第13話 先輩とコラボするその日まで!

「……なんだあいつ、ゲームしてんのか?」


 おかしくなってしまった八坂と話してやってくれと風無にお願いされた日の夜。


 面倒くさかったものの、いつまでも放ったらかしにしておくにはいかないため、一応ゲーム内で話でも聞いてやるかとゲームを立ち上げると、八坂も同じゲームをやっていた。


 不本意なことにこのゲームでは八坂とフレンドになってるから八坂がプレイ中かどうか見える。


「パソコンずっと使ってるって、FPSにハマっただけなんじゃねぇの……」


 もしFPSをずっとやっていたんだとしたら『うけけけけ』という独り言も理解できる。

 いや、やっぱできない。


「ま、好都合か」


 ゲームしてるだけなら重大なことじゃなさそうだし。

 とりあえず頼まれたから話だけはしておくか、と俺の方から八坂のパーティに入る。


「あ、あー。おい、八坂」

『!? 闇也先輩っ!?』


 ボイスチャットをオンにすると、いつも通りのオーバーリアクションで返事がくる。

 なんだ。いつも通りの八坂じゃん。


『どうしたんですかっ?』

「いや、八坂がずっとパソコン使ってるって話聞いたから、何してんのか聞きに来た」

『ずっとゲームしてました』

「ああ、なんだ」


 普通に健全な理由だったわ。

 風無に聞かれたら「八坂はゲーム廃人への一歩を踏み出した」って言っとくか。


「でも、なんで配信もしてないんだ? せっかくやってるなら配信付けとけばいいだろ」

『先輩に近づくためです!』

「……え、どういう意味で?」


 それは、配信してない理由の答えになってなくない?


『ゲームは初心者か上級者じゃないと見応えがありません。中級者が一番面白くないです』

「あ、あー……そうなのん?」

『はい』


 知らなかった。


『面白くない配信をしていては先輩とのコラボから遠ざかるばかりなので、上級者の域に至るまで配信はしないつもりです』

「……ゲーム配信以外も!?」

『はい。今までできていた配信をしても意味がないので。時間は一つ上のレベルの配信ができるようになるために使います』

「いや待て待て待てって……」


 一気に雲行きが怪しくなったと思ったら曇天超えて台風が近づいてる気配がしてるんだよ。


 え、なんで? 俺とコラボするために? ずっとゲームしてんの? 配信せずに?


「いや俺、八坂が一つ上のレベルの配信しないとコラボしないなんて言ったか?」

『言ってました』

「言ってたか!?」

『いえ、先輩は優しいので口には出しませんが、目がそう言ってました』

「何でもありだなそれ」


 目が言ってたは言ってないと同義なんだよ。


「はぁ……」


 いや、なるほどな……。


 確かに、八坂がおかしくなった理由には俺も関係してたか。

 ……ああ、おかしくなったと言えば。


「あと、八坂が奇声を発してるって噂があるんだけど」

『ああ、最近は意図的に発するようにしてるんです』

「……なんで?」

『Vtuberとしてトークを進化させるためです』


 ……なんで?


「奇声を発すると、トークが進化するのか?」

『天才のふりをすると天才になれるって言うじゃないですか?』

「言うのか」

『私は天才じゃないので、もうちょっと面白い人間になるために少しは努力しないといけないなと思いまして』


 充分面白い人間だけどなお前。

 少なくとも俺が直接話した人類の中では一番奇っ怪な人間だよ。


「……はぁ~」


 なるほどなぁ。


 俺がコラボ断ったのが、こんなところに影響として出てくるのか……。


 八坂とのコラボが嫌なのは別に実力不足だからじゃないってことは否定した気になってたけど……まあ、あの時は面と向かって話してたから、ちゃんと伝えられてなかったのかもな。


「なあ、八坂」

『はい?』

「一応言っとくけど、八坂が実力不足だからコラボしないわけじゃないからな?」

『はい、そうですね』

「今めっちゃ冷たくあしらわなかったか!?」


 お前俺にそんな態度取れたんだ!?


『いや……いいんです、先輩』

「え、あ……?」

『私のことは私が一番わかっています。私に今一番何が足りないのか』

「いやわかってないわかってない」


 お前に今一番足りてないのは客観的視点だよ。


『私は今までVtuberを舐めていました。簡単に先輩と――いえ、「闇也」さんと肩を並べようとしていたのがおこがましかったんです』

「いや今更気づいても遅いし別にいいし……」


 もう散々一方的に親しげにされた後だからどうでもいいんだよそれは。


『無謀だって言いたい気持ちはわかります。ただ、今はもう少し私に頑張らせてください』

「ああ、頑張るのはいいんだけど……ずっと配信しないとなると、Vtuber的に――」

『さらば! 先輩とコラボするその日まで!』

「!?」


 そこで八坂は、俺との会話を無視して一人でゲームの世界に潜っていってしまった。


 ……あいつが自分から俺と話すのやめるって……相当だな。


「なんでそんなコラボしたいんだよ……」


 ついこの前まで、Vtuberとして人気になったら付き合う云々言ってたくせに……いや、その目標は別に変わってないのか。


 その目標の中間地点が、八坂にとっては俺とのコラボなんだろう。

 にしても、Vtuberなのに配信しなくなったら逆効果だろうに。


「……コラボしてやれって頼まれそうだなぁ」


 これ、風無に報告したら。


「どうしたもんか……」


 どうにかして、俺の責任じゃなかったってことにできないもんかな……。

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