第27話 決着

結梨が逃げた事を確認した俺は再度光瑠にスイッチブレードを向けて半身で構える。


「大人しくする気は無いみたいだね」

「当たり前だろ。どんなに負けそうな勝負でも最後まで勝つのを諦めるな、って軍校で教わってるだろ?」

「確かにそうだね。なら僕も最後まで全力で行かせてもらうよ」


光瑠は地面を蹴り刹那の間に間合いを詰め、聖剣を振るう。

俺は半身を翻してギリギリでその斬撃を躱す。

剣速は圧倒的な速さだが、氣を読み、半身で最低限の動きで回避動作をとれば避ける事は可能だ。

視線、脚の動き、聖剣の構え方から次の攻撃を予想して回避する。

斬撃を受けるのは不利なので避ける事に最大限意識のリソースを割く。


『あの聖剣は魔術で剣速を加速させているのでしょう。なので初めの方遅いです』

『それなら斬撃の方向が読めるから対応は出来る』


下段からの斬り上げを大きく後ろに跳んで躱す。追撃せんと地を駆ける光瑠に空中から斬撃を飛ばして牽制する。

光瑠は当然の様に斬撃を聖剣で防ぐが、牽制が目的なので問題無い。


(躱せるけど近接戦じゃ勝ち目はないな。ならーー)


「オラァ!」


距離が空いたところで光瑠へ向けて斬撃を飛ばす。

1発では簡単に防がれてすぐに接近される。故に何度もスイッチブレードを振るい、無数の斬撃を飛ばす。

近づかせない為には飛び道具で相手を防御に徹させればいい。


『おいおいマジか?聖剣だけで全部防いでるぞ』


光瑠は聖剣で斬撃を弾いたり、切断したりしながら全ての斬撃を防御する。


『恐らく魔力察知で相真君がブレードを振るった瞬間には斬撃の方向も速度も分かっているのでしょう』

『なるほどな。だから初見で白鷲の速度に対応出来たのか』


俺ら念話が終えるとスイッチブレードを振るう手を止めて、居合の様な構えをとる。


ーー白鷺流剣術 斑鳩ーー


魔力を集中させた脚で地を駆けて、剣の間合いに入った刹那に刃を振るう。


「ーーッ!」

「チッ!」


ーーしかしその刃も弾かれる。

光瑠が聖剣を振るい飛ばした斬撃を斬った直後に斑鳩の斬撃を振るうも、光瑠は聖剣の加速を殺さないように斬撃を止めずに流れる様な斬撃で俺の斑鳩を防ぐ。

弾かれた事で死ななかった斑鳩の勢いを利用して俺は光瑠から再度距離をとる。


(流石に1度見てる技は当たらないか)


そう戦闘において同じ技を使って勝つのは相当の実力差が無い限りは難しい。

故に俺はさっきと全く同じ様に斬撃を飛ばし続ける。

しかし光瑠は飛来する斬撃を最低限の動きで全て防ぐ。さっき以上に正確に斬撃を見切っている。


「流石だな。光瑠」

「遠距離攻撃でもこの程度ならすぐに見切れるッ!?」


1つの斬撃が光瑠の聖剣に弾かれる事なくすぐ横を通過する。

しかしその斬撃はブーメランの様にUターンして背後から光瑠の首へと迫る。

光瑠は驚きの声を漏らして首を横に動かして躱す。だが光瑠は完全に躱す事が出来ずに斬撃が首を掠めて鮮血が流れる。


「曲がる斬撃・・・・・・か」

「その言う事っ!」


曲がる斬撃とは飛ばした斬撃を空中で方向転換させる技術であり、斬撃を飛ばす為にその場で得物を振るう時に手首を捻り刃を傾ける事で斬撃の進行方向を空中で曲げられる。だが斬撃が曲がるタイミングも方向も最初に剣を振るった時に決めるので魔術の様に途中でかえられる訳ではない。

短所もあり、斬撃の速度は普通の飛ぶ斬撃よりも遅くなる。難易度も高いので普通の斬撃を飛ばす以上に集中力が必要であり、今の俺には普通の斬撃を飛ばす様に連続で飛ばす技量は無い。


(出来ればさっきの斬撃で決めたかったけど、流石に首狙いじゃ躱されるか)


攻撃に対応するという事は、簡単に回避や防御が出来る様になると共に、多かれ少なかれ油断や慢心が生まれるという事だ。

光瑠なら飛ぶ斬撃にも簡単に対応すると分かっていた為、普通の飛ぶ斬撃を見せ札として使った。

だが切り札の1つだった曲がる斬撃もほぼダメージ無しで躱されてしまった。


(どうせすぐに曲がる斬撃も見切られるだろうしどうするかね)


俺は無数の斬撃を飛ばし続ける。だが普通の斬撃の中に曲がる斬撃を加えているが、飛ばす量が多いせいかさっきの様な精度は無い。

光瑠は曲がる斬撃が曲がった後の方向すら予測して避け始めている。このままでは曲がる斬撃がただの難易度が高いだけの斬撃になってしまう。

ただ斬撃に意識を集中させているという点では悪くない。


「ほらよ」


俺は結梨から渡された霊符の1枚をポケットから取り出して光瑠へ投げる。

その霊符は光瑠に当たる直前で空気中で停止する。そしてーー


「ッ!?」


霊符が光ると同時に大量の煙が出現して、斬撃の対処に集中している光瑠を包み込む。

結梨から渡された霊符はそれぞれバラバラの効果が込められている。さっき投げたのは目眩しの煙を発生させる術式が刻まれている物だ。

渡された霊符の1枚には鎮痛効果のある魔術が込められた物もあり、その霊符のお陰で肋骨が折れながらも戦えている。


「これは・・・・・・。だけどこの程度なら・・・・・・」


煙で視界を奪ったとしても光瑠に攻撃は当たらないだろう。斬撃を飛ばすではなく、普通に接近して斬撃を放ったとしても俺の持っている魔力を察知するだろう。


(だったらっ!)


俺は地面を蹴ると同時に落ちていた小石を剣身ですくい上げる様にして弾き、光瑠へ向けて飛ばす。


「クッ!」


煙の中から光瑠の声が聞こえて来る。その声が発せられると同時に俺は煙の中に飛び込み、氣を読んで光瑠の居場所を理解した俺は横一閃を叩き込む。


「ーーッ!?」


カキン、という甲高い音が鳴り響きスイッチブレードが止まる。

煙が消えると何故スイッチブレードが止まったかが分かった。


(障壁・・・・・・)


光瑠は掌に障壁を展開して斬撃を受け止めたのだ。

聖手甲でのガードなら斬り裂けただろう。光瑠もそれを理解した様で、自らの体勢が崩れた瞬間に聖剣を解除して障壁を展開したらしい。

だがそれは俺の剣速と同じがそれ以上の速度で魔術を解除、再度展開する必要がある。


(それをやってのけたのーー)


「カハッ・・・・・・」


光瑠の聖脚甲で強化された脚力から放たれる蹴りが俺の腹部に突き刺さる。

脇腹に強い衝撃を受けた俺は数メートル吹っ飛ばされて近くの建物の壁にぶつかる。


「クッソ!身体中痛え」


俺は壁にめり込んだ状態スイッチブレードを杖代わりにしてからなんとか立ち上がる。


「そんな身体でよく動けるね」

「まだまだ、余裕だよ」


そう強がってはみたものの、骨折等によるダメージや痛み、能力の使いすぎによる身体の負担のせいで身体が重い。

特に後者の影響は大きく、負傷していない箇所にも痛みが走っている。ここまで身体への負担の影響が出ている理由は、職務体験の時の魔術師との戦闘の2倍近くの時間30%サーティーを使い続けている為だろう。


「そろそろ勝負を決めようか・・・・・・」


そう言って光瑠は上段からの刺突の構えをとる。

どうやらここで勝負を決めるからしい。


「行くよ、相真。はぁぁ!」


気合の篭った声と共に繰り出させる刺突。それは小細工無し、魔術、戦闘技術、身体能力、己の全ての武力を乗せた一撃。


(ここだっ!)


光瑠が地面を蹴ったその瞬間に俺は上着を破って光瑠へと投げる。

しかしその程度では意識を僅かに向けさせることしか出来ない。


「うぐっ・・・・・・」


空中の上着を貫いた聖剣は俺の肩に突き刺さり、傷口からは鮮血が吹き出す。

刺突の速度は仮に氣を読んだとしても避けることは出来なかっただろう。なので俺は完全に躱すのは諦めて、致命傷だけは避ける為に刺突のタイミングに合わせて右に半歩だけ動くのに集中した。


「・・・・・・?」


肩の肉も骨も貫かれながらも、気合で痛みをねじ伏せて左腕の力を振り絞って、聖剣を握る光瑠の右腕を力強く掴む。


「オラァァ!」

「ーーッ!?」


俺はスイッチブレードを逆刃に持ち変えて、光瑠の足に突き刺す。

光瑠は足に聖脚甲を纏っている。

しかし聖脚甲の魔術には強度はあるものの障壁魔術とは決定的な違いがあった。それは術式破壊が可能だということ。

俺は突きで術式破壊をしてそのまま光瑠の足に刃を突き刺した。


「・・・・・・でも、この程度じゃ僕は倒せないよ」


光瑠は苦痛で顔を歪めながらも笑みを浮かべてそう言う。

そんな光瑠に俺はニヤッと笑い口を開く。


「お前は強えよ。じゃ勝てない」

「ーーッ!?」


何かに気づいた様に光瑠は急に上空を見上げる。

光瑠が見上げる青い空には金色に輝く巨大な魔法陣が縦に3つ重なって展開されている。

光瑠は逃げようとするが俺の握力からは逃げられない。


「なるほど。最初から狙いはこれだったわけか」

「そう言う事だ。俺の仕事はお前を止める事だけだったんだよ」

「飛ぶ斬撃中心に戦ってたのは斬撃に対する魔力察知に集中させて空の術式に気づかせない為か」


光瑠は諦めた様に乾いた笑みを浮かべる。


「でもいいのかい?この距離では君も巻き添えになるかもよ?」

「そんなヘマはしねーよ」


そんな風に話していると上空の魔法陣が輝くを増す。それと同時に光瑠の足元に置かれた霊符が光り出す。

そしてーー


星雲天ノ柱ノヴァ・スターダスト


流星の如き光りを放つ魔力の柱が俺の眼前に落ち、光瑠は光りに包まれた。

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