『20/20』- スカート

 ネオ・シティポップをセレクトしてきた今回。その最後を飾るのは東京都板橋区を代表する正統派ネオアコ系・シティポップバンド、スカートです。

 バンドと紹介しましたが正確に言うと澤部渡さんのソロプロジェクトという形式で活動しており、様々なサポートメンバーがいるなか同氏が作詞・作曲を行なっています。


 スカートは長いインディーでの活動を経て本アルバムでポニー・キャニオンからメジャーデビューを果たし、この作品は前作の『CALL』に続き爽やかさなギターポップが展開されています。しかしスカートの爽やかは単なる爽やかさではありません。肌寒い春の風のような、服を撫でる秋の日差しのような「影」らしきものを同居させた爽やかさなのです。


 さて澤部渡さんを、引いてはスカートを一躍有名にした出来事あったのですが皆さんはご存知でしょうか? そうです。それは2016年4月22日にミュージックステーションで行われたスピッツのスタジオライブです。その日、新曲「みなと」を演奏するスピッツのバックバンドの一員としてタンバリンと口笛を吹いていた姿が話題となり「あの人誰?」とネットを騒つかせたのです。その時の経緯や裏話についてはYoutube上に公開されている動画『【曽我部恵一/スカート(澤部渡)】 ぷらナタ #30 /WOWOWぷらすと+ナタリー』にて語られているとおりです。


 さて、スピッツと僕。スピッツは親の影響で子供の頃から慣れ親しんできたバンドの一つです。父親と母親、それぞれの音楽の趣味は異なっていました。父親の趣味は基本的にはThe BeatlesやLed Zeppelin、Simon & GarfunkelやEaglesなどの洋楽、シュガーベイブ、山下達郎や松任谷由美と言ったシティポップサウンドが中心です(それ以外ももちろんありますがここでは割愛)。

 対する母親は大滝詠一やRCサクセション、THE BLUE HEARTSなどを好んでいました。そんな母親が、僕がまだ小さかった頃によくかけていた音楽がスピッツでした。小学生ぐらいの時でしょうか。耳に優しいメロディとボーカルの声、聞き取り易くそして繊細な感性から紡がれた歌詞、そして圧倒的なポップセンス。

 僕は大学生になったあたりからダンスミュージックや電子音楽に目覚めサカナクションにハマり始めるのですが、サカナクションは電子音楽やクラブサウンドをロックと融合する、意欲的で実験的なサウンドが魅力です。同時に歌詞が独特で、文学的で鋭い文字表現から描かれる一種の心象風景が持ち味となっています。僕はサウンドもさることながらサカナクションの歌詞も好きで、フロントマンである山口一郎氏の歌詞表現が僕の感性の一部を作り替えたと言ってしまえるぐらいに影響されています。そんな山口一郎氏が歌詞表現という面で度々名前をあげるのがスピッツやゆらゆら帝国でした(また前々回に紹介したD.A.N.の櫻木大吾もスピッツを度々挙げています)。

 今振り返るとスピッツが知らず知らずのうちに僕の原体験の一つとなっていたように思えます。

 その後、母親からYellow Magic Orchestraについての話を度々聞いていたことがきっかけで同バンドを聴くようになり細野晴臣やはっぴぃえんどを知る事になるのですが、そのような形で僕はシティ・ポップにたどり着くのでした。


 僕は東京都板橋区出身で、同郷のミュージシャンにPUNPEEさんや弟の5lackさんがいます。スカートの澤部渡さんも同じく板橋区の出身で、その縁があってか昨年「PUNPEE Presents. “Seasons Greetings'20"」にて両氏の共演が実現しました。それも一緒に歌ったのは『お嫁においで 2015』というのだからエモい(個人的な話題で吸いません)。

 板橋区は東京都23区の中でもかなり日陰の地域で影も薄いですがかの山下達郎氏も板橋区に縁があるとか。またヒップホップユニット・Creepy Nutsのターンテーブルを担当するDJ松永さんも一時期板橋区に住んでいたりもしたようです(オタク IN THE HOOD)。

 東京都板橋区。23区のなかで最低クラスに冴えない区ですがどういうわけかシティ・ポップとヒップホップに所縁がある最先“端”の街。そんな板橋区と僕のルーツを語る上でスカートは必要不可欠な存在です。


 * * *


 最終的に板橋区のお話になってしまいました。反省しています。因みに新海誠監督の映画作品「天気の子」にて板橋区が描かれております。映画の中ではあまり印象に残らない場面かもしれませんが全板橋区民歓喜のシーンなのでこちも要チェックですよ。


■一曲選ぶならコレ 【静かな夜がいい】

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