第8話

「済まないアリス。仕事が急に立て込んで少しの間帰らなくてはならなくなった。馬車はやる。だから2人で行ってくれ」

 フレイさんは着くなりそんなことを言った。


「仕事……ですか」

 アリスは悲しく寂しそうな表情をする。

「ああ仕事だ。揉め事があったらしくまたアレだ……」

 呆れる表情で話すフレイさん。

「辞めることってできないんですか?」

「後継者もいないし、相手は私をご指名だ」

「…………」

「大丈夫だアリス。そんな心配しなくても」

「……そうですか」

「てなわけだから。じゃあなアリス」

 別れの言葉を告げるとフレイさんは森の中へ入っていった。

「なぁアリス。フレイさんは一体…」

「フレイさんはあの美貌からよく問題が起こる度に交渉材料としてその身体を使われてきたんですよ。本人もそこまで嫌がっている訳では無いので私たちに止める権利はありません」

 中世ヨーロッパ風の街並みだけでなく女性を物としてご機嫌取りとして使われるのはどこの世界も同じらしい。

 嫌がっていないではなく嫌がることが出来ないの方が正しいのだろう。

 胸糞悪いことだが俺が今ここで文句を垂れ流そうと何も変わらない。

「いつまでも気にしては居られません。早速動き始めましょうか」


 それからは途中にオアシスを見つけ休憩を挟みながら止まらず馬車を動かし続けた。

 交代交代で馬の手綱を引き走り続ける。

 ニホンの牧場で乗馬経験があったからか手綱を引くのもすぐに慣れることが出来た。



 そんな俺達は今フェスナ王国正門のすぐ近くまで来ている。

 普通10日かかる道のりを約5日で到着することが出来た。馬にはかなり無理を強いてしまったかもしれない。

 樹齢500年は言ってるそうな大樹の下に馬車を止め手網を離す。

「お疲れさん。今日もありがとうな。ミッチョ、クッキ」

 2頭の頭を撫でると鼻息荒くまだまだ行けますと言わんばかりの表情をする。

 ミッチョとクッキは俺がつけた名前だ。

 ミッチョは草を噛む時にミチョミチョと音も立てるから、クッキは俺がクッキーを食べたいから。

 我ながらセンスのある名前をつけれたと自負している。

「本当にこんなとこにほっといてこの2頭は大丈夫なのか?」

「すごく賢い子達なのでじっとしててくれますよ」


 フェスナ王国。

 7代目国王アストルフォ・ヴァン・○○が統治している。

 俺が最初に降り立った国、ミルエル王国と長い戦争状態であったがそこに突如謎のダンジョンが現れ戦争は冷戦状態にもつれ込んだ。

 約350年間冷戦が続き戦争状態である事を知らない人まで出てきているという。

 と呼ばれている。


 ―ダンジョン

 世界各国あらゆる場所から入ることが出来、全てが繋がっていると言われている。

 各階層には守護者が鉄壁の布陣を構え、それを突破しない限り次の階層に行けない仕組みになっていると言われている。

 ダンジョン内のモンスターはその土地の気候、湿度、幹部等の好み、食料の有無等で現れるモンスターが違うと報告されているらしい。

 ダンジョン内モンスターのほとんどは高額賞金が掛けられており倒せば数日は飲み食い宿くらし好き放題できる程は貰うことが出来る。

 しかし、ダンジョンに潜る冒険者の数は少なく、腕っ節に相当の自信がある者か一攫千金を狙う者この二択である。

 冒険者は地上に発生にしたモンスターを駆除や自分の冒険者カードの役職を利用した塾などで地道に稼いでいる人が多いとか。


「入国審査見たいなのはあるのか?」

「商人以外は特に無いはずです」

 なんで商人だけあるんだ?と思ったが聞くのはめんどくさい。入ればどうせ分かるのだから。


「これが……フェスナ王国!」

 俺とアリスは兵士の横を通り王国内に入った。

 広がるは中世ヨーロッパを想像させる石造りの建物数々。

 現代の風景で象徴的な電線や電柱、車なども一切無くそれなりに人も居るがとても空気が住んでいて美味しい。

 車の代わりとして馬車や竜車があちらこちらで走っているのが見える。

「すげぇ!本当に異世界だ!転生早々殺されかけたから、正直実感湧いてなかったけどこんな街並み見せられたら信じる以外の選択肢は無い!」

「その気持ちすごく分かります。然し声のボリュームをもう少し下げて―」

「やっぱりゲーム機とかは流石に無いよなぁ。せっかくの異世界だ。ゲームなんかに明け暮れてたら勿体無すぎる。やっぱここは冒険者として名声を上げ……」

 俺はこの異世界での自分の活躍が褒められる未来を想像し笑いニヤつく。

「よし。早速ギルドに―待てよ。冒険者カードって世界共通か?」

「基本共通ですがそれがなにか」

「いや、俺って一応は死罪を言い渡された罪人なわけじゃん。バレないのかなって」

「確かに……。けど心配ないと思いますミルエル王国とフェルナ王国は仲が悪く罪人の受け渡しとかは無かったはずなので」

「それなら大丈夫……なのか?」

「ええ大丈夫です。とりあえず今からギルドに行きましょう!」


 ギルド内は冒険者達によって昼間にも関わらず賑わっていた。

「今から低レベルのクエストでも受けに行きませんか?」

 テーブルに肘を置き顔を支えボーッとギルド内を見回してるとアリスがこんな事を不意に言った。

「俺みたいな駆け出しに倒せる敵が居るのか?」

 ここに居る冒険者を見てわかったが俺は装備が貧弱すぎる。皆鎧を着たり腰に剣を添えている。

 俺も一応腰に剣を添えてはいるが、持っているのは刃渡り7cm位の果物ナイフだ。

 用途は果物ナイフでは無いのだろうが、果物ナイフ以外の表現は思いつかない。

「このクエストを受けてきました!」

「っておい。俺は装備が貧弱だから最初はバイトでもって居たんだが……なんのクエストを受けてきたんだ?」

 いくら貧弱な装備で心は怯んでもモンスター討伐には憧れつい聞く。

「兎狩りです」


 今になって思い知らされたがこの世界は広い。俺はの概念がなんなのかよく理解していなかったのかもしれない。


「おいっ!おい!なんだよこれ!助けてくれ。助けてくれー!!アリス!アリスはどこだ!」

 街の裏門をぬけて少しした草原で俺の叫び声は響いていた。

「魔法は打てませんよ!売ったら兎がバラバラになって売れなくなるじゃないですか!もう少し逃げてください」

「そんな呑気なこと言ってる場合か!やばいやばい。なんで……なんで!この世界のうさぎは人参を飛ばしてくるんだよおおお!」


 兎といえば小さく、ぴょこぴょこと飛んで人参などを齧るのが一般的なイメージだった。

 が俺の中でそのイメージは完全に崩れた。

 こいつは体長約2m。そして走る。

 その短い足で人並みの速度で走ってくるのだ。

 マシンガンのように口から高速連射で人参を飛ばしながら。

 ブスブスブスと逃げ回る俺の周りにはもう数え切れないほどの人参が地面に刺さってしまっている。


「アリスこいつはどうやって倒すんだよ」

「人参を全て吐き出すと勝手に動かなくなります。コイツらは体内に人参を貯めといてそれで身体を動かしたり飛ばしてきたりします」

「なんだよそれ。意味がわかんねぇーよ!」

 叫びながらも全速力で走り回る。

「科学的にもまだ解明されてないモンスターです!報酬は少し弾みますよ!」

「報酬ってのは……命あっての物だからッ!」

「この兎の肉は部位によって硬さが代わり、変な臭み等はなく希少で刺身、唐揚げ、ステーキ等の幅広く使え愛されています」

「うるせえええぇ」

 ドンと衝撃と共に脚骨に人参がぶち当たる。

「痛て……ッ!」

 口内に血の味が染み渡る。

「やばい……もう……限界」

 フラフラと足がもつれて始める。

「このまま人参が刺さって死ぬのかな……転生して数日。俺の死因は人参による出血死か……」

 死を覚悟し倒れ込み天を見上げ大きく息を吸う。

 最悪な死を想像していたが人参は降ってこない。

 まだ息は切れ身体も悲鳴をあげているがムクリと起き上がる。

 うさぎの方を見ると……。

「ちょまちょま!牙が、前歯が。ち、ちく……かもうとしないで。ふ、服が。た、助けてください。飲み込まれちゃう」

 そこには兎がアリスを捕食している姿が。

「何やってんだああああああ」


「ありがとうございます、あのままだと私が玉にされてました」

「果物ナイフが通じて良かった……」

 俺はアリスを捕食中、兎の動きは鈍くなりそこに果物ナイフをズブズブと差し込んだ。

「もう疲れたし撤収」

「……いや、そのですね……帰りはしたいんですけど」

 両手で胸元を覆い隠し、照れ隠しの様に顔は赤く笑う。

「む、ふ、服が破れてしまったのでその服を貸しては貰えないでしょうか」

「はいよ」

 俺は服を脱いでアリスに渡す。

「ありがとう……ございます」

 アリスの横にある杖を眺める振りをしアリスの胸元をチラ見する

「借りといてなんですが、恥ずかしいので辞めてくれませんか?全く」

 俺の服で覆い反対を向けと指を突き刺す。

 仲が悪くなったって何の得もない、俺は素直に従った。

「着たかー?なら帰るぞー」

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