとどのくらい持つのだろう。


 幡羅さんの戦術は少しずつ相手を削るもの。時間制限がある恨力との相性が悪い。でも、それもわかって幡羅さんは戦闘を行っているはず。この戦闘、終わりが、わからない。


「お前さんはやはり強い。おじさんも本気を出さなければならないねぇ〜」

「なに? っしま――」



 ――――バタッ



「っ?! なっ……」


 幡羅さんが、空中でいきなり動きを止めて、そのまま地面に落ちた? 怪我をしたわけではないみたい。でも、動かない。


 私も、助けに行きたいのに、行けない。


 私達が居る方向だと背中しか見えないはずなのに。攻撃を仕掛けようと思えば出来る状況なのに。体を出来ない。


 幡羅さんは顔だけを上げるけど、その顔は真っ青。歯を食いしばり、男性を睨みつけている。


 なんだ、これ。怖い。

 今までとは段違いの重くのしかかる黒いオーラ。男性の近くだけ空気が重くなったように感じる。


「おじさんも力を封じていたんだよね。だって、この力を解放してしまうと、君を殺してしまうから」

「はっ、くそが!!」


 言いきった直後、幡羅さんは何かを足元から感じとったらしく、勢いよく空中へと跳んだ。う、動けたんですね??


「え、なにっ?!」


 元々幡羅さんがいた場所には煙が渦巻き、近くにあった木などが溶け跡形もなく無くなってしまった。


 あの煙って────


「ふぅ。やはり、これを使うと気分がいい。たまには違う煙草で気分を変えるのもいいかもしれないねぇ」


 そういうことか。多分だけど、煙草の種類を変えたらしい。でも、煙草に興味が無いからか。見た目は変わっていないように見えるなぁ……。いや、変えたということを悟らせないように、わざと同じ見た目にしているのか。


 空中に避けた幡羅さんに向かって、溶ける煙が襲いかかる。


「幡羅さん!!!!!」


 思わず大きな声で叫んでしまった。

 あ、あれ? なんか……。ワイヤー銃の銃口を美輝さんに向けてない?


 って、そのまま放った?!?! 危な!?!? なぜこっちに向ける!?!?!?


 慌てて避けようとするけど体は動かないまま。ワイヤーは私の横にいる美輝さんに放たれる。横目で見ると、美輝さんは冷静に両手剣にワイヤーを絡ませた?!

 確認すると、幡羅さんは煙に当たる直前にワイヤーを吸い取り、私達のところまで一瞬で移動してきた。


 うわお、こんな使い方が……。


「動けるのか?」

「斬れている腕をひっかいて拘束を解いた」


 え、腕をひっかいたの!? 聞いただけで痛い!!


「なるほどな。京夜、あれはなんだ」

「触れただけで溶かす酸のようなものだろうな。恐らく、あれが本来の男の恨力。力に制限があるため今まで使ってこなかったんだろう。ニシシッ、これはまずいぞ」


 口角を上げ男性を見ている幡羅さんだけど、額からは汗を流し、左右非対称の瞳には焦りが見え隠れしているように見える。


 …………幡羅さんの右目が黒くなってるの、なんかかっこいい。


「おい、見学料取るぞ」

「失礼いたしました幡羅様。どういたしましょうか」


 やば。そういえばこの人には思考がダダ漏れだったんだ。もしかして今までのも聞かれていたってこと?

 そういえば、何回か読心術みたいなものを感じてたけど、本当に思考を読んでいたってことか。


 …………恥ずかしすぎるんですけど!! よかった!! 幡羅さんが近くにいる間に雪那せつなさんと会わなくて!!!


「安心しろ。てめぇの恋心など俺にはどうでもいい」

「見抜かれていた!?」

「人を好きになるのは勝手だ。だが、忘れるんじゃねぇぞ。俺達はいつ死んでもおかしくない。そんな道に立っている。茨じゃねぇ。いつ、何時、何が起きるかわからない。崖っぷちの道を進んでいるということは、絶対に忘れんな」


 いつも人を小馬鹿にするような表情を浮かべているのに、その時だけは真面目で、見ただけで体がしびれ何も言えなくなる。


「とりあえず、今回がその試練だ。せいぜい崖から落ちないように気をつけるんだな」


 私から目を離し、幡羅さんは相手の男性へと顔を向き直してしまった。

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