第24話 白夜光瑠
今日は北海道に来てから3日目。つまり修学旅行最終日である。今日は初日と同じく自由行動だが、飛行機の時間が案外早いので観光というよりはお土産を買う時間って感じだ。
「明日からまた訓練かぁ。しんどいなー」
「そうね。それで何処か行きたい所とかないの?」
「俺はねーな。結梨は行きたいとこないの?」
「ないわね。白夜君なは?」
「まぁなくはないけど。僕が選んでいいのかい?」
「いいぞ。俺も結梨も案ないからな」
俺と結梨、そして光瑠は何処へ行くか話し合う。
何故このメンバーなのかというと、3日目の自由行動は3人1組、それも違うクラスの生徒と組まなければならないからだ。
なんでも戦場ではその日に会った人に命を預ける事もあるので、その訓練だとか。ようはコミュ力を上げろという事らしい。
他クラスにも友達と呼べる人がいる俺としてはあまり問題ではなかった。
まぁそんなこんなでこの3人で1組となった。
光瑠が選んだのは普通のお土産屋が沢山並んでいる通りだった。
特段変わった所の無い普通の通りなのだが、出発したホテルからも集合する空港からも結構離れている。この通りに行きたい店があるのだろうか。
「結構遠いから長居は出来ないわね」
「まぁ余程道が混んでない限りは間に合うだろうし大丈夫じゃね?」
「まぁ確かにそうね」
「それに道が混んでたら走ればいいしな」
「この距離走って間に合うのはアンタだけよ」
「悪いね。僕の事情に付き合わせてしまって」
「別にいいわよ。特に行きたい所も無かったしね」
「寧ろ暇が潰れて助かった」
「そうか」
そう言って笑みを浮かべる光瑠の表情は少し儚げに思えた。
そんなこんなで俺達は色々な土産屋でショッピングを堪能した。
「美味いな。流石は北海道」
「よくこんな寒い中でアイスなんて食べられるね」
「寒さはもう慣れた。それに寒い中食うアイスも美味いぞ」
俺はバニラ味ソフトクリームを食べながら歩く。
牛乳で有名な北海道のアイスは凄く美味しく、修学旅行中は毎日食べていた。
それと北海道のこの寒さにはとっくに慣れた。最初の頃は慣れない寒さは苦痛だったが、多少慣れれば後は気合でどうとでもなる。
「金余ったな。特に買いたい物もないしどうするか。この金って返さなくてもいいと思う?」
「いいんじゃない?特に何も言われてないし。てかよく余ったわね。うちのクラスには2日目でほとんど無くなったって人もいたわよ」
「使いどころがよく分からないんだよなぁ。お土産とかにもあんまり使ってないし」
「そういやアンタは一緒に出かけたらしてもあんまり金使わないわよね」
そんな風に談笑をする。
余談だが軍校側から自由に使えるお金として1人2万円貰っている。
(ホテルも結構高いそうな所だったし、こんな事に税金を使っていいのか?)
軍校のあらゆる費用には税金が使われている。勿論軍校の存在がバレない様にデータは偽造されているらしいが、それでもこんな遊びの行事に税金を使ってしまっていいのだろうか。
軍校は、訓練は普通の高校なら教育委員会に報告されるレベルで厳しいが、それ以外はかなり緩く、生徒に優しい。北条先生が言うには肉体的な疲労や傷は治癒魔術や治療でどうにでもなるが、肉体的苦痛による精神的なダメージは魔術や治療ではどうにか出来ないので、精神的苦痛はなるべく与えない様にしているらしい。
その為に今回の様に修学旅行に行ったり、自由に遊んだりする金として毎月3万円を支給したりするんだとか。
「まぁ金貰っても使う機会はあんま無いけどなぁ」
「確かに出掛けられる時間とかはあんまり無いよね」
「だからこそ今日みたいな遊べる日に遊んどかないとーー」
結梨と光瑠と談笑しているその時だった。
耳に響く爆発音が複数の方向から聞こえて来た。視線を移すと青い空に立ち登る黒煙と赤々とした炎が目に写る。そして一瞬遅れて燃え盛る炎の匂いや無数の悲鳴も聞こえ来る。
「おいおい何だ?事故って訳じゃなさそうだな」
「どう見てもテロね。どうする?」
「先生に連絡がさきじゃねッ!」
俺がスマホをポケットから取り出そうとした瞬間、突如として全身黒で手にはコンバットナイフを持った正体不明の人間2人が現れて1人は俺に、もう1人は光瑠にコンバットナイフでの刺突を放つ。
俺はコンバットナイフが当たる直前にを半身で躱す。お返しのボディーブローを放つが後ろに飛んで躱される。
「おいおい何だコイツら?」
光瑠の方をチラッと見ると彼の手には光剣が握られており、正体不明の敵が後方に下がっている。どうやら攻撃を凌げた様だ。
俺はジャンパーの内ポケットからスイッチブレード取り出して展開し、半身で構える。
俺と光瑠同様に結梨も戦闘態勢に入る。
正体不明の2人は真っ黒な防弾チョッキとヘルメットで武装しており、顔も黒い布て覆っており目以外は見えない状態だ。
「どうするの?」
「襲って来るなら正当防衛するしかないだろ」
「僕と相真で前衛を担当するよ」
「なら私が後ろから狙うわね。引きつけてくれれば一撃食らわせるわ」
「了解!」
《
作戦会議を数秒で終了させ、能力を発動させた俺は光瑠と同時に地面を蹴り相手との距離を詰める。
俺の斬撃を相手はコンバットナイフで受ける。それから始まる斬撃の応酬。刃と刃がぶつかり合う度に火花が散る。
『斬撃が重いな。こっち側の人間って事か』
『
『コイツの仲間が来るのが最悪の展開だから速攻で決める為に使ってもいいけど、今は俺1人じゃないから大丈夫だ』
コンバットナイフでの横一閃をスイッチブレード弾く、大振りの攻撃を防がれた事で相手に一瞬の隙が生まれる。俺はその隙を逃さず攻撃、ではなく後ろに下がる。
近接戦では押され気味だったので、一度仕切り直す為に後ろへ下がる、と相手は思うだろう。
攻撃ではなく後退という悪手をこっち側の人間である相手が逃す筈がない。
俺の思惑通り相手は追撃せんと距離を詰めて来る。
「ハァ!」
俺は後方に下がりながら地を駆ける相手の膝あたり狙って斬撃を飛ばす。
速度は遅いが横に長く広がる斬撃を飛ばす事で回避方法を空中に逃げるだけに限定させる。
「結梨ッ!」
「叫ばなくても分かってるわよ!《
俺の狙い通り空中へ逃げた相手へ向けて、金色の魔法陣から放たれる星の様に輝く高速の槍が飛来する。
相手は結梨の魔術を身体を捻る事で何とか回避する。
空中にいながらアレを回避するとは相当の体捌きだ。
「だけどそれが限界だろ?」
身体を捻る事で魔術を回避した相手に俺は接近して斬撃を放つ。相手は空中での体捌きだけの無茶な回避動作のせいで、これ以上の回避行動は取れない。
狙いは関節のある膝。関節は正面は守れても横や後ろに盾を入れて武装する事は不可能。俺はそれを見越して膝の関節へと横から斬撃を放つ。
「うおっ!?」
相手は片脚になりながらも突きを放って来る。俺は一瞬驚いたが痛みのせいかさっきまでのキレはない。
俺は冷静に突きを躱して、瞬時に相手の後ろへ回り込み首を締め上げて相手を気絶させる。
「大丈夫なのこれ?失血死するんじゃない?」
「こうやって縛って血を止めれば大丈夫だろ」
俺は自分が着ていたジャンパーの片方の袖を切ってロープの様に細長い布にして脚を縛ってやる。
「終わった様だね相真」
「おう!そっちも終わったか」
「これからどうするかね」
俺がそう言いながら立ち上がる。そして取り敢えず先生達に連絡しようとポケットからスマホを取り出そうとしたその瞬間ーー
背後から俺の首へと"光剣"が迫る。俺は腕を後ろに回してスイッチブレードで光剣による斬撃を防ぐ。
「何だよ光瑠。俺、お前を怒らせる様な事したか?」
「・・・・・・」
俺の言葉にその光剣の持ち主である白夜光瑠は微笑を浮かべた。
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