第23話 修学旅行

「寒っ!流石に寒いな」

「12月だからね〜」

「慣れだよ慣れ。相真もその内慣れるさ」

「東京都民にこの寒さはキツすぎる・・・・・・」


今の日付は12月の上旬。辺りには真っ白な雪が降り積り、道路は凍っておりツルツル滑る。吐いた息は白く、肌に当たる空気は冷たい。

いくら12月でもここまでの寒さは以上だ。まぁそれも東京ならば話だが。


「ハハッ分かったか相真。これが北海道というものだ」

「精神力、訓練で上がった精神力でなんとか耐えられる筈」


俺達は今、北海道に来ている。

何故北海道に来ているかというと、今から約半月前ーー




***


「修学旅行?」

「そう修学旅行。12月に行くんですけど北海道、東北方面、神奈川、何処がいいですか?」


ホームルームで北条先生が急に修学旅行について話す。

俺を含めクラスのほとんどの生徒が唐突な問いに戸惑っている。しかしーー


「そりゃ北海道だろ。観光地一杯あって楽しいぞ」


圭一が1番に声を上げる。流石いつもクラスを引っ張っているだけの事はある。


「じゃあ俺も北海道で」

「私も〜」

「俺もッス」


圭一が意見を出すとクラスの大多数が賛成をする。俺も流れに身を任せて賛成しておく。


「北海道ですね、分かりました。日付などの具体的な内容に関しては決まり次第説明しますね」




***


とそんな感じで北海道に修学旅行に来る事になったのだが、正直冬の北海道を舐めていた。幸いな事に今は雪が降っていないか、それでも風は異常に冷たい。

俺が寒さに縮こまっているのに対して一緒にいる圭一も沙月も涼しい顔をしている。こっちは涼しいなんてもんじゃないってのに。


「くっそ!お前ら、寒いのに慣れてるからって」

「このくらい楽勝だぜ」

「私は流石にちょっと寒いよ」


圭一は北海道生まれ、沙月は東北育ちなので寒さには強い様でピンピンしている。

そもそも国立東京軍事高等学校うちの学校の生徒は東京、東北、北海道の人間をスカウトする関係上、寒さに強い生徒が多かったというのも、修学旅行の選択肢の中で1番寒かった北海道が選ばれた理由の1つなのだろう。


「自由行動って言われても私北海道来たことないから何処行けばいいのか分からないな〜」

「俺も初北海道だし案内してくれよ圭一」

「おっ、いいぜ。案内してやるよ」


2泊3日の修学旅行の初日である今日は自由行動である。

自由行動も問題さえ起こさず、明日の8時までに帰って来れば、何処で何をしても問題無い。ルールなども特に無いので本当に自由な時間である。

しかし特に下調べなどもしていない俺は何処に行けばいいのか分からなかったので1人でいた沙月を誘って、北海道に詳しいであろう圭一について行く事にした。




「これめっちゃ美味ぇな」

「うん凄く美味しい」


現在の時刻は午後の6時前。北海道に到着したのが10時で自由行動はその30分後から始まったので約7時間30分も遊んでいた。

今は夕食として海鮮丼を食べている。圭一が案内してくれた店なのだが滅茶苦茶美味い。

サーモンもいくらも蟹もどれも絶品だ。流石は海鮮で有名な北海道と言ったところか。


「いやぁ、1日中遊んだね〜」

「そうだな。寒かったけど楽しかった」

「訓練しんどいからなぁ。こういう心の底をら楽しめる日がないとな!」


今日は圭一の案内のもと札幌を満喫して来た。時計台やテレビ塔などの観光名所、美味しい食べ物屋や有名なお店などで買い物もした。

海鮮丼を食べ終わった俺達は明日はクラスで行動するらしく、学校が手配してくれた修学旅行とは思えない様な高いホテルへと向かった。




翌日ーー

昨晩泊まったホテルから貸切バスで移動して来た先はスキー場。雪で一面真っ白なこのスキー場はかなり大きな部類に含まれるらしい。

着替えなどを終えてスキーの準備が出来たのでいざ滑ろうとしたのだが、これが中々難しい。インストラクターの人に教えて貰った通り足をハの字にして滑っているのだが、気を抜くとバランスを崩して後ろにぶっ倒れてしまいそうだ。


「うお・・・・・・おぉ」

「おいおい相真。動きがぎこちねーな!いつもの運動神経はどうした?」

「うるせー!これ運動神経じゃどうにもならないだろ・・・・・・ってうお!?」


雪の中を爆走する圭一が茶々を入れてくるので文句を言っているとバランスが崩れて視界一杯に青い空が広がる。次の瞬間、背中、尻、後頭部に柔らかい雪に叩きつけられる。


「クソが・・・・・・。これならスノボの方がマシか?」


口の中に入った雪を吐き出しながら悪態をつく。

スケートボードならやった事があるのでスノーボードなら出来るかもと思ったが恐らくスキーとは別の難しさがあると思ったのでこのままスキーをする事にした。




「どうだ圭一!1人で乗りこなしてやったぞ!」

「普通はインストラクターから教わりながらマスターするんだが流石だな」


俺はスキーを始めて1時間くらいかけて我流でスキーをマスターした。

他のスキー初心者の生徒のほとんどがスクールに入ったりインストラクターの人から教わったりしているが、俺は圭一やインストラクターさんの動きを見て盗み、技術をものにした。

軍校の訓練では技や動きを見て盗む事が多いので、一から十まで教わるよりも、こっちの方が自分に合っている気がする。


「よっしゃ!俺のスピードについて来い相真!」


そう言って圭一は雪煙を出しながら爆速で滑って行く。


「ついて来いって、この速度は無理だろ・・・・・・」


俺は困惑しているが圭一はそんな事気にしていなかった(というより俺が止まっている事に気づいていなかった)


絶対に追いつけないであろう圭一を追いかけるか否かを考えているとある光景が目に映る。


「よう沙月!何してるんだ?」

「あ、相真君!・・・・・・いや〜その、私スキー諦めたんだよね・・・・・・」


俺は木陰で1人で雪遊びをしていた沙月に声を掛けると、沙月は苦笑しながらそう話す。


「鍛えてるし普通の人よりは運動出来る筈なんだけど、絶望的にセンスがなくて・・・・・・」

「ハハ、なるほどな・・・・・・」

「相真君はもうマスターしたんでしょ?凄いな〜」

「戦闘技術と比べたら大した事ないからな」


沙月は寂しそうに笑いながら雪だるまやら雪兎やらを作っている。手で作ったとは思えない綺麗な丸になっている。

沙月はかなり器用な方で、裁縫、料理、美術などの腕はかなり高い。


「本当に沙月は器用だな」

「大した事ないよ。あ、そうだ大きな雪だるま作りたいから手伝ってくれない?」

「別にいいけど、っと」


俺は背後から迫る何かの気配を察知して身体を屈める。

飛来したのは高速の白い球体。コース的に躱していなければ後頭部に命中していたと思われる。


「チッ!やっぱ当たらないか」

「流石って感じだな」


後ろから聞き覚えのあり過ぎる声が聞こえて振り向くと、スキーウェアに身を包んだ2人の幼馴染が立っており、その手には真っ白な雪玉が握られている。


「結梨、朱音、お前らかよ」

「そうよっ!」

「おっらぁ!」


結梨の投擲した雪玉は拳撃で迎撃する。速度はそこまででもないので殴って破壊すれば問題無い。

しかし朱音の方はそうともいかず、首の動きでなんとか躱す。

魔術だけでなく白兵戦も出来る朱音は身体能力もかなり高く、必然的に投擲する雪玉の速度も高くなる。その上スキー板が邪魔でろくに半身も使えないこの状況では躱すのも一苦労。朱音が顔を正確に狙ってくれて助かったな、腹なら躱しようがなかった。


「悪いな沙月。雪だるま作るのはアイツを雪まみれにしてからにさせてくれ」

「うん。頑張ってね〜」


俺は地面の雪を両手で掴み、握力に任せて圧縮する。そして雪玉とも呼べない様な不恰好な雪の塊を2人に目掛けて同時にぶん投げる。

しかしその雪の塊を掌に当てるだけでガードする。

魔術師の瞳なら目で捉える事は可能だろうが、普通なら掌に当たってあんな済まし顔は出来ないだろう。だが実際はノーダメージとなっている理由はすぐに分かった。


「てめーら、手袋の下に障壁張りやがったな!」

「あら、何の事かしら?」

「私らは普通に雪合戦を楽しんでるだけだぞ」


2人はそう言って憎たらしい笑みを浮かべる。


「ぜってー泣かす」

「3人共程々にねー」


しかし2対1で人数不利があり、サイレントに魔術を使うので結局泣かすどころかボコボコにされてしまった。

スキーウェアを傷付けない為に雪玉そのものには魔術をかけなかったお陰で負傷だけはしなかった。


こんな感じで2日目の日程は幕を閉じた。

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