第12話 ずっとエロ画像見てるとか?

「……これ多分もう1パーティすぐ近くにいるんだよな」


 俺の配信はゲーム実況が九割を占めている。


 理由は、単純に俺の趣味がゲームだからっていうのと、表情やリアクションの映るVtuberとゲームの親和性が高いから。


 と言っても、別にキャラの表情が見えたところで大してリアクションもしない俺の場合面白くはない気がするけど。


「一旦待つか。俺達が撃ち始めたら絶対他のパーティ寄ってくるよな……コメントでも読んでまったりするか? お茶でも入れてきた方が勝てる気するわ。お茶ないけど」


 それでも、こんな奴の生放送6000人も7000人も見てくれるのは、ゲームの上手さが役に立ってんだろうな、と思う。


 喋りもテキトーだし、視聴者とよくやり取りするわけでもないし。


 まあ、今やVtuberのトップは生放送に万単位で人を集める時代だし、Vtuber自体の人気に乗っかってる部分もあるんだろうけど。


 真城さんにはデビューからずっと順調だと言われるものの、俺自身は自分の配信を見返しては「こいつの何が面白いんだ?」と思ったりもする。


 まあ引きこもりの独り言を楽しんでくれる奴がいるうちは、自分の面白さがわからないなんてことで悩む日は来ないだろうけど。お金は入ってくるし。


「……お、向こうで撃ち合ってね? よっしゃこれ勝てるぞ! 乗り込め乗り込め!」


 そうして、俺がデビューしてからずっとやってるバトルロワイヤルゲームで一位を取ったところで、コメント欄も『ナイスうううううう!』『うっま』と盛り上がる。


 これが俺の日常。


 ……できれば、一生続いてほしかった、俺の理想の日常。



 ◇◆◇◆◇



「最近すみれがちょっとおかしいんだけど」

「いつものことだろ」


 その日の配信前。


 俺の日常をいつも通りに壊すために、風無は俺の部屋にやってきた。


 せめて俺が配信終わった後に来てくれよ、と言いたかったけど、話の内容的に八坂がいない昼の時間を狙ったらしい。


「いや、闇也からはそう見えてるかもしれないけど」

「見えてるも何も」


 八坂の行動を文章に起こしたら誰だってこの人はおかしいと言うと思うけど。


 まあ、そのおかしい八坂がさらにおかしくなってるんだとしたら一大事か。


「何がおかしいんだ? 飯食わないとか? 話してくれないとか?」


 ついこの前、風無が八坂に嫌われる事件があったし、その関係か?


「いや、そういうのは、わりといつも通りなんだけど」

「へぇ」


 八坂はそういうの引きずらなさそうなタイプだしそんなもんか。


 だとしたら今日は何の相談なんだ――と思っていたら、風無が自分のスマホを見せてくる。風無のチャンネルだ。


「私、この三日間配信してないんだけど」

「ああ」


 そういえば、風無の配信見なかったな。


「……あぁ、八坂にずっとパソコン取られるようになったって相談か?」

「まあ、うん」

「なるほどな」


 まあ、俺をお手本にするとか言い出した時からそうなりそうだとは思ってたけどな。

 別にいいんじゃね? 配信したいならさせてやれば。


「どうせ毎日配信してたら飽きるだろうし、限界までやらせてやれば?」

「……それ、闇也に言われると全く従う気にならないんだけど」

「なんでだよ」


 いつも俺の配信時間見て異常者扱いするんだからいいだろ。

 自虐だよ自虐。


 ――ただ、風無の顔を見ると、どうやら俺のアドバイス通りにできるわけでもないらしく、


「というか、うん……配信してるんだったらまだいいんだけど」

「?」

「これ」


 さっき自分のチャンネルを見せてきた時と同じように風無が見せてきたのは、まだ動画数の少ない八坂のチャンネル。


 なんだと思って見ると――八坂の最後の配信は四日前になっていた。


「……え、配信してねーの?」

「うん」

「ずっとエロ画像見てるとか?」

「すみれはそんな子じゃないから!」


 姉からパソコン奪ってまでやることが他に思いつかないんだけど。


 大体、八坂なんて配信間隔は短い奴だったのに、どうしたんだ急に。


「……じゃあ、何にパソコン使われてるって話なんだ?」

「わかんない」

「……じゃあ、何したんだ?」

「私は何もしてないって」


 妹も何もしてないのに壊したのかこいつ。


 いや、配信しなくなった時期から言って、俺も無関係とは言えなさそうだけど……。


 でも、それで言うなら俺も何もしてないしなぁ。


 最近は家には来なくなった代わりに、弟子としてゲームやSNS上でアドバイスという名の会話を求めてくるのが八坂の流行りだったんだけど、それもこの数日はなかった。


 接触したのは、コラボを断った日が最後になる。


「……とりあえず、何してるのか覗けばいいんじゃねーの? 引きこもってるわけじゃないんだろ?」

「まあ、うん」


 確か、八坂の部屋とリビングの間の扉は開けっ放しになってたし。

 とりあえず何してるのか見てみればいいのに。


「でも……なんていうか」

「なんていうか?」

「……怖くて」

「そりゃ八坂は怖いだろ」


 化け物だし。今頃気づいたのか。


「いやそうじゃなくて! ……なんか、変なことしてそうなの」

「変なことぉ?」


 元々八坂が変なんだから、風無の言う変なことじゃたかが知れてるけど。


「部屋から『うけけけけ』とか『わばばばば』とか『エクスペリエンス!』とか聞こえてきて……」

「ヤバいヤバいヤバい!!」


 どうしてすぐに八坂の相談に乗ってやらなかった!?


 ダメだろ姉として! もっと妹に気を使ってやらなきゃ!


「それはストレスだ! 俺にも経験がある」

「経験あんの……?」

「とにかく好きなもので気を紛らわせるかストレスの原因を排除した方がいい」

「原因って言われても……」


 特に心当たりがないという様子で上を向く風無。

 まあ、風無の話通りなら何もしてないらしいから仕方ないか。


「高校行きたくないとか勉強したくないとか言ってないのか?」

「すみれはそういうこと言わないし」

「信用されてないんだな」

「それは聞き捨てならないんだけど!?」


 傍から見てても風無が一方的に八坂のこと大好きなように見えるし。


 ……となると、八坂の相談に乗れる奴を用意するくらいしか思いつかないけど。


「というか、そこまで言うなら闇也も手伝ってよ。私信用されてないから」

「……拗ねるなって。風無は姉として慕われてるから大丈夫だ」

「さっきと意見180度変わってない?」


 変わってない変わってない。

 大体……俺に手伝えって言われたってさ。


「この前私も告白断ってって言われた時手伝ったでしょ? 闇也も手伝ってよ」

「俺にできることなんてない」

「できるって! すみれに関しては闇也なら――」

「俺は何もできない役立たずだ!」

「そんなに嫌!?」


 こういうことに関しては本当に俺は無理なんだよ。


 他人にどうこうとか告白の返事をどうこうとか師匠と弟子でどうこうとか。


 最近八坂のせいで耐性がついた部分もあるけど、あれは自分のためだったからで、他人を何とかする余裕は俺にはない。


「でも、闇也以外どうにもできないかもよ?」

「……他にいるだろ……なんか、高校生のお悩み相談とか」

「そういうので解決するって本当に思ってる?」

「……ああいうのは役に立たない」

「認めてるじゃん」


 認めたくないけど、それよりは俺の方が役に立つ。認めたくないけど。


「だけど、俺が何すんだよ。『うけけけけ』って言ってる奴に」

「さっき自分で言ってたでしょ? 好きなもの気を紛らわせるって。すみれが一番好きなのは、まあ、闇也だし」

「話すだけでいいって?」

「うん。闇也にならポロッとなんか話すかもしれないし」

「あっそ……」


 そんな家族に任せた方が良さそうな役割を、俺がやんなきゃいけないのか……。


 残念ながら家族じゃないから、深刻な問題だったとしたら、俺は八坂を見捨てて逃げ出すけど。


 それでもいいから一回話してみてと言う風無に説得されて、その夜、俺は八坂の様子を探ることになった。

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