第7話 議論の末

「続編出すのはいいですけど、今度は誰ルート作るんですか?黒薔薇ってサブキャラそんなに居ないし、新キャラ出すにしても1の方が良かったって言われる可能性大です」


「2からはマンネリ化しちゃうもんね。それに、いばら先輩の絵柄でオフィスラブもなぁんか違うし〜」


「そこは意外性を追求したってことで!」


「しょーこ、ありしゃあと同じこと言ってるよぉ?私の絵柄重視するならぁ、やっぱ黒薔薇しかないよぉ。続編じゃなくてもダークファンタジーは必須。これ絶対だからねお姉さんとの約束」


いよいよ面倒なことになってきたな。熱が入ったのか、茨先輩の口調もハキハキとしたものになってきてる気が……。


「もう!これじゃ埒明かないわ。ここは公平にジャンケンで……」


「ち、ちょっとストップ!」


皆がヤケになり始めて来たので、一旦ブレーキをかける。新入部員の俺が出しゃばるのもどうかと思うが、このまま不毛な論争が続くのも見てられない。


「俺なんかが出しゃばっちゃって申し訳ないけど、一旦御三方は落ち着いていただいて。まず狼尾さんと白雪にも意見を聞いてみたらどうかな〜、なんて……」


「確かに、私達だけで言い争ってても仕方ないものね。ごめんなさい、少し熱が入りすぎたわ」


「すんませんっ!アリシア、黙りやす!」


「むぅ……」


「えっと、じゃあまず狼尾さんから。何かやりたいことはある?」


狼尾さんは俺とちっとも目を合わせず、フードを深く被った。男嫌い、というのは本当みたいだ。誰しも苦手なものはあるからしょうがないけど、正直ちょっと傷つきます。


「……狼尾、は。なんでも……」


「え、あ……ごめんもう一回」


「な、なんでも!良いです……大体、狼尾は乙ゲー守備範囲外だし……」


何やら独り言をボヤいているようだが、それは一旦置いといて。


(参ったな。この場合、なんでもいいが一番困るっ!とりあえず気を取り直して……)


「白雪は、なんかあるか?」


「私も特には……って、それが一番困るよね。う〜ん強いて言うなら……」


「お、スノホワちゃん。何かある感じですかいっ」


「えっと、完全にシナリオとしての願望になってしまうのですが!」


「シナリオあってのゲームでしょ?むしろ、書き手から直接意見を聞けるのは、ありがたいし」


「じ、じゃあ遠慮なく。私、一回ミステリーものを書いてみたくて。実はストーリーの構成はざっくりと考えてあるの。主人公が探偵の助手『ワトソン』として数々の事件を解決していく、みたいな。ほんとにざっくりだけど。ホームズに出てくる登場人物をモデルとしたキャラクター達を攻略対象に……って、あ。ごめん、熱弁しすぎちゃった」


白雪の圧倒的な熱量に、一同は黙り込んだ。乙ゲーを語る時のあいつの目は、いつになく輝いている。


「……良くね?」


「良いわね」


「良いんじゃなぁい?」


「良いと、思います……」


「よし、採用!」


「いや決めるの早っ!」


「一度意見が纏まっちゃえば、あとはスムーズなのよね、うち」


照れくさそうに笑う灰花、可愛いっ!コイツ、男心を完全に掴んできやがるっ!末恐ろしいぜ、全く。


「そうと決まれば、次はキャラクターね。まず主人公だけど……どうしましょうか」


おっと、ここでまた行き詰まりそうな予感。せっかく纏まったのに、振り出しに戻るのはごめんだ。


「はいはーい!オレちゃん名案思いついちったんだけど!」


「なになに?」


「キティに女装させようぜ!」


アリシアの発言に、その場が凍りつく。……え?何言ってるのこの子。


「ど、どうして俺にそんな……」


「え、だってオレらのインスピレーション掻き立てるために、キティは仮入したんでしょ?キティが女装すれば、自ずと主人公のイメージも湧いてくるさ!」


「全く意味わかんないんだが!大体、ここの部活俺以外皆女子なんだから、お前らがコスプレすりゃいいじゃん」


「「「それはちょっと……」」」


今、全員の声がひとつになった。要するに面倒事押し付けられたってことか。コイツら、俺の事弄んでるだけだろ?!


「こんな野郎の女装に需要なんかあるのか?第一、女装するにしても道具とか……」


「あるけどぉ?」


そう言うと茨先輩はどこからともなくフリフリのロリータ服やメイクポーチを取り出す。怖い、先輩のドヤ顔が怖い。


「いや、あの。俺そういうつもりじゃ……」


「まあまあ、良いでは無いか〜」


「久しぶりにぃ、腕がなっちゃう」


「私も、北王子君似合うと思うんだよね。こういうの♪」


3人に扉の前まで追い詰められる。こっそり扉を開けて逃げようとするも、開かない。


「あれっ、なんで?!」


「鍵かけてあるからぁ。戸締り大事でしょぉ?」


「し、白雪!助けれくれ!」


「れ、廉人君が女の子にっ……見たい。見たすぎるよぉ。例え廉人君が女の子になっても、私は……」


ダメだ、白雪に声が届いてない。何やら一人でぼやいている。終わった、完全に終わった。


「総員、北王子廉人を確保せよー!」


灰花さんの掛け声と同時に、アリシアが俺を羽交い締め、茨先輩が前から押さえつける。背中と胸部に柔らかな感触が当たり、つい抵抗する気力が削がれてしまう。


(くっ、こんな誘惑に負けるわけにはっ!)


「さあ、北王子君」


「な、なんでしょう……」


「入部したからには、付き合ってくれるわよね?」


「や、やめろ。待って、話せば分かr―――あん♡」


北王子廉人、男辞めます♪

※辞めません。













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乙女心と恋のすゝめ 無地 @marimoreizou4649

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