第21話 茅野風夏
「相真君も頑張ってるみたいだし、僕もプロとして仕事しないとな」
目の前には短機関銃であるMP5と防弾チョッキで武装した約30人ほどの男達。
(こいつら全員ダークウェブで懸賞金掛けた奴に雇われたのか?いや、それなら最初から裏サイトなんて使わないか。多分別の組織が動いてるな)
僕はポキポキと手首の関節を鳴らしながら連中と対峙する。
「
僕の背後に天井まで届く程度の大きさをした漆黒の壁が出現する。
連中は闇色の壁が一瞬で現れた事に驚きの声を漏らす。この程度で驚いているあたり大した事はないだろう。
「とっとと終わらせますかっ」
僕は予備動作無しで数メートルの距離を一瞬で詰める。古武術の縮地という技術を用いて地面を滑る様にして連中との目の前まで移動する。
僕の接近に反応できていない1番手前にいる男2人を瞬く間に気絶させる。1人は頬を特殊警棒を叩き、1人はハイキックを顔面に叩き込むことで意識を失いその場で倒れ込む。
この程度の実力ならわざわざ急所を狙う必要もないだろう。
「てめぇ!」
僕が2人を気絶させた事にいち早く反応した男3人がMP 5の銃口を僕に向けるが、一切躊躇せずに3人の中で真ん中の男の眼前まで距離を詰め、特殊警棒を両手首に目掛けて上から振り下ろす。
「くうっ」
男は痛みで苦痛の声を漏らしながらMP5を手離す。僕は落ちるMP5を空中でキャッチして左側の男へ銃口を向けて3発の発砲。初弾は男のMP5を破壊、2、3発目は男の両肩を貫き、辺りの床は血で染まる。
右側の男には特殊警棒を投擲する。高速で投げた特殊警棒は真っ直ぐ飛んで行き男の首へと命中する。男はその場でばったりと倒れる。
「このっ!」
目の前の男は意識も戦意もまだ残っている様で、僕に向けて至近距離での膝蹴りを放つ。僕はそれを右手の掌で防ぐ。そして脚を男の後ろまでまわして、脚をかける様にして崩す。背中から倒れる男の顔面を脚で踏みつけて気絶させる。
「はぁ!」
1人の男がMP5を近接武器として使って白兵戦を仕掛けてくる。この距離では味方を撃ちかねない状況だと分かっている冷静な判断だ。
しかし白兵戦は僕にとっては得意分野だ。
僕はMP5振り下ろす男の手首に右腕をぶつける事で攻撃を妨害する。そしてMP5を両脚の太腿目掛けて発砲。両脚を撃たれた事で立てなくなり、膝をつく男の脳天を上から膝で殴り気絶させる。
「うおっ」
高速でこちらに銀色の刃が迫る。連中の1人が今度はMP5ではなくサバイバルナイフを使っての攻撃を仕掛けてくる。サバイバルナイフでの刺突を僕は半身を翻して躱す。至近距離で振るわれるサバイバルナイフを銃の餌食にならない様に移動しながら躱す。
(ここだな)
何度か避けると男は垂直にサバイバルナイフを振り下ろす。僕は振るわれたその刃に銃口を当てる事で防御をする。そしてーー
ーーダン
1発の銃弾を発砲。銃弾をゼロ距離で受けたサバイバルナイフの刃は甲高い音を上げて破壊される。
僕は横からMP5で首を殴り男の意識を奪う。
「ふう。これで7人か。・・・・・・チッ、面倒だな
銃口に刃の跡が付いたMP5を捨てて、さっき気絶させた男が持っていたサバイバルナイフを拾おうと身体を屈めていると、2人の男がサバイバルナイフを構えて突っ込んでくる。
白兵戦で潰すのも面倒に思えた僕は能力を使い自分の影から生えた2本の漆黒の槍で2人の男を突き刺す。
真っ直ぐな長槍に串刺しされた光景を見て、全員が数歩後退りする。
「はぁ、とっとと終わらせたいから早くかかって来いよ」
「やっと着いたのね。地下に来るだけなのに凄く疲れたわ」
「走ったのも戦ったのも俺なのに何でお前が疲れるんだよ」
俺は刺客数名を倒して漸く仁也さんとの集合場所である地下駐車場に着いた。周りには沢山の車が停められているがどれも高級車ばかりだ。まぁ金持ちが沢山集まってパーティーしていたんだし当然か。
(それにしても流石にちょっと寒いな)
今はもうすっかり夜。10月の夜に上半身裸でいるとかなりの寒さだな。能力と魔力で精神力を強化していなかったら、恐らく寒さで動けなかっただろう。
「大丈夫なの?血が出てるけど」
「このくらい大した事ねーよ。ただの擦り傷だ」
「ふぅん。さっきも思ったけど強いのね相真って」
「まぁ、鍛えてるからな」
「鍛えてる、確かに筋肉凄いわね」
「そうか?俺、学校だと結構ペラい方だけど」
「どんな学校よ・・・・・・」
駐車場に着いたので自分で歩いている風夏が若干引いてる。まぁうちの学校は一般常識からかけ離れまくってるからな。
『相真君!』
「ッ!」
沙月の念話と殺気に反応した俺は風夏をこちら側に抱き寄せた瞬間に大きく横に跳ぶ。
俺がその場所を離れた次の瞬間、赤々と燃える炎の波がコンクリートの地面の上を広がっていく。
「おいおい、風夏ごと殺すきかよ」
「その炎は見た目ほどの熱量はない安心していいよ」
炎の奥から歩いてくるのは1人の男。長身で細身、黒髪で黒縁の眼鏡を掛けている。どうやらさっきの炎はこの男の仕業らしい。
(十中八九魔術師だろうな)
俺がそう考える理由は男が燃え盛る炎の中からゆっくり歩いて来たというのに、奴にも奴の衣服にも炎が燃え移る様子がない、それどころか炎の方が奴から避けているからだ。
「君、随分と若いね軍校生ってとこかな?」
「軍校の事知ってるのか?」
「噂程度にはね。実情については全く知らないよ」
俺は男との会話に付き合いながら風夏を出来るだけ遠くに逃す。魔術師が相手では生半可な距離では巻き込みかねない。
「《
「ッ!」
男の鍵言と共に男の目の前に現れた赤い魔法陣から燃えるの魔弾が放たれる。
俺は姿勢を低くしてそれを躱す。
大きさは野球ボールほど、魔弾が当たった壁を見る感じ威力も大した事はなさそうだが、速度がかなり速い。
《
《
頭の中でそう念じて魂の継承率を上げる。すると身体が軽くなり、集中力、精神力も増加する。
縮めておいたスイッチブレードを再び展開し、半身で構える。
(相手は魔術師だ。こっちから攻めたくはないな)
魔術というのは多種多様。戦闘スタイルは魔術師の数だけ存在する。
奴がどんな魔術を使うか分からないうちに攻めるのはリスクが高い。
「《
赤く輝く鳥の様な形をした炎がこちら目掛けて飛翔する。
俺は横に大きく飛んで回避するがーー
「ッ!?」
回避された火炎の鳥は壁にぶつからず、Uターンして後ろから俺へと迫る。
身体を屈める事で背後からの攻撃もどうにか躱すが、火炎の鳥は再度空中で軌道を変えてこちらに飛んでくる。
屈んでいる今の体勢からでは回避するのは不可能。
「だったら、こうするしかないよなっ!」
飛来する炎を纏った鳥が俺の間合いに入った瞬間、スイッチブレードを左上から斜め下に振り下ろす。
一刀両断された火炎の鳥は赤い粒子となって消える。
実戦では初の術式破壊。完璧に術式破壊が出来る訳ではないので一か八かだったが、なんとか成功させられた。
「へぇ、術式破壊か。凄いね学生なのに」
「そら、どうも」
「ならこれはどうだ?《
驚いた様な表情を浮かべてそう言う男の目の前にはさっきの魔法陣よりも数段大きな紅色の魔法陣が現れる。
その魔法陣からは最初に俺達を襲った炎の波が出現して俺へと迫る。
炎の波が俺に向かって来ると同時に普通の炎が四方八方に広がっていき、辺りは火の海になる。
ガラスの自動ドアの向こう側にいるの風夏はコンクリートの床を伝う炎で火傷する危険は無いだろうが、俺は行動が制限されるので少し面倒だな。
だがそれ以上に面倒なのはーー
「クッソ!」
高さ2メートルくらいの炎の波。魔力量、魔術の規模が大き過ぎて術式破壊は俺には不可能。避けるしかないが辺りは火の海でここから動くという事はあの炎の中に突っ込んで行く事を意味する。
(チッ!行くしかねえか!)
俺は火傷覚悟で燃え盛る炎の海の方に跳び、火炎の波を回避する。炎の中に入った瞬間に俺はその場でスイッチブレードを突き出して身体を360度回転させる事でゲームとかでよくある回転斬りをする事で炎はある程度は俺の周りから消える。
それでも炎が完全に消えた訳ではない。幸いなのは炎の温度がそこまで高くない事と、炎の高さが膝くらいまでしかないので、服を着ていない上半身が火傷する確率が低い事だ。
「熱ちいな!」
俺はズボンに付いた炎を払いながら、周りを観察する。
辺り一面に燃え広がる炎は膝までくらいの高さなので全力疾走して強引に男との距離を縮める事は可能だ。
しかし男の周りには高さ1.5メートルくらいの炎が360度全方向を守る壁となっている。
『なぁルナ。あの炎の壁ってどんくらいの魔力だ?』
『さっきの炎の鳥以上ですね。恐らく入ったら全身火傷ですよ』
『なるほど。そりゃあしんどいな』
アイツに攻撃する為には間合いをスイッチブレードの間合いまで距離を詰める必要がある。しかしその距離まで近づけば炎の壁に身体を焼かれる。
それを避けるには距離を詰めずに攻撃するしかない。
「はぁぁ!」
スイッチブレードを中段から横方向に水平に振るう。その刃には魔力を纏わせて、スイッチブレードを振るうと同時にその魔力を刃から離し、空気の刃となって男目掛けて飛んでいく。
斬撃を飛ばす、通常は刃の長さまでしかない筈の間合いを最低でも刃の11.5倍の長さまで引き伸ばす技である。
最低でも11.5倍というのは、振るった剣速、纏わせた魔力量、斬撃の鋭さによって射程が上昇するからだ。
「ッ!?」
男さ炎の壁を物ともせず飛来する斬撃に驚愕の表情を浮かべる。白兵であり、飛び道具を持っていなかった俺にこの距離で攻撃されるのは予想外だったらしい。
飛ぶ斬撃は男の身体の中心からは少し外れている脇腹を斬り裂いた。
(これだけ魔力が充満している上手く当たらないな)
飛ばしている斬撃は魔力の塊だ。しかし斬撃を飛ばすという技術は魔術の様に術式や詠唱などの複雑な行為をしない一種の魔力操作だ。故にこれだけ辺りに魔力が充満していると魔力がブレてしまい、今の俺では狙いが定まらない。
(それなら数でゴリ押す!)
「チッ!《
男は炎の壁を一段と高くする事で自分の姿を隠す。だが氣を読めばなんとなく場所が分かるので、威力を捨てた弱い斬撃を連続で飛ばす。
「くぅぅ!」
無数の斬撃は炎の壁を貫き男の身体を斬り裂く。斬撃1発は当たっても数センチ程度の傷にしかならないが、それが何十発も放たれれば話は別だろう。
炎の向こうから男の苦痛の声が聞こえてくる。
「舐めるなぁ!《
レーザーの様に横一直線に放たれる焔が俺へと向かってくる。
速度、熱量共にかなりのものである焔の砲撃は回避、術式破壊共に難しい。魔術として無効にする事が出来ないのならば物理的に止めるしかない。
「おっらぁ!」
スイッチブレードを上段から垂直に振り下ろす。重力に沿って振るわれる斬撃によって生じた風圧を焔の砲撃にぶつける事でどうにか直撃だけは防ぐ。
「ッあ!」
焔の砲撃は防いだが火の粉が飛び散り身体に当たる。小さな火の粉でありながら肌を燃やし、肉を焼くほどの温度を有しており、熱と激痛が身体中に走る。
「なん、とか。うぐっ」
どうにか焔の砲撃を防ぎきったのは良いが消耗はかなり激しい。体力的には問題無いのだが、無数の火傷のせいで肉体が悲鳴をあげている。
特に右腕。右腕は火の粉による火傷ではなく、焔の砲撃に1番近かったせいでその熱波によって指から肘まで火傷してしまっている。動かす度に激痛が走り、これまでの様には動かせるのは後数回だろう。
「これで終わりにしよう」
周り広がっていた炎はもうかなり弱まっており、男を囲んでいた炎の壁も消える。炎の壁に代わって現れたのは一段と大きな赤い魔法陣。
さっきの焔の砲撃をもう一度放つつもりだと直感的に理解する。
(避けるか?いや・・・・・・)
くると分かっていれば初見でない魔術を回避する事そう難しくはない。
しかしここで避けたとして戦況は良くなるだろうか。時間が掛れば掛かるほどダメージを負っている俺は不利になる。しかし相手にはまだまだ余裕がある様に見える。
(それなら避けるより、打ち破る方がいいな!)
「消し炭となれ!《
さっきの焔の砲撃以上の熱量と速度を持った一撃が俺焼き尽くさんと迫る。俺はスイッチブレードを中段で持ち刃を水平にして構えーー
「・・・・・・」
さっきまで極普通の地下駐車場だった場所が突如として火の海となった。魔術の存在を知らない茅野風夏にとって何が起こっているかのか理解出来ていない。ただガラス越しに見える光景から自分を守ってくれている少年、黒木相真が命を懸けた戦いをしており、彼が漏らす苦痛の声から彼が傷ついている事だけが分かる。
彼女は焔が舞い、刃が輝き、血が飛び散るその戦場を息を呑んで見守っている。
「おっ、良い勝負してるね」
(えっ!?この人いつ隣に?)
突如として隣から聞こえてきたその声に風夏は驚愕の表情を浮かべる。プロの軍人ですら欺く赤城和佐に気配を消して近寄られては一般人である彼女が気付くのは不可能だ。
「あ、あの相真を助けないんですか?」
隣に立っているのが和佐だと気が付いた風夏は戸惑いながらも和佐にそう話し掛ける。
「負けそうになったら助けますよ。でも強くなるには壁を越える必要がある。彼は今、壁の1つを越えようとしている。そこに手を出すのは彼の成長を止めてしまいます」
和佐はそう言って1度話を区切り、ニヤッと笑いーー
「それにこの戦い相真君が勝つよ」
スイッチブレードを中段で構え、痛みも雑念も頭の中から捨て去り集中する。
迫る焔は肉を燃やし骨を溶かす圧倒的な火力。押し負ければ死は免れない。
だが俺は死の恐怖も腕を動かす度に走る火傷による激痛もねじ伏せてスイッチブレードを振るう。
ーー白鷺流剣術
中段に構えたスイッチブレードを横方向へ寸分のブレもなく水平に振るう。空を斬った横一閃は数十メートル先の獲物まで捉える風の刃となり天を翔る鷲の如く飛翔する。
横一閃を極限まで誤差なく水平に振るう事で最高速の剣速で得物を振るう事で通常なら飛ばせない量の魔力を斬撃に乗せて飛ばす事が出来る。故に大量の魔力を持った斬撃は白色となる。
「うおおお!」
「おっらぁ!」
互いの気合の篭った声が重なると共に、焔の砲撃と白き斬撃がぶつかり合う。
あらゆる物を焼き尽くさんとする焔と間合いの物全てを斬り裂く白色の刃、拮抗は一瞬。超火力の焔を白刃の風が斬り裂いた。
一刀両断された焔の砲撃は形を保てなくなり、周囲にエネルギーを四散させて消滅する。
そして白色の斬撃は焔の砲撃との拮抗を破った刹那、男の身体を斬り裂いた。
「うっ、なんとかなったな・・・・・・」
焔の砲撃だった魔術が爆発した事で生じた爆風をまだ無事な左腕で防ぎながら呟く。
「やあ、相真君。ナイスファイトだったね」
「和佐さん。見てたんですか?」
「結構前からからね」
「それなら助けて下さいよ」
「君がやばくなったら助けるつもりだったよ。でも君が勝ちそうだったから」
「そうですか・・・・・・」
背後から話し掛けてくる和佐さんには相変わらず気配が無い。氣を読む気力も残っていない現状ではこれ後ろに立たれても気が付かなかった。
「終わったのね。相真」
「まぁな。無事・・・・・・ではないけどお前の事は守りぬいたぞ」
「ええ、ありがとう」
風夏はニコッと笑いながらお礼の言葉を口にする。
「礼なら任務が終わってからにしてくれ」
今は護衛任務の最中であり、気を抜くのはまだ早い。そう思っていたのだが、和佐さんが一言。
「いや、もう任務は終了だよ」
「えっ?そうなんですか?」
「ああ、時間的にはまだだけどあれだけ派手な襲撃があったからね、もうすぐ
「なるほど」
「それに君もその怪我ではろくに動けないだろ?」
「はい。正直今すぐに治療して欲しいですね」
俺の右腕を指差しながら話す和佐さんに俺は苦笑しながら首を縦に振る。
能力を解除しており魔力操作もしていないので今は何もしないでも右腕に激痛が走っている。
「
「了解です。悪いな風夏、最後まで護衛出来なくて」
「もう十分過ぎるわよ。もし次同じ様な機会があれば相真にお願いするわ」
「そんな機会無い方がいいだろ」
「そんな事ないわよ。ふふ、じゃあまたね相真」
「おう風夏。あばよ」
互いに笑いながら別れの言葉を口にして背を向ける。
普通の世界に生きていない少年と少女は、楽しいとは対極の短いひと時を過ごして互いの居場所へと戻っていった。
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