なんとなく忠誠を誓おう・3

 俺達の視界に入ったのは、勝手に開いていく城の扉。

 そして、そこから飛び出してくる青紫の光!

 ソフィラテと姿かたちは同じ、サイズはだいぶ小さめのウィスプバードが、わらわら出てくる!


「うわあぁ、やっぱり付き添いで終わらないじゃないですかあぁ!」 悲鳴を上げて後ずさるニコ。

「怯んでる場合じゃないわ、応戦よ! 戦わなきゃ、まともに話も出来なさそうだし!」

「そうだな、それにこっちには魔っちゃんがいるんだから……」

「おい、魔っちゃんが凹んでいる」


 俺達が武器を構えて戦闘態勢に入る中、カルストが冷静に言うので振り返ってみれば、


「ぐすっ……ソフィーに嫌われてしもうた……ぐすん、ひどいよう……!」


 地面にうずくまった魔王が、悲痛な声を上げつつ、しくしく泣いていた。


「魔っちゃあぁぁん泣くのは後にして俺達を助けろよおおぉぉ!!」


 どんだけメンタル弱いんだ! 傷つくの早すぎるだろ! しかも相手はかつての腹心!


 ウィスプバード達は宙を滑空して、俺達に体当たりを食らわせてくる。中には紫炎を吐く奴までいる。

 ウィスプのたぐいはあまり直接攻撃が効かない。魔法や、聖職者の聖なる力が良く効く。


「ニコ、怖がってる場合じゃねえ、祈れ祈れ!」

「は、はいぃっ!!」


 と言う訳で、聖職者であるニコが、女神の祈りによってウィスプバードを押し返す。俺達はその援護に回る。

 にしても、数が多すぎて対応しきれない。それにこのウィスプバード達、なんだか連携が取れていて、とても戦いづらい。

 考えられるのはやはり、ソフィラテがウィスプバード達のリーダーとして、統率しているという事か。

 もしかするとこいつらが噂の反逆軍(候補)かもしれない。そりゃ同族を率いれば立派な部隊になるってもんだ。


「ねえレイン、どうもあのソフィラテって奴がリーダーじゃないかしら」

「俺もそれ考えてたところだ! サラ、何とか魔っちゃん励ましてくれないか? 俺達は一度、ソフィラテを叩いてみる」

「OK、任せなさい!」


 サラは言うや否や魔王へ駆け寄り、言葉をかけてアツく励まして立ち直らせようとする。こういう役回りはサラしか出来ない。

 そして俺はボスのソフィラテを叩こうと、作戦をニコとカルストに小声で伝えた時。


 ソフィラテは光の余韻を残しながら飛んで、扉から城の中へと入って行ってしまった。自分が狙われている事に気づいたらしい。

 ウィスプバード達は、なおも俺達に挑んでくる。容赦なく紫の炎を浴びせかけてくるので、わりと本気で命狙ってきてる!


「どうする、追うか!?」

「待っていても出てくるはずがない、行こう」


 カルストの意見を採用、俺とカルスト、ニコで古城の中に駆け込んだ。

 城内は真っ暗だ。その代わり、飛んでいくソフィラテの光がよく見えてわかりやすい。一応、魔法の灯りをいくつか灯しておく。

 階段を上がると、ソフィラテが小部屋の一つに入って行くのが見えた。尾が長いからどこ飛んでるかすぐわかる。


「あの部屋!」


 俺達三人も部屋に飛び込んだ。刹那、激しい音と共に後ろのドアが閉じてしまった。

 謁見室のように広い部屋。俺達の前に浮かぶ、青紫色の光の鳥。

 そして俺はふと気づいて、呟く。


「あれ、これって罠じゃね?」

「奇遇だな、おれもそう思った」

「二人とも考えて行動してくださいよ!?」


 ニコ、ついてきたお前も考えて行動しろ、とはツッコむ暇が無く。


 逃げ込んだソフィラテが、翼を大きく羽ばたかせる。

 すると紫の炎が床に現れ、みるみるうちに部屋の床を覆い尽くしていく!


「やばい―――!」


 俺は即座に防御の魔法を展開。

 俺達三人を囲む不可視の壁が炎を阻む。何とか間に合った!


 辺りは一面、紫の火の海。

 その上を舞う不気味な火の鳥といい、窓から見える黒々とした空といい、情景的には物凄く冒険っぽい。


 なんていうのんきな事を言ってる場合では全く無くて、これって非常にまずい状態!


「魔を払い給え、女神の怒り!」


 ニコの祈りによって、周囲に現れる純白の光の矢。狙うはソフィラテ一匹。大量の矢が一度にソフィラテめがけて宙を裂く!

 だが、ソフィラテは広い室内を飛んで、難なくすべてをかわしてしまった。

 か、完全にやられた……。俺は思わずため息をついた。

 わざわざ広い部屋に誘い込んだのは、相手の足を止めつつ自らは逃げやすいようにって事だったんだな……!


「さすが魔王の部下。そこらの魔物とは考えが違う」


 カルストも俺と同じ事考えてたらしく、神妙な顔でそう言う。


「まずいな、魔法も長くはもたないし……ニコ、何とかならねえか?」


 こういう時、ニコは良いアイデアを出してくれたりするんだが。恐怖に打ち勝って良い案出してくれるだろうか?


「え、ええっと……。いちかばちかですが! お二人とも、協力していただけますか!?」


 ニコが、表情を引き締めてそう言う。

 カルストは一つ頷くと、懐から取り出した何かを床に叩きつける。

 足元から噴き出した闇――煙のような闇が俺達をあっという間に取り囲んだ。

 煙幕ならぬ『闇幕』。暗殺者の好んで使う道具だ! 夜という時間もあいまって俺達の姿は全く見えないはず!


「悪あがきを……!」 ソフィラテの声は驚愕と緊張を帯びている。


 ひゅごうっ、と熱風がすぐさま闇を追い払ってしまい、再び俺達の姿は見えるように――。

 その時、小さな爆発音と共に、一つのきらめきが散っていく闇を潜り抜けて飛んでいった!


「!?」 


 かわそうしたソフィラテの左翼に命中したのは、一本のナイフ。聖なる輝きをまとってきらめいている。

 そのまま壁に突き刺さって、ソフィラテの身体を縫いつけた! 


「よっしゃ!」 俺は思わずガッツポーズ。


 あのナイフはカルストのものだ。暗闇に紛れている間に、ニコの祈りで女神の力を与え、ウィスプバードにも効くようにしたのだ。

 それを俺が魔法によって高速で撃ち出した、って事だ。爆発の魔法をアレンジしたらこんな芸当もできる。


 ナイフで縫い付けられたソフィラテは逃げられない。というか、逃げるのにいくらか時間がかかる。

 その隙を逃す俺達じゃない。

 ニコが詠唱を終え、聖なる力で制裁を加える!


「行きますよ―――! 滅し給え、女神の炎!」


「だめじゃ! ソフィラテっ!!」


 ニコの祈りで生まれた光の球は、ソフィラテを仕留めなかった。

 どこからか突撃してきた巨大な雷の塊に飲み込まれて消滅してしまったのである。

 雷の塊は威力が強すぎて、部屋の奥の壁をぶち抜き、さらに向こうの部屋の壁まで破壊したらしい。とんでもない衝撃音が響き渡った。

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