第11話 キミの檻

静かな風が開けた窓から吹き込んで、ゆるりとカーテンを揺らす。

男は一人、この揺らぎを眺めていた。

ここが檻になって幾星霜、見ることのできなかった景色である。


ふかふかの絨毯の上、足を引きずって歩く。あの子はこの感触が好きだったのだ。

 

カーテンを開け放つ。窓の外は快晴で、吹く風が肌をくすぐるような、穏やかな日。


あの子がその足で真っ直ぐ立っていたときのことを覚えている。

遠い昔のこと。

あの子のまろい頬がピンクに色づいて、日差しを受け入れたことを知っている。

まだ、今のうちは。

キラキラした声で笑い、乱れる髪を覚えている。

覚えているのだ。


風が吹く、部屋を通り過ぎていく。

ここはキミの檻。

ただの空箱。

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超短編集 草木 一 @Soumoku_Hajime

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