第28話 罪と罰

「なんとかなったな。おーい生きてるか光瑠?」

「あ、ああなんとかね」


光の柱が消えると全身ボロボロの光瑠の姿が見える。


「よく生きてたな」

「障壁3枚展開してどうにかね。それでももう身体が動かないよ」


そう言うと光瑠はその場で腰を下ろす。

魔術も発動していないので本当に戦えないらしい。


「なるほど。あの魔術は僕を狙った訳じゃなくて僕の足元の霊符を狙っていたのか。マーキングした位置に魔術を放つなら精密に魔力をコントロールする必要は無い」

「そういうこった」


結梨から渡された霊符の最後の1枚の霊符は術式は刻まれておらず、ただの目印に過ぎない。

あの魔術は登録した座標に光の柱を落とすという魔術であり、その座標を霊符にすることで離れた位置からでも光の柱を落とすことが出来た訳だ。


「作戦成功ね、相真」

「ああ、お前がいなきゃ勝てなかったよ結梨。ありがとな」

「別にいいのよ」


俺は手を高く上げて戻って来た結梨とハイタッチをする。


「完敗だよ。抵抗はしない、拘束するなり連行するなり好きにしてくれ」

「拘束も連行もまだしない。取り敢えずお前の事、話してくれよ」

「・・・・・・!ハハ、確かにそういう約束だったね。いいよ全てを話すよ」


光瑠は驚いた様に目を見開いた後に笑みを浮かべながら話し始める。


「僕はとある組織のエージェント兼被検体なんだ。白夜光瑠って名前も本名じゃない。組織では"βベータ"って呼ばれてる」

「「は、はぁ」」


その説明を聞いて俺も結梨もポカーンとしている。


「悪い、ちょっと付いて行けない」

「だろうね。1つずつ説明していくよ。僕はとある犯罪組織で行われていた人工的に能力者を創り出す実験の被検体だったんだ」

「人工的に能力者を創り出す!?」

「そんなことが可能なの?」


俺と結梨は驚きの声を漏らす。

だがそれも当然だ。人工的に能力者を創るなんて不可能だと軍校では教わっているのだから。


「まぁ人工的に能力者を創ると言っても魂を少し弄って魔導器官の性能を上昇させただけだけどね」


驚く俺達に光瑠があっけらかんとそう言う。


『軽い感じで言ってますけどとんでもないことですよ』

『そうなのか?』

『ええ、魂に干渉って時点で半端無い技術です。それに魂を弄れたとしても下手したら身体がぐちゃぐちゃになります。能力者を創り出すまでにどれだけの犠牲があったことか』

『そりゃエグいな』


「魔導器官の性能を上昇させられれば、魔術を高速で行使することも高い魔力察知能力も説明がつくわね」

「そう言うことだよ」


結梨が納得したかの様にそう言う。


「話を続けるよ。βベータってのは組織あら与えられた僕のコードネームみたいなもので、組織のトップレベルの階級の人間は"イニシャルズ"と呼ばれており、ギリシア文字のコードネームが与えられるんだ」


光瑠が説明を再開する。


「なぁ。その組織はなんで俺を捕らえたいんだ?」

「それは分からない。僕は組織の命令に従って行動したまでなんだ。組織から情報は必要最低限しか知らされていない。君を捕らえるって任務も今朝知らされた」

「今朝?」

「ああ。軍校に入学したのも任務だったが、今朝までは気づかれるなとしか言われていなかった。組織は最初から君を捕らえる算段で僕を軍校に送り込んだんだろうけどね」


『嘘は言っていないよな』

『ええ、恐らくは』


俺は氣を読んでその言葉に嘘が無いことを確認する。ルナにも確認するが俺と同意見の様だ。


「でもお前は階級が高いんだろ?それなのに情報を貰ってないのか?」

「僕がイニシャルズに任命されたのは組織にとって実験の成果が高い価値を持っていたからだ。被検体としての報酬としてイニシャルズとしての地位を貰ったに過ぎない僕には普通のエージェントと同時の情報しか渡されてないんだよ」

「なるほどな。ここに連れてきたのはお前の作戦か?」

「いや、組織が考えたシナリオだよ。僕はここに君を連れてきて捕らえろと言われていたんだ」


なるほどな。それならこの爆破テロは俺を捕らえる為に組織とやらが行ったのか。


「話す事はこのくらいかな。公安にでも通報してくれ」

「その事なんだが、俺としてはこれまで通りお前とダチでいたいって思ってる」

「は?それはどういう?」

「これまで通り軍校に通って生活する気は無いかって事」


その言葉が心底予想外だったらしく光瑠は目を見開き驚きの表情を浮かべて数秒静止した後に苦笑を浮かべる。


「僕は犯罪者だよ?そんな事出来るわけがない。仮に出来たとしても、僕が罰を受けないのは僕に傷つけられた人達が許してくれないよ。血で染まったこの手で君達の隣で戦うなんて許されはしないよ」

「だったら傷つけた人よりも多くの人を助ければいい。何をしても過去は変わらない。お前が犯した罪も消えない、でもこれからその罪を塗り消すくらいに沢山の人を助けることは出来る。お前が悪い奴じゃない事くらい目を見りゃ分かる 」


光瑠はまたもや驚いた様に目を見開く。だがその瞳には確かな希望がある様に思えた。


「クックック。君は馬鹿だよ、僕を悪人じゃないと言うなんて。だけど、君の言う事は正しいよ。僕は戦うことから逃げていたようだ。ちゃんと償うよ。償えなかったとしても償い続ける、それが僕が課す自分自身への罰だ」


光瑠は力強くそう口にする。戦闘中のどこか悲しげな表情などもうどこにも無い。


「1つ聞かせてくれ相真。君はまだ僕の友人でいてくれるかい?君を捕らえようとした僕と友人のままでいてくれるかい?」

「当たり前だろ。それに俺はお前の事を殺そうとしたからお相こだろ」


俺と光瑠は笑い合う。互いにボロボロの身体で最初に会った時と同等、否それ以上の笑顔を浮かべる。


「それで実際どうするの?光瑠は一応犯罪者なんだけど先生達に隠し通すのは無理があるでしょ」


隣で俺らの会話を見ていた結梨が疑問の言葉を口にする。

それは当然の疑問だろう。これだけ派手に暴れれば軍校側に隠すのは難しい。公安やCIROなどの政府の組織ともなれば尚更だ。


「それに関しちゃ、なんとかしてくれそうな人がいる」


そう言って俺は2人から数メートル離れて、ポケットからスマホを取り出して電話をかける。


「もしもし、相真です」

『やぁ相真君。どうしたの〜?』

「ちょっと舞さんのお力を借りたくてですね」

『いいよ。言ってごらん』

「カクカクシカジカでして」


俺は舞さんに事の真相を話し、光瑠の罪についてのお願いをする。


『オッケー分かった。こっちで揉み消しとくね』

「えっ!?そんな簡単に?」

『一応こっちでも多少は調べてからだけど、相真君の言う事は信じるよ。君は嘘くらい見抜けるでしょ?』

「まぁ見抜けますけど・・・・・・」


(なんでこの人そんな事知ってるんだ?)


俺はそう思ったが口には出さず電話を続ける。


『君のお願い聞いたんだし私のお願いも聞いてくれる?』

「お願いですか?まぁ俺に出来る事なら」

『えっとねーー』




「何話してるのかしら?」

「さあ?そもそも誰に電話してるんだろうね」


電話を終えた俺は談笑している2人の元は戻る。


「結局誰に電話してたの?」

「公安の指揮官してる人」

「は?それって凄い人なんじゃないの?」

「そうだな。今回の件も2つ返事で揉み消してくれた」

「ヤバっ・・・・・・」

「そうか。ありがとう相真」


結梨が絶句し、光瑠は礼の言葉を口にする。


「俺は大した事してねーよ。ちょっと交換条件を呑んだってだけ。そんな事より、改めて宜しくな光瑠!」

「私からも宜しく」


俺が拳を突き出してグータッチを求めると、結梨も便乗して拳を出す。


「ああ、宜しく!」


そんな俺達に光瑠は最高の笑みを浮かべて拳を合わせた。


《後書き》


普段は後書きなんて書いていないのに何故今回は書いているのかというと、実は22話を投稿し忘れていたんです。

22話は前半はスタートに関わる内容ですが、後半は別に読む意味の無い内容となっています。なのでもう既に先の話を読んでしまったという方は前半だけでも読んで頂けると嬉しいです。誠に申し訳ありませんでした。

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