第6話 日常茶飯事……?

「まずい。非常にまずいわ」


今日の灰花は、何やら鬼気迫った表情をしている。


「何がまずいのん?お弁当美味しくなかったとか?」


「違う!そういうボケはいらない!」


「じゃあどうしたって言うんだよ。悩みでもあんのか?」


灰花は大きく息を吸い込むと、意を決したように言葉を放つ。


「私達乙ゲー部は、今年も夏コミ参加するわけだけど。プロットはおろか、内容も構成も何一つ考えてない!これ以上の由々しき事態ある?!」


かなりパニックを起こしているご様子。そんな灰花の様子とは裏腹に、部員はスマホをいじったりゲームをしたり寝たりしている。やはり話を聞いているのは俺と白雪だけ。本当に、自由というかなんというか……。


「とりあえず、何かやりたいコンセプトとか、案がある人はいる?……ねぇちょっと話聞いて無視しないでよっ!」


最近になって、灰花はかなりポンコツなんじゃないかという疑惑が、俺の中である。それはそれで可愛らしいと思うが……って、そんな話はいいんだよ。


「皆、一旦スマホとかゲームとかやめてようぜ。灰花困ってるし」


「北王子君、ナイスアシスト!」


「硝子ちゃんの中で、イメージとかは決まってるの?」


「今まで私たちは、二作のゲームを作ってきました。一つは去年の夏コミで販売した処女作『スワロウ:ストラテジー』、もう一つは冬コミで販売した『戦慄の黒薔薇』。これらの続編を出したいか、はたまた新作を出すか。皆は、どれがいい?私的には新作を出したいのだけれど……異論ない?異論ないよね?黙ってるってことはそういうことなんだよね!はい、今年は新作で〜す!ということで何か案はありますか」


「はいはーい!オレっち名案思いついたんだけど!」


「なんでこういう時だけ積極的に喋るの……ズバリ、アリシアの言う名案とは?」


「うちって結構戦闘ものが多いイメージだからさ、たまには趣向を変えて、バンドストーリーなんかどうでやしょう?バンドといえば青春の代名詞!題材にもしやすいと思うんだよな〜」


「吸血鬼ダークファンタジー。これは譲れないかもぉ」


「茨先輩、それ要するに黒薔薇の続編出したいってことですよね?やっぱり話聞いてないじゃないですか」


「てへへのへ」


先程灰花は、今まで二作の乙女ゲームを出したと言っていた。スワロウなんとかと、黒薔薇?だっけか。どちらも名前がかっこよく、絶妙に厨二心をくすぐってくる。


「白雪。今まで出した乙女ゲームって、どんな感じのなんだ?」


「ざっくり言うと、『スワロウ:ストラテジー』は、政府が秘密裏に結成した暗殺者のチームを題材にした作品で、『戦慄の黒薔薇』は吸血鬼一族の話。どっちも戦闘シーンがあるから、廉人君も入りやすいジャンルなんじゃないかな」


「なるほど。この部で出した作品ってことは、白雪がシナリオを書いてるのか。お前すげえな……プレイした人をキュンとさせるセリフとか、いつもどうやって考えてるんだよ」


「そっ、それはれんっ……もし好きな人が出来た時に、して欲しい行動が、自然と湧いてくるっていうか……」


なぜだろう、白雪が少しもじもじしているような……。


「バンドかぁ……それもいいけど、茨先輩の絵柄的に、あまり合わなくない?先輩の絵はどちらかと言うと、綺麗めだし。紅愛は何か案ある?」


「……別に、何でも」


「紅愛、いっつもそれじゃない。ったく、しょうがないんだから」


「そーゆうしょんは何かあるのかい?」


「そうねぇ……趣向を変えるって意味では、オフィスラブなんかどう?一味違う大人の恋愛とか、結構憧れるんだけど」


「ソシャゲだと即サ終ものだな」


「も、もしかしたらヒットするかもしれないじゃない。それに、発売するのはソシャゲじゃないんだから」


「ソシャゲで間に合う内容をわざわざ買うかぁ?」


「そんなに嫌ならもういいわよ!ふんっだ」


「ゆーて、バンドものも在り来りすぎなぁい?それこそソシャゲで間に合ってるっていうかぁ」


「そーよ。アリシア特大ブーメランぶっ刺さってるわよ」


「まぁ、私はオフィスラブも反対だけどぉ」


「皆オフィスラブ嫌いすぎですよ!」


「いばら先輩はダークファンタジーにこだわりすぎだっちゅーの!」


まずい、めちゃくちゃな言い争いになってきた。狼尾さんは無視してるし、どうにか鎮圧出来ないだろうか……。



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